PdMとしての専門性に関する考察
はじめに
先日、「プロダクトマネージャーに必要な3つの職能について」という記事を書かせていただき、その中で「求められる3つの職能」について述懐させていただきました。今回は、この3つの職能のうち「自分の専門領域を持っていること」という点について、考察を深めていきたいと思います。
なぜ、自分の専門領域を持つことが重要なのか
一般的にPdMは「プロダクトの成功に責任がある」と言われております。その責任を踏まえた役割として、プロダクトマネジメントトライアングルでいうプロダクトを取り巻く各ステークホルダー(開発者(Developer)、顧客(User)、ビジネス担当者(Business))の間に発生するタスクの空白を埋める役割が求められます。
端的に言うと、「プロダクトを成功するために必要なことは何でもする」ということになりますが、日々の業務の中でこれを素直にやっていくと各領域に対する浅く広い知識が身に付くことになる(綺麗な言い方をすると、ジェネラリストとしての専門性が身に付く)ものと考えられます。
その一方で、各ステークホルダーとコミュニケーションしたり、間(はざま)のタスクをこなす中で、各方面から得られる情報を元にプロダクトの行末を総合的に判断することやプロダクトに対して自分自身の意志を込めることができず、誰かの意見に引っ張られてしまうと、それはPdMという役割ではなくPjMに近い役割になると思います。
(もちろん、PjMも立派な役割だと思っており、卑下しているわけではございません。)
そうなったときに、上記でも述べた「プロダクトの意思決定を行う」や「プロダクトに意志を込める」スキルを醸成していく必要があるように感じるのですが、その部分が経験値として身についたとしても、第三者から見た際にその人のスキルを測る”ものさし”として提示することは難しいのではないかと考えました。
結局のところ、自分自身が関わったプロダクトの実績(どの程度のアウトカムを出せたのかが明示できる定量指標)でPdMの力量が測られることになり、PdMの純粋な実力だけなく関わっているプロダクトの筋が良いか否かという点(ある種の運による部分)が加点要素として乗ってくることになります。
本当にそれでいいのか?実際にそうなっているのか?違う道なないのか?
そんな問いが色々と浮かんでくるのですが、1つ仮説として思い立つのが、PdMとして一般的に求められるジェネラリストとしての専門性に加え、”1つ以上の自分の強み(スペシャリストとしての専門性)を身につけること”でした。
専門性で分かれる4つのポジション
一般的な話になりますが、現状のPdM市場の中では、以下に4つのポジションに関する募集が行われております。
テクニカル・プロダクトマネージャー
アナリティクス・プロダクトマネージャー(データ・プロダクトマネージャー)
プロダクト・マーケティング・マネージャー
グロース・プロダクトマネージャー
各々について、簡単に説明を添えておきます。
テクニカル・プロダクトマネージャー
【専門性】
プロダクトの方向性を技術的な観点からもジャッジメントできる役割
【狙い】
プロダクトの規模が大きく基盤に特化したチームが組成されている場合にそのチームの統括となるケースが多い。
統括プロダクトダクトマネージャーの右腕として、配置されるケースが多い。
【事例】
SmartHR
ReadyFor
アナリティクス ・プロダクトマネージャー
(データ・プロダクトマネージャー)
【専門性】
プロダクトの方向性をデータ分析の観点からもジャッジメントできる役割
データからプロダクトの改良点を抽出し、意思決定ができるスキル
【狙い】
データを主として扱うプロダクトの統括として配置されるケースが多い。
統括プロダクトダクトマネージャーの右腕として、配置されるケースが多い。
【事例】
MICIN
10X
プロダクト・マーケティング・マネージャー
【専門性】
プロダクトをどのように売るかを検討し、そのプロダクトを売る方法を決める役割
ビジネス、かつマーケティングの観点で意思決定ができるスキル
【狙い】
プロダクトの規模が大きくなりPdM一人体制だとマーケティング・セールスの検討に時間をかけることができなくなった組織で配置されることが多い
PdM、セールス、マーケティングの各ポジションの間で責任の所在がわからない領域が発生した場合に配置されるケースが多い
