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『her/世界でひとつの彼女』から考えるセクシャリティ

面白くなかった映画の感想は普段書かないのですが、これはどうしても書きたくなりました。ネタバレでしかありません。ご了承くださいませ。


『her/世界でひとつの彼女』

奥さんと1年以上別居するものの、離婚届にサインできないでいた引きこもりがちなセオドアは、新開発の人工知能型OSサマンサとの会話を通して、次第に声だけのサマンサに惹かれていく。



劇的なラストへと誘導するこの予告編の編集とナレーション、

”見たことのない愛のカタチ”

というフレーズに期待して見ると、間違いなくがっかりします。

人工知能型OSに恋するという発想の映画は公開当時まだ珍しく(いまでも?)耳目を集めたと思います。

結局そのときは観なかったのですが、昨夜たまたま拝見。ガッカリでした。


2次元のキャラクターと結婚した男性もいるくらい、恋愛のかたちが多様化している現代こそ、我々が直面する現実の主題として対峙し、そこからどのような一歩踏み込んだ見解、固定概念を脱ぎ去った新しいビジョンを見せてくれるのかに興味があったのですが。斬新なテーマを扱っているのに、一切新しさと深みがなく、肩透かしな映画でした。


セオドアはOSと恋していろいろ学んで、別れて、結局最後には同じアパートに住む親友で元カノのエイミー(人間)に会いに行くって‥‥‥

”人はひとりでは生きられない”

とか

”大切な人は実はもうあなたの1番近くにいるんだよ”

みたいな、何千回も聞いてきた耳タコのオチで落とすなんて、残念過ぎる。


”もう3次元の人間なんて愛せない!他のOSをダウンロードしてやる!”

とか

”もう人間もAIも信用できない。僕は一生ひとりで生きる!といって引きこもり、天涯孤独に、でもひとりきりで限りなく充実した人生を過ごす”

とか

既成概念を超えるような、これまでの当たり前では当たり前に対処できなくなるような、新しいものがみたかった。

OSとの恋ってのはただの客引きフレーズで、その辺によくある3流恋愛映画と変わりませんでした。


ただ、スカーレット・ヨハンソンの声と喋り方はめちゃくちゃ良いです。OSサマンサ流・相手を魅了する会話術には学ぶところがいっぱい。なにか言いかけて、止める。恥かしがって言わないと見せかけて、素直な好意をサラッと相手に伝えちゃう。こんなの好きになるに決まってる!基本的にサマンサはいつでも素直なんですね。葛藤する想いを葛藤ごと変に隠したりせずに伝える。サマンサのお喋りのテクニックがうますぎて、これだったら相手がOSでも恋しちゃうわ!と思わせるところだけが、この映画を支えるリアリティでした。




映画よりも、実際にキャラクターと結婚式を挙げた方の話の方が考えさせられます。


それから、以前インスタグラムでたまたま見たこの投稿で、「え!」と驚いた自分にガッカリしたことがあります。

フィクトセクシャルっ知ってますか?



わたしは自分で自分のことをオープンでリベラルな考え方の持ち主だと思っていました。

ところが「2次元のパートナーがいる」という部分を読んで、「え!」と一瞬驚き、その自分の反応に、さらに驚きました。

漫画やアニメのキャラクターが好きなのはわかるけれど、架空のキャラクターのみに性的魅力を感じるセクシャリティがあり、そして架空のキャラクターが "付き合っているパートナー" になるとまでは想像していませんでした。

無知はしょうがないけれど、自分の想像外のセクリャリティに対して、反射的に距離を取ってしまった自分の反応にはガッカリしました。


人工知能とのやり取りは、プログラムされたものだとしても、自分以外のものとのやり取りがある。

だけど2次元のキャラクターとの関係性はどうやって発達していくのだろう?キャラクターのパーソナリティーや過去など、キャラクター制作者から提供されている情報外のことは全て自分の頭のなかで作られていくのだろうか。そうなると、突き詰めると自分と自分との関係になるのでは?他者との関わりという面倒だけどめちゃくちゃ面白い部分が味わえるのだろうか?でも、そもそも恋愛しないといけないわけではないし、1人で生きてもいいし、動物を可愛がってもいいし、たくさんパートナーがいてもいいし、人生の過ごし方は人それぞれだよな、と考えさせられました。とにかく恋愛というのはどんなカタチであれ、本人とパートナーが幸せならなんの問題もなく、他人が干渉することではないと思うのがわたしの基本スタンスですが、自分も思ったより自分で築いてきた既成概念の中で思考を巡らせていたんだなと、気づかされました。


次は『ラースと、その彼女』(ラブドールと付き合う男性の話)を観てみようかな。





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