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仕事の話 : 外国人として働く価値とは

昨日、撮影の仕事のあと先輩アシスタントMからお褒めの言葉を頂戴しました。よく頑張ってくれてるってわかってるよ、と。

昨日の撮影はかなり大きなお仕事でした。某有名ブランドのキャンペーン広告と動画の撮影です。午後の初めまではなかなか順調に進んでいたのですが、最後のショットを撮っている最中にライティングが変更になりました。その時私はスタジオの外で余っていた機材を片付け中。他の2人の先輩アシスタントがフォトグラファーについていました。
早く上がれるように、使わないであろう機材を先に片付けておくようにと言われていたのですが、急遽いくつかの機材をもう一度組み立てることに。慌てて必要な機材をスタジオ内へ運びます。

こういう突然の変更があり、急いで対応しなければならず、しかも外へ出ていたため撮影の流れが読めていない時、ついついパニックになってしまいます。
パニックになっていると、いつもより余計にフランス語の聞き取り能力が低下して、簡単な指示すら間違え足手纏いになってしまいます。


撮影の仕事は時間との勝負です。途中で急な変更がある時は特にチームの"テンポ"が大切だとMから言われました。それぞれが一秒でできることを0,5秒でできれば他のことをする余裕が生まれる。今日はライティングの変更に10分かかった。早い方だったと思う。でも5分でできるアシスタントもいるかも知れない。急な変更の時、しかもフォトグラファーが「なんか違う」と言うだけで何を求めているのか明確に言語化してくれないような時、すぐに代替案を出せることがアシスタントの腕の見せ所、良いテンポで動くことがチームの腕の見せ所だと言います。


まるでコンマ1秒を争うアスリートのようですが、本当にそれくらい瞬発力を求められる仕事です。現場のムードのためにも、早く動くことは大切です。ダラダラと時間がかかると、フォトグラファーもモデルもダレてしまい、チーム全体の士気が下がってしまいます。その場の雰囲気は写真にも写ってしまいます。
撮影スケジュールは分刻みで組まれていて、10分余計に時間がかかってしまうと、残りの撮影に皺寄せがいってしまいます。膨大な予算が注ぎ込まれている撮影、撮りこぼしは許されません。
フォトグラファーにとっては自分の名前が残る大切な仕事ですから、時間がないからといって妥協は許されません。
セレブリティーやスター級のモデルとの撮影の場合、モデルの撮影時間はきっちりと決められています。時間超過してしまうと高額な時間外料金が発生します。予算の上でもダラダラ時間をかけることは許されないのです。

だから聞き取れずみんなよりワンテンポ遅れてしまうと確実に足を引っ張ってしまいます。時には簡単な指示を聞き逃してミスをすることもあります。

日常生活では特に問題のないくらいのフランス語力がありますし、生活の中ではわからなければわかるまで聞き返すことができます。

でも撮影現場は違います。
緊張感のある現場で動きながら、ガンガンに音楽が鳴っている中、マスクをつけたフランス人の指示を確実に正確に聞き取るには集中力が求められます。聞き返せばその間にもう他のアシスタントがすぐに動いています。私だけがポツンと動けずにいるのは辛い。だから必死になります。
フランスに住んでいるのは自分の選択で、誰かに強制されたわけではないのでフランス語のことを言い訳にはできません。聞き取れないのなら聞き取れるように勉強するしかない。それに撮影によっては会話の中心が英語のこともあります。外国語で働くことは特別なことではないのです。


昨日の撮影中のライティング変更の時も、足手纏いになっているのを感じていました。

撮影後、ああ、またやってしまったなあと落ち込んでいたのが伝わったのか、第一アシスタントの先輩Mが褒めてくれたのでした。

難しい指示を出してるのは分かってるし、僕は声も小さいから聞き取りにくいこともあるだろうけど、それでもちゃんと動いてくれている。3ヶ月前にできてなかったことが、今は自分で気づいて動くようになってるよと、他のアシスタントの前で言ってくれました。


帰りはその先輩Mとパリまでタクシーをシェアしました。そこでまた改めて仕事の話になりました。
私たちは第1アシスタントのM、第2アシスタントのN、第3アシスタントの私、そしてoperator numeriqueのF(撮影中にパソコン周りのことやソフトウェアの操作、データの管理などを担当する人)の4人で同じフォトグラファーのアシスタントチームとして、頻繁に仕事を共にしています。


みんなの前でちゃんと褒めておきたかったんだ。チームとしてNanaoのことを信頼しているし、それをみんなの前で示すことも大事だと思うから。
もう十分長い間一緒に働いて来たじゃないか。Nanaoは良い仕事をしてくれているんだから、良いアシスタントだと自信を持っていいんだよ。
僕はチームメンバーそれぞれが自分らしく心地よく働いてほしいと思っているから。自信を持つことが大事だよ。
とMは言ってくれます。


でもやっぱり時々フランス語が聞き取れないことあって、迷惑じゃないかなあとか、わざわざ外国人と働かなくともフランス人との方がやりやすいよなあとか心配になると答えると、

僕たちのチームはみんな違うからいいんだよ!性格も全然違うし、それぞれ似たもの同士じゃないから、他のメンバーが持っていないものを与え合うことができるんだよ。だからお互いに学べるんだよ、と。

それでも私は反応が遅れる時が多くて、しかもパニックになると余計にフランス語聞き取れなくなるんだよねと言うと、Mが言いました。


前から思ってたんだけど、Nanaoが迷ったり止まったりする時って、例えばフランス人同士だと育ってきた環境とか文化が近いから無意識のうちに共通認識がある。だから、〇〇と言われたら自動的に△△するところが、Nanaoは違うバックグラウンドを持っているから〇〇って言われた時に△△以外に□□とか◎◎とか、フランス人だと思い付かないような他の方法が見える。だから迷って止まってしまうんじゃないかなって考えてたんだよね。
でもそういう時こそ、自信を持って、自分らしくNanaoのやり方でやってくれたら、フランス人の僕たちには思い付かなかったような、もっと良い方法を僕たちに教えてくれることになるんじゃないかな。


なるほどなあ!と驚きました。
自信を持つことって自分自身のために大切だと思っていましたが、自信を持って行動することで、他の人に新しい価値を提供することもできるという発想はありませんでした。

それに指示を出して反応が遅い人に対し、この人には自分には見えていないものが見えているから遅いのかな?と考えることができるところが本当にすごいなと思います。

外国人と働く現地人の鏡のような発想ではないでしょうか。


語学力だけでなくアシスタントとしてもまだまだ足手纏いな私ですが、できていないところは注意し伸ばしてくれ、ミスをしても次の機会を与えてくれる、そして一緒に働くチームとして信頼をよせてくれ、しかも何か新しい価値をもたらしてくれる存在として期待してくれている。すごい先輩だなあと思います。

多様性多様性と言われる世の中ですが、実際に多様なメンバーと働くことになると、短期的にはメリットより大変なことの方が多いのではと想像します。言葉が通じにくかったり、阿吽の呼吸で分かり合えないことも多いでしょう。多様性のあるチームのメリットを得るにはある程度の寛容さと長期的な信頼関係が必要なのです。そしてその寛容さを持ち、長期的な信頼関係を築こうとしてくれる人は、存外多くないように感じます。


一外国人として、こんなチームに入れて本当に有難いなと思います。


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