見出し画像

”日本好き”フランス人に困惑する

パリには日本好きなフランス人がたくさんいます。

どこの出身かと聞かれ「日本」と答えると、日本大好き!、日本に行くのが夢なの!、バカンスで日本に行って最高だった!こんな素晴らしい国はないよね!、日本食大好き!毎日食べれる!などなど概ねポジティブな反応をいただけます。

フランスに憧れる日本人がたくさんいるように、日本に憧れるフランス人も思った以上にいて、今のところ日本人ということで特別に嫌な思いをしたことはないし、会話のきっかけにもなる。自分の国に興味を持ってくれている人がいると言うのは嬉しいことですし、異邦人としては生活しやすくありがたいなと思います。


しかしこちらを困惑させるタイプの”日本好き”なフランス人と出会うこともあります。それが先日乗ったタクシーの運転手さんでした。


タクシーに乗り込み行き先を告げると、日本人でしょ?と尋ねられて、会話が始まりました。

日本食が大好きだという運転手さん。

日本食は健康に良いから大好き!新鮮で重くない!夜食べてもすぐに寝られる!化学調味料を使っていない自然な味付けで、繊細!刺身の切り方のYoutubeを見て感動した!日本人って本当に真面目で丁寧で細部にこだわりまっすぐで素晴らしい!


と、日本食への愛を熱烈に語ってくれます。

フランスにおける日本食のイメージ戦略の成功にはいつも感心してしまいます。パリの日本食レストラン何軒かでアルバイトをしましたが、お店によっては化学調味料たっぷり。かなり高価なお店でもこんな原材料使ってるんだ!と驚くこともあって、日本食=自然で健康、というイメージが先行しているのが興味深いです。



運転手さんの話は日本食談義から発展し、さらに続きます。

日本人は嘘をつかないし、特に日本人女性は素晴らしい!日本人女性はすごく一途でパートナーに誠実で裏切ることがない!いつも笑顔で優しくて、気配りができて、家のこともきちんとする!日本人女性と結婚したい!日本人女性と結婚できたら最高だ!

となってくると困惑してきます。すごいステレオタイプです。

この運転手さんが特殊なわけではありません。日本人女性に対するこういう幻想やファンタズムを抱いているフランス人に出会うことは決して珍しいことではありません。三歩後ろをついてきそうな日本人女性のイメージはどのようしてパリの地でここまで浸透してしまったのでしょうか?昔の映画かアニメの影響でしょうか。

優しくて気配りができ誠実だなんて、一見褒められているようなのに、なんとなく従順で扱いやすい女だと言われているように感じ、全力で否定したくなります。たとえポジティブな内容でもステレオタイプで一括りにされ押し付けられると不愉快な気持ちになります。



運転手さんの話は続き、なかなか日本人女性と親しくなる機会がないと相談されます。

パリにいる日本人女性はみんな警戒心が強いみたいで、なかなか親しくなれない。やっぱり誰かからの紹介じゃないと難しいのかな。道で声をかけてもうまくいかないし…。


と、ここで思わず
道で声かけるのは良くないと思う!怖い!

と、ツッコミました。
もちろんナンパされたことがきっかけでお付き合いし結婚した日仏カップルも知っています。でも、道での素敵な出会いは稀(独自調査)。道で声をかけてくるフランス人は正直面倒だしやめてほしいなと思うことの方が多いです(当社比)。


運転手さんの話はまだまだ続きます。

フランス語を話せる日本人女性に出会うのがさらに難しいんだ。英語なら僕もちょっと話せるけど、英語もできなくて日本語しか喋れないって日本人女性も多い。それにフランス語を喋る日本人女性には大抵すでに付き合ってる人がいるんだよなあ。でも言葉が通じないんじゃ関係が発展しないから難しい。


なんて言うので、
じゃあ日本語勉強すればいいんじゃないですかい?
と聞いてみると、


もちろん!だから日本語勉強するための本を買って使えそうなフレーズを書いて覚えたこともあるんだ。こんにちは、ありがとう、タクシーです、それから愛してますってね。あははは!



運転手さん全然悪い人じゃないんだろうなと思います。終始笑顔で嬉しそうに話していて、庶民的な日本食屋さんからちょっと高級な日本食レストランまで色々食べ歩きしていて詳しい。美味しいレストランを教えたらちゃんとレストランの名前をメモしていて、本当に興味があるんだろうなと分かります。だからこそ、困惑してしまうのです。なんと返していいのか分からない。でも例えば「あなたが日本人だから、あなたのことが好きです」なんて言われたら絶対嫌です。カテゴリーでしか相手のことを見ていないのでは、良い出会いを得ることはできないのではないでしょうか。



そしてもう一つ、困惑するアティチュードがあります。


パリに住んでいると絶対聞かれる質問が「美味しい日本食レストランはどこ?」または「美味しいお寿司屋さんはどこ?」。この質問が結構曲者で、日本と比べてしまうとなかなか味とお値段の両方で満足できるお店がないので答えにくい質問です。

もちろん件の運転手さんからも聞かれました。

美味しいところが思いつかないので、日本食より中華料理と韓国料理を食べに行くことが多いと答えると、始まりました。


中華料理は嫌い!日本食は身体に良いけれど、中華料理は味付けも濃いし何が入ってるか分からないし、油っぽくて重たい。日本食が流行ってるからって中国人がやりだした日本食屋が美味しくない!中国人は嘘つきだし、こっそりちょっとずつ他人のものを横取りする。日本に旅行に行きたいと思っていたけれど、最近では中国人ばっかりになって日本が変わってしまったって聞いている。日本人女性となら結婚したいけど、中国人女性とは絶対に嫌だね。結婚してビザが取れた瞬間いなくなるだろう。やっぱり日本人女性が1番だよ。正直で優しくて。中国人女性だとこうはいかない。


なぜか、日本への愛情を強調するために、中国を貶す人。結構出会うことがあるのです。もっとストレートに「日本人なんだ!中国嫌いでしょ?僕も嫌い!」なんてニコニコ言ってくる人もいて、ギョッとするとともに辟易します。

共通の”敵”をつくって仲良くなろうという手法なのでしょうか。でも◯◯人だから好きとか、◯◯人だから嫌いとか、どっちもすごく失礼なことだと思います。


日本人女性にもいろんな人がいるし、中国人女性にもいろんな人がいるからね、とやんわりと否定しましたが、でもこういうところでビシッと怒れないから日本人女性が舐められてしまうんだろうなと、書きながら改めて反省しています。
でも”日本が好き”という好意のオブラートに包まれているから、なんとも対応に困ってしまうのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?