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狂気の大傑作! 『ポゼッション』(1981)

久しぶりに魂を揺さぶられるような、映画を一本見たと言うのでは足りない、ひとつの経験を得たと言える力強い作品に出会えました。
こういう作品に出会えることがあるからやっぱり映画はやめられません。見たことがないもの、経験したことのないものとの出会いに、全身に光を注ぎ込まれたかのような目の覚める思いです。


『ポゼッション』
はポーランド出身のアンジェイ・ズラウスキー監督による1981年の作品です。(サム・ライミ監督の同名作品とは異なりますので要注意)

どこか奇妙な夫婦の様子に、はじめは『ベティ・ブルー』的な展開を予想しました。ただし『ベティ・ブルー』ではベティが猟奇的だけど彼氏のゾルグはまともな一方、『ポゼッション』では夫婦がどちらも猟奇的。強いて言うならば妻アンナが動的狂気、夫マルクは静的狂気か。
しかも二人には小さな息子までいると言う地獄絵図。子どもの生活が心配になります。悪い予感がします。マルクの長期単身赴任の間に、どうやらアンナは他の男と会っていたようです。

アンナとマルクが見る者に恐怖を与える狂気なら、第2の男ハインリッヒは陽気な狂気。コミカルな動きと激しく胸元を開けたワイシャツがクスッと笑えて救われます。

しかし物語は見る者の予想の斜め上を行く展開へ。張り倒されるような衝撃です。

狂愛にデヴィッド・リンチを足しさらにクローネンバーグを足して割らない、ハードで狂気で美しい世界観。

狂気の世界を支える音楽も素晴らしい。金属音が人間の動きとリンクするとこんなにも不安を煽られるとは。

カメラワークも秀逸。時に見下ろし、時に見上げるカメラのフレームが強い印象を与えます。カメラフレームの傾きに、人物を追う荒いカメラの動きに、精神の乱れが重なります。引きと寄りの使い方に目眩を覚え、神経質な左右対称の構図にキリキリと精神を締め付けられ、そしてハッと目を見張る美しいシーンの数々に魅了されます。

ともすれば掴みにくい物語なのですが、しかし土台を支える技術が確かなのでしょう。目が離せません。

狂気の世界なのですが、衒いがなく、狂人ブっている訳じゃない。どこまでも素直で誠実な作品だと感じました。

地下鉄でのたうち回るあのシーン、現実の世界では理性が邪魔してできないだけで、誰の頭の中にでもこんな狂気が渦巻いている瞬間があるのではないでしょうか。少なくとも私は驚きよりも共感に近い感情を抱きました。

そこにあるのは見せ物としての空っぽでフリだけの狂気ではなく、真摯に向き合った結果行き着いた狂気なのです。いや、誠実に向き合い続けた結果、行き着く先には狂気しかなかったと言うべきか。


アンナを演じるイザベル・アジャーニの狂喜乱心の地下鉄シーンが有名ですが、むしろ無表情や一瞬みせる小さな笑顔、座っているだけのシーンや見上げるだけのシーンに、そこはかとない異常さが込み上げて来ます。蒼白い美しさが尋常でなく、怖い。
イザベル・アジャーニってこんなに演技派な役者だったのか!と感動しました。


無表情にロッキングチェアに揺れるマルク演じるサム・ニールの静かに見せる猟奇性も圧巻です。イザベル・アジャーニに食われていない存在感があります。
まさかジュラシックパークで頼れる学者を演じていた役者と同一人物だったとは。驚きの一言です。

映画を見終わって数日、未だに全く解釈出来ないのだけれど、間違いなく圧倒的に、初めての映画体験でした。素晴らしい!

果てしなく個性的な作品なので、好きな人は心底陶酔し、嫌いな人は嫌悪感を抑えられない作品だと思います。
予告編を見てみてピンと来た方は、ぜひ。



いつか自分が映画作るとき、物語としてはもちろん、音楽や色彩、構図やカメラワークなどスタッフに見せて参照するならこの作品。インスピレーションがわき創作欲が揺さぶられます。

暇なときによく、人生のベストシネマランキング10を考えているのですが、常連が並び気味で新鮮味にかけていたリストに久しぶりに新しい作品が加わることになりました。

本当に、映画って素晴らしいな!



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