きこりリターンズ vs 主婦業 業務改善と共感のはざま
「ああ、いそがしい! いそがしい!!」
旅人が森を通りかかると、きこりが懸命に斧を振っていました。
「ああいそがしい、いそがしい!!!」
しかし、その一生懸命さに対して、木はいっこうに倒れません。
よく見ると、きこりが持つ斧に鋭さはなく、遠目でもなまくらなことがわかりました。
そこで旅人はきこりにはなしかけました。
「きこりさんきこりさん、ちょっと斧を振るのを休めたらどうですか?」
「なにいってるんだ! そんなひまはないんだ!」
「いえいえ、一休みしろというのではありません。ちょっと座って、斧を研いで見てください」
「なんだって、だからそんなひまは・・・」
「まぁまぁだまされたと思って。さいわい私は研ぎ道具をもっておりますので」
きこりはしぶしぶと手を止めました。いつもなら少しでも休養をとるところですが、今回ばかりは茶を飲む代わりに斧を研いで見ました。
するとーーー
「おおすごい!! みるみる木が切れていくぞ! ありがとう、旅人さん」
「いえいえ、よろこんでもらえてうれしいですよ」
ーーーーーーーー
もうすこし歩くと、森を抜けて一つの家が見えてきました。
「ああいそがしい、いそがしい! ああいそがしい」
するとそこには主婦が洗濯物を一生懸命に干していました。
「ああいそがしい、いそがしい」
「これはこれは、せいがでますね」
旅人は一生懸命な主婦に声をかけました。すると主婦は
「もう! つぎから次へと次へといそがしいよ! 洗濯物に食事、家の掃除に育児! もうきりがないよ!!」
「それは大変そうですね」
「まったく、木だけきってればいい旦那と違ってこっちはいそがしいったらありゃしないよ!」
どうやらあのきこりとは夫婦のようでした。
「そうなのですか」
「そうなのよ! こっちはもうつぎから次へと」
そういうとその主婦はいかに主婦の仕事がやまのようにあり、てんてこまいかを旅人に滔々としゃべりました。
その時間はおよそ一刻ほどでしょうか。ようやく、主婦が一息ついた頃、旅人は主婦の仕事がどんなものかをある程度把握していました。
そこで
「いや、ご婦人、大変そうですが、こうやれば・・・」
そう口にしようとした時、主婦はそれを遮りいいました。
「わかったような口を聞かないでおくれ!」
「は、いえ、なにかアドバイスできるのではないかと、こう見えて、いろいろな国で見聞を広めてきておりますから」
「主婦の仕事はそんなかんたんじゃないんだよ! 一端の口を聞こうとしないでおくれ!」
そういうと、主婦は家に入ってしまいました。
「ああ、ご婦人、そろそろ雨が・・・」
旅人は空を読み、これからおそらく雨が降るだろうことを伝えたかったのですが、すでに主婦はいませんでした。おそらく洗濯物は雨に打たれてしまうでしょう。
せっかく時間をかけてほした洗濯物がパーになってしまうでしょう。
しかし、もしかしたら、それはそれで主婦は満足なのかもしれないな、と旅人は思いました。
そして、主婦がきっと求めていた言葉を残して、去ることにします。聞こえないとわかっていても
「大変ですね」
最後まで読んでくれて thank you !です。感想つきでシェアをして頂けたら一番嬉しいです。Nazy