見出し画像

「Weather Report Tokyo」

本年は例年になく八月を
みんな忘れてしまったような

ここでいう初夏のうちほとんどが誤謬で
しかも身体に悪い

雨が降るって知らされてから人々に
買われた傘と開かれた傘

雨降りの日々の動物図鑑から
つがいの写真に丸をつけおり

かつていた地名をすこしずつ鳥に教えて
(鳥は覚えられない)

朝刊が濡れないように包まれて
届く世界の明日までが雨

枚数を数えて拭いてゆく窓も
尽きて明るい屋上にいる

電話帳でもここらはもう海じゃない。
都電の駅までふたりで歩く

約束はできないけれどまた行こう、
都下にちらばるプラネタリウム

明日の各地の天気予報がつぎつぎに
届いて電話の電池が切れる

「西。東日本各地に未明から断続的に非常に強い」

改札を出てから雨に濡れるまで
駅はどこから終わるのだろう

美しい言葉言いつつ僕たちは
カラオケにはいかない夜のうち

この人も嵐のあとの海岸に
打ち上げられたかたちで眠る

しかるべき作用であると思うけど、
こちらに至る煙草の煙

もう一度おいで、今度は晴れた日に。
鳥の名前もみんな分かるよ

都市がひとつの人格を持ち、滅び去り、
誰かに貸したままのSF

地図を正せばもう消えている場所だろう
ほら、こんなにも猫しかいない

人間の七割は水
小さめのコップ、静かにあなたに渡す

あやまたず夏を
(あなたが右手から溶け出す夏を)
振り切れば夏

〇〇〇〇〇
※『天気の子』を観て。歌集『光と私語』収録作を中心に編纂しました。


この記事が参加している募集

いただいたサポートで牡蠣を吸います。