連載小説「オボステルラ」 【第三章】11話「その男の正体」(3)
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11話 その男の正体(3)
「あ、ナイフちゃん、この前はどうも。大丈夫だった?」
いけしゃあしゃあとナイフに声をかけるヒマワリ。ナイフは苦々しい顔で答える。
「おかげさまで! ちょーっとだけ、動けなかったわよ」
「オダイジニ…、あ、そうだ…」
そう言ってヒマワリは腰の袋をゴソゴソと探る。また何か妙な武器を出すのかとナイフは警戒したが、折りたたまれた紙を出してエレーネにポンと投げた。ミリアの飛行経路を書き込んだ地図だ。
「はい、これ、借りてたけど返すね。ありがとう。もう写したし覚えたから大丈夫」
「……人の部屋に忍び込んで勝手に持っていく行為は、借りる、ではなくて、盗む、というのよ」
「まあまあ、いいじゃん。でも、よかったな、会えて。偶然だけど、ラッキー」
エレーネの皮肉にそう答えて、ヒマワリはミリアの手を握った。
「?」
「あれ、ミリアさん寝癖できてるじゃん。蒸しタオルで直せば一発だよ?」
「え、そうなの? わたくし、お水でずっと直していたわ」
「まあ、エレーネさんくらい柔らかい髪質なら、水でも悪くないかもね。でもミリアさんのコシのある髪質だと、熱を加えた方が早いよね。ツヤツヤの髪で、うらやましいな」
そう言いながら、ミリアの手を引き1歩、2歩と歩くヒマワリ。何となくミリアはついていき、一同もそれを見守っている。ヒマワリはあ、と立ち止まってミリアの顔をもう一度見る。
「?」
「…ていうかさ、私、『フローラ』にいたときから思ってたんだけど…。あなた、ミリアって、王女様のミリア様だよね」
「……!」
その言葉に、ミリアも、この場にいる皆も一気に警戒する。『フローラ』で聞かれてしまっていたのだろうか。
「どうして……?」
「え? いや、そりゃ、お城であなたを見かけたことがあるからだけど。あのときは遠目からだったから自信なくて、影武者かもなっても思ったけど、近くで改めて顔見ると、見れば見るほど、お兄さんとあなた、そっくりだし」
「お城で…? お兄……」
そしてヒマワリは耳元で、ミリアにしか聞こえないような小声で付け加える。
「…お兄さんの件も、知ってるよ。残念だったね」
「……!」
その言を聞き、ミリアはヒマワリの手を振りほどいてバッと向き合った。
「……なぜ、そのことを……」
「だから、お城で聞いたんだよ。あ、でも内緒なんだよね。わかってるよ」
「……」
飄々とそう言いながら、再びミリアの手を取り、またテクテクと歩くヒマワリ。数歩、歩いたところで皆の方を振り返り、ミリアの肩に手を乗せる。
「……そういうわけで、私、ミリアさんに聞きたいことがあるから、連れてくね」
「……え?」
「エレーネさんから盗…、借りた地図をよくよく見たらさ、ミリアさんが巨大鳥を乗り回してたってメモが書いてあったじゃん。ビックリしたよ。早く教えてよー。鳥のことで聞きたいことが山ほどあんの」
そう言って、ミリアの体を抱え、ものすごいスピードで走り出すヒマワリ。見た目に寄らず力がある。朝霧の中に消えていく様を、一同はしばし呆然と見送った後、はっとなる。
「…しまった…! あまりにも自然に会話に入ってきたから、つい見届けてしまった……」
「もう、何なのよ。次から次に……」
リカルドとナイフがそう呟き、慌てて2人を追い始める。ナイフはディルムッドの体を手で叩いた。
「あなたもお願い! お姫様が攫われたわよ!」
「あ、ああ。ヒマワリ…?」
「…違うかもしれないけど、あのヒマワリちゃんが、この街に今いる殺人鬼である可能性が、なくもないのよ。お願い!」
「!」
そう聞き、ディルムッドは周辺をぐるっと見回した。そして、鎖を一旦、自分の体に巻き付けて、「私はあちらから追おう」と皆とは違う脇道に入っていった。
ゴナンとエレーネも後ろから駆け出す。
「ゴナン! 無理しないで!君は宿で寝ておくんだ」
「……でも、ゴホッ……、ミリアが…」
「リカルド、私が付いているから、ゴナンにも追わせてあげましょう。あなたは先に、早く追って」
エレーネがゴナンの脇でそう叫んだ。リカルドは頷き、ナイフと共にヒマワリを追いかける。そして、先を走るヒマワリに呼びかける。
「ヒマワリちゃん! 話を聞きたいだけなら、ミリアを連れて行かなくてもいいじゃないか! 一緒に聞こう!」
「そういうわけにはいかないの! あなた達は卵を争うライバル! 倒すべき敵! 一緒に聞いたら意味ないじゃん!」
そう律儀に答えながらも、あの体格でミリアを抱えているというのに、驚くほどのスピードで逃げるヒマワリ。なかなか追いつけない。
が、霧の中からヒマワリの正面に、脇道から回り込んでいたディルムッドがぬっと現れる。
「うわ! 熊? ビッグボア?」
「殿か…、ミリア様を離せ!」
ヒマワリはすぐに踵を返し、路地に入る。しかしそこは行き止まりだった。ディルムッドがうまく挟み撃ちにして追い込んだのだ。
「あ、くっそ…」
ヒマワリはミリアを下ろし、また例の棒状の武器を取り出した。が、即座にディルムッドがヒマワリに蹴りかかってくる。
「……!」
ディルムッドの蹴りを棒でガードしつつも、体ごと吹き飛ばされるヒマワリ。しかし即座に立ち上がって、ディルムッドがミリアを救おうとする手を蹴り上げ、またミリアの腕を掴んで路地の端まで引っ張る。
「くっ、身の軽いことだ」
「……」
と、ヒマワリがミリアを背後に回し、棒をぐっと構える。ディルムッドは一瞬、虚を突かれるが…。
「その棒、伸びるわよ!」
そう言いながらナイフがディルムッドの首根っこを掴んで体を引いた。ちょうど喉仏があった場所に、伸びた棒がグンと空ぶる。
「…! 感謝する、ナイフ殿」
「…ナイフちゃん、ばらさないでよー…」
ヒマワリは棒の手元の釦をカチッと押した。シュッと縮む棒。釦で操作する仕組みのようだ。リカルドとゴナン、エレーネも追いついてくる。
「何度も同じことして、芸のないことね、ヒマワリちゃん」
「ヒマワリ…」
またその名を口にして、ディルムッドは首を傾げた。
「先ほどから、ヒマワリとは何だ。お前の名は『ルチカ』だろう。身を偽っているのか?」
「……」
ディルムッドのその言葉に、ルチカと呼ばれたヒマワリは少しだけ表情を歪めた。
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