【事例】
GAFA
SmartHR
等、多数
グロース・プロダクトマネージャー
【専門性】
プロダクトの成長に責任をもつ役割
データ分析をもとに改善要素を見出し、プロダクトをグロース(ユーザー増、収益増など)させるための成長戦略を検討し、それを実行できるスキル
【狙い】
一定のプロダクト収益が得られ、成長戦略を練り、それを愚直に実行することが競争優位に繋がることがある程度自明な組織でグロースチームが組成され、その中の統括として役割が配置されるケースが多い。
【事例】
エムスリー
自らの専門性を決定する方法
スペシャリストとしての専門性を磨いていく前に、まずは”自分がどの専門性を身につけたいのか決める”プロセスが必要になると思います。意思決定をするための切り口として、以下3点を挙げました。
市場に存在する職種から選ぶ
過去の経験、持っている資格・学位を起点に選ぶ
情熱を注げるものを選ぶ
この3点で言うと、「2.」「3.」のいずれか(もしくは両方)の切り口から専門性を決定するプロセスをお勧めしたいと思います。もう少し突っ込んでお伝えすると、キャリアの若い20代、30代前半あたりであれば「3.」のみでもゼロベースで専門性を磨いていくことに対するリソースを割けると思いますが、30代後半以降になると、ライフステージの変化に伴い自己研鑽に対するリソースを割きづらくなる反面、経験による比重が増してくるので、「2.」「3.」の両方の視点で決めていく形が効率的だと考えます。
「1.」に関しては、過去の経験や実績による結果として、その職種が当てがわれることが多いと考えているため、その職種になることをゴールとして置くことについてはあまり推奨しないという考えに至りました。
専門性を身につけるためには
身につけていきたい専門性について決定した後に、"その専門性をどのように身につけていくか"、という問いが浮かび上がってくるのですが、色々思考を巡らせた結果、以下の2点でしか、専門性を醸成し第三者に認めてもらうことは難しいのではないかと考えました。
成功体験(実績)を積む
権威性のある資格・学位を取得する
成功体験(実績)を積む
主に本業や副業を通じてになりますが、専門性を磨きたいと考えている領域の役割を任せてもらい、自らが主体となって企画・実行したという実績を残すという方法が一つあると思います。この場合、その領域を経験したというだけでもある程度の専門性を示すことが可能ですが、経験に加え、会社や世の中に対してどの程度インパクトを残せたのか、第三者に示せるだけの結果を残し、納得していただくことが非常に重要になってくるため、誰から見ても説明のつくアウトカムを意識して、日々取り組む必要が出てきます。取り組む方法としては、専門性を極めたいと考える領域の役割を任せてもらうようにマネージャーに相談するところから始めてみると良いと考えます。
権威性のある資格・学位を取得する
続いては、主に自己研鑽を通じて、権威性のある資格だったり学位を取得することで、第三者が受容しやすい専門性を身につけるという方法があります。ここで一つポイントとなるのが「権威性のある」という部分なのですが、例えば、民間企業が独自で実施していたり、そもそもの受験者の母数が少なかったり、認知度が低かったり、難易度が低かったり、といった資格を取得しても専門性をアピールするには少しもの足りないと思います。資格取得を検討する場合は、その資格を取得することによってどのようなメリットが及ぼされるのかを事前に検討してみることをお勧めします。
また学位に関しては、大別すると大学と専門学校に分けられると思います。各々メリット・デメリットは存在しますが、結論を述べると、どちらが良い悪いということはないように見受けられます。今のご自身の状況や指向と照らし合わせて選択していただくことが良いと思います。
最後に
PdMの専門性に関して色々と考察を重ねて行きましたが、以下の2点について、心掛けた上で日々の生活に臨んでいただくとPdMとしてのキャリアがより充実したものになるのではないかと考えました。
日々の業務を通じて、ジェネラリストとしての専門性を磨き上げる
自己研鑽を通じて、スペシャリストとしての専門性を新たに築き上げる
また、少し時が経てば、考え方が変わるかもしれませんが、私自身も上記2点を心掛けながら日々の業務に臨んでみたいと思います。