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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】4話「ゴナンが消えた」(1)


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第三章の登場人物



4話 ゴナンが消えた(1)


 翌朝。

 今日は、巨大鳥が立ち寄りそうな水場探しを行う予定だが、待ち合わせの時間を過ぎているのにゴナンとリカルドが宿にやって来ない。

「随分遅いわね」

宿の前ではエレーネとナイフが待機している。ミリアの姿もないが、まだ寝癖と格闘しているところだそうだ。

「エレーネ、あなたは体調は大丈夫なの?」

「ええ、心配かけてゴメンなさい。万が一の時に薬がないと大変だから、念のため休ませてもらっていただけ。体はなんともないの。大丈夫よ」

「万が一…」

微笑むエレーネに、ナイフは少し首を傾げる。

 伝書鳩で取り寄せた薬は昨晩のうちに届いたという。そのスピード感にも驚きなら、「万が一」があるという疾患がどのようなものなのかも気にはなるが、個人の病のことなどは踏み込んで聞くものでもない気がする。ナイフはそれ以上追及はせず、腕を組んでふう、と思案した。

「…ちょっと、あの2人で気がかりなこともあるから、拠点に行ってみるわ。エレーネは一旦部屋に戻って、ミリアの寝癖退治を手伝ってあげてて」

「ええ、わかったわ」

くすっと笑ってナイフを見送るエレーネ。いつもと変わった様子はなく、こちらは大丈夫そうだ。

(ツマルタに着いた途端、いくつかひずみが出てきたような気もするわね…)

 拠点へは徒歩で10分の距離。まだ人気ひとけの少ない宿屋街を抜けながら、ナイフは考えていた。泰然と変わらずにいるのはミリアくらいのように思える。

(まあ、巨大鳥の背に乗って3ヵ月も空を飛び回って平気だった子だものね。不運の星を嘆く姿勢ばかり目に留まってしまうけど、そもそもは相当な胆力の持ち主かも知れないわ、あの王女様…)

 そんなことを考えているうちに、リカルドの拠点についた。扉を大きくノックする。

「リカルド? ゴナン? 待ち合わせの時間過ぎてるわよ」

しかし、シーンとして物音一つ立たず、返事もない。ナイフが気配を読むと、中に人はいるようだが…、1人だけ?

「ちょっと! 開けてよ」

そう言ってドアノブを回すと、鍵は開いていた。ドアを開けて中に入るナイフ。

と…。

「う……うぅ……」

「……! リカルド、大丈夫……?」

 リビングの床に伏して苦しんでいる、寝間着姿のリカルドの姿。すぐに駆け寄り様子を見る。『いつもの発作』だ。いずれ治まると分かってはいても、この苦しそうな様子を直視するのは辛い。




「……リカルド、ゴナンはどうしたの? こんな状態のあなたを放っておくなんて」

「……ゴ、ナンは……。う……ぅ…」

 何かを伝えようとはしてくるが、痛みに勝てずうめき声に変わる。この症状が起こってしまうと、リカルドは言葉も出せなくなる。ナイフはリカルドの体を抱えて、寝室のベッドへと運んだ。とにかく、治まるのを待つしか方法がない。

 リカルドをベッドに寝かせていると、ふと、寝室横の棚に並べられているゴナンの荷物がナイフの目に留まった。いつも身の回りの整理整頓がきちんとしている子なのだ。唯一、彼の面倒をよく見ていたという兄が、本当にきちんとした教育をゴナンに施していたであろうことがわかる。

 野営道具やバックパックの横に、いつも着ているバンダナやベスト、衣類一式に、着替えの分も畳んでおいてある。小物入れの腰袋も、出かける時はそこに入れてある2つの財布も、リカルドにもらって大事に身に付けているナイフも剣も。寝間着に下着すらその横にある。

「…?」

『フローラ』でゴナンの荷物を見ていたナイフは、彼の持ち物のほぼ全てがここに揃っていることに気付いた。

(ゴナン、どこか鍛錬に出ているのかしら? それで鍛錬に熱中しすぎてる? それか、限度を超えてやり過ぎて倒れてたりとか、出先で何かあった…?)

「リカルド。一度、宿に戻ってまた来るわね。道中、ゴナンがいないかも探してみるから」

聞こえているかは分からないが、ナイフはリカルドにそう声をかけて、一旦拠点を後にした。

 ミリアとエレーネに今日はひとまず宿で待機してほしい旨を伝え、周辺にゴナンがいないか気配を探りながらまた拠点に戻ってきたナイフ。ゴナンは見つからないし、帰ってきてもいない。

「……う、うぅ……。ゴ、ナン……」

 リカルドが苦しみながらもゴナンの名を呼んでいる。やはりゴナンと何かがあったのだろうか? 少し様子がおかしかった昨日の今日だ。もしかしてケンカでもして、ゴナンが飛び出したのか。15歳という年齢を考えればありえなくもないが、とはいえあのゴナンである。

そして、もう一つの心配事が、ナイフの脳裏に浮かぶ。

(それにしても、この発作って、こんな頻繁に起こっていたかしら?)

 前回、ストネの街で発作を起こしてから、1週間ちょっとしか経っていない。その前も、北の村からストネに向かう途中で発作が何度か起きたと言っていた。ひょっとして、寿命が近づくにつれて徐々に頻度が増すのか、そう考えると、ナイフはぞくりとした。


↓次の話↓






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