連載小説「オボステルラ」 【第三章】11話「その男の正体」(4)
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11話 その男の正体(4)
「ルチカ?」
そういえば、ヒマワリとは女装バー『フローラ』で名乗っていた源氏名だ。本名があって当然ではあるが…。ヒマワリ、もとい、ルチカは、少し面倒くさそうな表情を見せる。
「別に身を偽っているわけじゃないけど。いちいち律儀に本名を明かす必要もないでしょ。私の名前なんて、なんだっていいじゃん、好きに呼べば」
「ディルムッド、あなたはこの方を知っているの?」
ルチカの背後から、ミリアが尋ねる。ディルムッドは少し苦々しい顔になった。
「ええ、よく存じております。この者は城によく出入りしていましたから」
「……?」
「この者は、ルチカという名の機械士です。王太子殿下がよく城に招かれていました。まあ、殿下の友人、とも言うべきかもしれません」
「機械士?」
リカルドが目を輝かせる。そういえば、『フローラ』で胸の詰め物もメンテナンスだの稼動だのと言っていた。
「へえ、王子お抱えの機械士か、すごいなぁ。僕にも何か作ってほし……」
「リカルド、ちょっと空気を読みなさい」
「え、あなた、ディルムッド?って言った?」
ルチカは、髪も髭も飲み放題で全く見えないディルムッドの顔をぐっと覗き込む。
「…ああ、見覚えのあるごっつい筋肉だと思ったら、王子サマの護衛のディルさんか。その風貌、何ごと? 山ごもり? 鎖まで巻いて。オシャレ? マイブーム? イメージチェンジにしたって、あなたの年齢でその鎖ファッションはどうかな。14、15歳くらいで魔が差したってんならわかるケド…」
「相変わらず口の減らない奴だ。そして、その気安い呼び方を止めろと、いつも言っている!」
「『あれ』以来、お城からいなくなったから、心配してたんだよ。ちょっとだけね。ま、私もお城に行く機会が減ったけどさ。それにしたって、エリート騎士様がちょっと様変わりしすぎじゃあないの?」
「……!」
ぐっとうつむくディルムッド。ミリアはルチカ越しに尋ねた。
「そんなにお城に頻繁に来ていたの? それも、お兄様の元に? わたくしはルチカとは会ったことがないわ」
「……ええ、あなたは会われたことはないはずです。王太子殿下から、絶対にルチカを王女と会わせてはならないと、我々護衛は強く命じられていましたから」
「そうなの? なぜかしら」
「……」
不思議そうにするミリア。しかし、少し気まずそうな顔をしてその問いには答えず、ディルムッドはルチカに向き直る。
「ルチカ、機械士のお前がなぜ、王女殿下を…」
「ディルムッド!」
ミリアが強い口調で諫める。少し困り顔のディルムッドは、台詞を言い直す。
「…機械士のお前がなぜ、王女殿下の実は影武者で普通のミリア様を攫おうとしているんだ」
「は? 何言ってんの? 影武者の、普通の……、え、何?」
「…お前はこの街に潜む殺人鬼なのか?」
「はあ?」
随分ストレートに聞くのね…、とナイフは少し呆れる。
「ディルさん。言うことがとりとめもなさ過ぎて、よく分からないんだけど…」
そう言いながら、棒を腰の袋にしまい込んだルチカ。その挙動に、ナイフがピクリと反応する。
「!」
ナイフがまた、ぐっとディルムッドの体を引いた。その瞬間、ドン、という音がして、ディルムッドの体が衝撃を受け、ドスンと倒れる。
「ディルムッド!!」
ミリアの叫び声が響く。ルチカの手には、ナイフを襲ったときと同じ、折れ曲がった円柱状の機械がある。しかし、少し悔しそうに舌打ちをしているようだ。
「…ディルムッド、ディルムッド!」
「…う、……大丈夫です……」
ディルムッドはすぐに体を起こし、叫び続けるミリアに答える。右腕に赤黒く打撲痕がついている。
「…また助けられたな、ナイフ殿」
「当たってしまって申し訳ないわね。これも見るのは2度目なの。急所に食らうとひどい目に遭うわ。ヒマワリちゃん…、何度も同じ手は通じないって、言ったはずよ」
「……」
無表情でナイフを見遣るルチカ。路地の行き止まりに追い詰められ、正面には5人の敵。隠し武器も通じない。絶体絶命の状況のはずだが、ルチカは不思議に落ちついている。
(…まだ、何か妙な武器を隠し持っているのかしら。それともまた催涙剤を…。胸に詰め物は…?)
ナイフはヒマワリの一挙一動に集中し警戒する。が、そのとき、背後からゴナンが声を挙げた。
「…おい、ミリア。お前、どうした……!?」
↓次の話↓
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