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連載小説「オボステルラ」 【第三章】10話「扉の向こう」(2)


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第三章の登場人物



10話 扉の向こう(2)


 馬を止めていた場所まで戻ってきたリカルド達。

「…リカルド……。どう思う?」

後をつけてくる可能性を見て、未だ全身の警戒を緩めないナイフ。リカルドに尋ねる。

「……わからないな。そもそもが、やましいことをしている感じの場所だから、ただ外部の人を入れたくないだけのようにも見えるけど…。それにしても、あのグレイって男の人相の悪さは尋常じゃないね。二度と会いたくないな」

そう言って少し考えたリカルドは、エレーネに尋ねた。

「エレーネ。昨日言ってた、鉱山を上から見下ろせる高台の場所、分かる?」

「ええ、場所は覚えているわ。でも、遠すぎてよく見えないわよ」

「大丈夫。『宝部屋』から便利なものを持ってきたから」

「宝部屋?」

ミリアが首を傾げる。ナイフが冷めた目で補足した。

「…あのガラクタ部屋のことよ」

「……ああ…」

「ひどいなあ、ナイフちゃん」

 そうして馬を駆り、昨日の高台に辿り着いた。正面は切り立った崖になっており、そのはるか下方に鉱山らしき敷地が見渡せる。人が何人か歩き回っている様子だが、粒ほどにしか見えない。

「…ね。もしゴナンがいたとしても、ここからじゃはっきり分からないでしょ」

「大丈夫、大丈夫」

そう言って、リカルドは自身の荷袋を探った。

「ほら、これ。双眼鏡って言うんだよ。望遠鏡が2つ繋がっていてね」

「リカルド、私はその望遠鏡とやらも初めて見るのだけど」

自慢気に双眼鏡を取り出したリカルド。少し表情が輝いている。また長々とうんちくを語りそうな気配を察して、ナイフは話の先回りをした。

「……見た感じ、遠くを詳細に見ることができる眼鏡のようなものね。しかも2台あるじゃない。手分けして、下を覗きましょう。さっさと使い方を教えて」

「あ…、ああ、うん……」

少し拍子抜けした感じのリカルドだが、一つをナイフに渡して、自身も双眼鏡を覗き始める。

「昨日は、トロッコを押している人がゴナンに見えたって言っていたね」

「ええ、そうよ。でも、『気がした』ってくらいなの」

リカルドはトロッコのレール付近をしっかりと見る。

「……違うな…。おじさんばかりだね…それも、かなりくたびれたおじさん…」

「そう…」

「レールはあの岩山の穴から伸びているから、あの中でもっと他の人も働いているのかもしれない。中の作業の人たちが出てくるまで、ここで粘ってみよう」

そう言って胡座をかき、双眼鏡にかじりつくようにしながら、鉱山を覗き始めたリカルド。もう1台の双眼鏡は、3人が交代しながら捜索を続けた。



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 数時間後。
夕暮れになり、穴からゾロゾロと坑夫達が出てくる。30人近くいるだろうか。

「…こんなにいるのか…。身内だけで回してるって言ってたけど、それも嘘っぽいな…」

そう呟きながら、双眼鏡越しに目を凝らすリカルド。隣でナイフも、見逃さないよう必死に双眼鏡で見ている。ミリアとエレーネも、少しでも手がかりが見つかればと裸眼で一生懸命見る。しかし、日が落ち徐々に暗くなっていく。

「……見つからないな…。金髪の少年、というか、若者も少なく見えるな…。みんな髭むくじゃらで、わかりにくいけど…。どんな衛生環境なんだ、ここは…。中の見張りの兵も、多すぎる……」

リカルドは、暗くなる様子に焦りながらも、パンの支給を受けている男達を必死に見る。しかし、やがて、闇に包まれ何も見えなくなった…。

ナイフが、下から見えないように崖から離れた場所で発光石のライトを点ける。

「…リカルド……」

「……うん……。見つからなかったね…」

がっくりと肩を落とすリカルド。期待していた分、反動で落胆が大きい。

「野営の準備もしていないし、ひとまず急いで街に戻りましょう。昼間でも何時間もかかる道だから、夜道だとなおさら時間がかかるわ。道を失わないようにしないと」

「……僕は、ここに残るよ。朝になったらすぐに探せるから」

そう、皆に宣言するリカルド。そしてうつむき、小声でブツブツと続ける。

「……いや、夜陰に紛れて忍び込んでみよう…。さっきの門まで戻るか、どこからか崖を下れば…。そうだ、僕は、崖を飛び降りたって死なないはずだから、ここから飛び降りようか…」

そう言ってフラフラと崖の方へと向かおうとするリカルドの頭に、ナイフは手刀をお見舞いする。

「いた」

「ほら、一回帰るわよ。私もしっかり見たけど、ゴナンらしき人は見えなかった。でも上から探すのには限界があるし、忍び込むなんてもってのほか。降りてケガして動けなくなるか、あの見張りに見つかってボコボコにやられて動けなくなるかのどっちかよ」

「……でも…、僕は……」

「今日の件を受けて、あの嫌な人相の男がゴナンを隠してる可能性だってあるのだから。それより、街で警察か軍に相談して、明日一緒に乗り込むのよ」

「……」

「リカルド、その方が確実よ。とにかく一度戻るわよ」

「…うん…」

リカルドは小さく同意して、ようやく立ち上がった。その横でミリアはじっと、闇が落ち何も見えなくなった鉱山を見下ろしている。

「……ミリア?」

エレーネがその様子に気づき、声をかけた。

「…わたくし、自分の国のことを全く知らないのね。国有の鉱山の近くに、こんな場所が隠されているなんて…」

「……仕方ないわよ。通常は成人するまで、お城から出ないんでしょ?」

「ええ…、でも、仕方ないでは、済まされないことだってあるわ…」

「…ミリア……。あなたが今まで居た場所からは、見えないことのほうが多いわ。そこには、汚かったりずるかったり卑怯だったり、けっして綺麗とはいえないものがはびこっている。でも、それも含めて『国』なんだから」

「……」

エレーネの言葉にミリアは無言で頷き、少し考え事をしながら、エレーネとともに馬に乗った。





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