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『ソー ラブアンドサンダー』 マーベル流B級コメディ

他シリーズとのコラボレーションが激しく、予習作品が多すぎた『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』と比べると今作はソー三部作とアベンジャーズシリーズのエンドゲームまでの流れをおおよそ観ているだけで大丈夫。
ただ予告編を観ると誰だか思い出せない登場人物もいたので、サッと主要な登場人物を振り返ってから映画館へ行きました。


振り返って気づいたのですが、マーベル作品って3、4年前に観た作品にも関わらず内容がほとんど思い出せません。登場人物もタイトルになっているヒーロー以外はほとんど記憶に無し。印象的なシーンなども一切蘇ってきません。

映画を見ている間は十分に楽しませてくれるのだけど、映画が終わるや否や心地良いくらい綺麗さっぱり何も残らないというのが、王道エンターテインメント作品のセオリーなのかも知れません。
現実への問題提起もないし、人生観が揺さぶられることもなければ観賞後に考えさせられることもない。そこを現実逃避として大いに楽しめるか、またはくだらない時間潰しに過ぎないと感じるかで好みが分かれそうです。




予告編でも”マーベル1ノープランなヒーロー”と謳われている通り、シリアス度の低さが魅力のソーシリーズ。

今回の『ソー ラブアンドサンダー』はさらに輪をかけてギャグに走った作品でした。これはもはやヒーロー映画ではなく、ギャグ映画でしょう。

誰でも楽しめる、もしくは低級とも言える分かりやすいギャグの連発が楽しく、「歯医者に行け!」のシーンは特に面白かったな。でもこういう笑いを笑えない人には寒すぎて耐えられないかも知れません。


驚くのはストーリーの適当加減。
とにかく行き当たりばったりで進んでいく上に、行き当たる度にポンポン解決案が出てくる気軽なノリはB級作品そのもの。それでも莫大な資金が投下されているのでしょう、パッケージはA級です。


あとはマイティ・ソーに扮するナタリー・ポートマンが出てくる度にどうしても違和感が拭えず、ヒーロー役としてはミスキャスティング感が否めなかったのが惜しいところでした。いや、むしろソーのあのコスチュームを違和感なく着こなせるクリス・ヘムズワースが凄いのかも。


見逃せない映画ではないけれど、それなりに笑える作品ではあります。音楽が良いのでもしも観るなら映画館の立派な音響で観るとより楽しめると思います。





※ここからはネタバレです。


おそらく一番賛否が分かれるのは、最終決戦で子どもたちを即席兵士に仕立て上げる部分ではないでしょうか。
子どもだって守られるだけじゃダメ!自分たちで闘おう!自分の身は自分で守る!自分の国は自分で守る!と言われればそうかも知れないけれど、子ども兵士という絵にはモヤっとしました。

最後のシーンでも養子の小さな女の子と共に武器を手に取り戦いに行くソー。
悪しきを挫き弱きを助ける風なのですが、でも弱い方が善とは限らないし、そもそも善と悪とは同じコインの裏表だったり、立場が変わると見方も変わるもの。
誰に善と悪を決める権利があるのか?ソーって確かに強いけど独善的でもあるし大丈夫か?でも一応神様だしな、といろいろ考えてしまいます。


最近アニメ『コードギアス』を見終えたばかりで、憎しみの連鎖を終わらせることや戦争を止めることの難しさ、世界平和の定義とその実現の難しさについて考えを巡らせていただけに、次はソーvsゼウスになるんだなという展開には焦燥感を覚えました。

常に悪役がいて戦い続けないと成立しないのがヒーロー映画の性だとは分かっていても、ちょっと虚しい。
話し合いでなんでも解決できるのが平和的正解かどうかは分からないけれど、暴力による殺し合いよりは断然そっちが良い。
せめてフィクションの世界ではドラスティックな平和的解決方法や、辻褄が合わず実現不可能でも良いから新しい世界のヴィジョンを見せて欲しいなと思うのだけど、さすがにマーベル作品にそこまで求めるのは酷なのか。
自分が見るべき作品はヒーロー映画ではないのかも知れないなと思いました。


あとミニ・ツッコミをひとつ。
ソーの斧ストームブレイカーさえあれば、宇宙の中心にある、最初にたどり着いた人の願いをなんでも叶えてくれる場所に入れるというのはセキュリティが甘過ぎないかと心配になりました。
これまでは大願を叶えるためにたくさんの石を集めたりしなきゃダメだったのに、今回は斧一本で良いというお手軽さ。ソーは今までそのことを知らなかったの?そのお願いの権利もっと他に使い道はなかったの??と考え出すと疑問がつきません。


でもまあこういう作品は細かいところにカリカリせず、友達と一緒にツッコミでも入れながら肩肘張らず気楽に観て、すぐに忘れてしまうのが正しい楽しみ方なのでしょう。

『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』を観た時に、もうマーベル作品はお腹いっぱいだなあと思ったにも関わらず公開初日に『ソー ラブアンドサンダー』見に行ってしまったぐらいだから、なんだかんだいいつつマーベルの世界観には中毒性があるのだと思います。

何も考えないでよい作品も嫌いではありません。



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