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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】4話「ゴナンが消えた」(2)
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4話 ゴナンが消えた(2)
昼過ぎ。ようやくリカルドの発作が治まった。
「……ナイフちゃん……」
「ああ、やっと治まったわね。水、飲む?」
リカルドは頷き、ゆっくり体を起こした。サイドテーブルに用意してあった水差しからグラスに水を注ぎ、リカルドに手渡すナイフ。
「お腹も空いてるでしょ? サンドイッチを買ってきてるから」
「流石、至れり尽くせり、助かるよ」
ふふ、と微笑んで、ナイフからサンドイッチも受け取る。この症状の後にリカルドが何を欲しがるかも、ナイフはよく知っている。
「ねえ、ゴナンはどうしていないの? いつもの鍛錬に出かけた? それとも、ケンカか何かしたの?」
「え? ゴナン、まだ帰ってきてない? もう、午後だよね」
リカルドは、深夜の記憶を蘇らせる。
「…いや、夜中にね、何も言わずに静かに出ていったんだ。僕は追いかけて、どこに行くのか聞こうとしたんだけど、そこで発作が起こってしまって…」
「夜中?」
ナイフが眉をひそめる。
「でも、変ねえ。ゴナンの荷物は全て、そこにあるじゃない」
寝室の棚を指すナイフ。リカルドはハッとそちらを見た。
「寝間着も普段着も着替えも全部あるのよ。あの子、下着の替えは3枚だったわよね? それが1枚ないだけ。まさか下着姿で出ていったわけではないわよね?」
「全部……」
リカルドは、そこに残された荷物を見て、バックパックの中も探る。夜中に見かけたとき、バンダナとベストを身につけていたように見えたが…。
「…いや、北の村から着てきた服とバンダナが、ない…。あれを着ていったんだ」
「え、あのボロボロの服に、土塊みたいなバンダナ? あれ、まだ捨ててなかったの?」
「まだ着られるからって、大事にバッグに入れてたよ…」
そう言いながら、リカルドの顔色が蒼白になっていく。先ほどの発作の時よりも、顔色が悪いように見える。
「……リカルド?」
「……ぼ、僕が……」
「?」
拳をギュッと握り、震わせるリカルド。
「……僕が、あげたもの、買ってあげたもの、全部、ここに置いて行ってる…。服も、バンダナも、ナイフも、ぜ、全部……」
「……」
リカルドは剣を手に取り、独り言のようにブツブツと呟く。
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「ゴナン…、どうして…。そんなに、イヤだった…? 僕は別に、君に施しを与えようとしているわけでは、ないのに……」
リカルドの表情が豹変した。真っ青になり、今にも泣き出しそうな表情だ。こんなリカルドの姿は、ナイフも初めて見る。
「リカルド、考えすぎよ」
「この剣を買ったときだって、あんなに、嬉しそうにしてたのに……」
「リカルド、考えすぎだってば、ほら!」
ナイフはそう言って、リカルドの目の前でパチン、と手を叩いた。
「ちょっと、どうしたの?」
「……あ、ああ、ゴメンね……」
ふう、と息を吐き腕を組むナイフ。ゴナンの不在にリカルドがここまでショックを受けていることが、ナイフには不可解だ。
「よくわからないけど、ゴナンが戻る場所はここしかないんだから、じきに帰ってくるわよ。今日は休憩日にしましょ。で、帰ってきたゴナンにお説教よ。黙って出ていくなってね。ここは甘やかしちゃダメよ」
「……うん。そうだね…。でも、なんだかイヤな予感がするんだよ…」
力なく少しだけ微笑むリカルド。普段の悠然とした態度がすっかり鳴りをひそめている。
「……1人になりたい? それなら私は宿に戻るけど……」
「……いや、できれば、ここにいて欲しいな。1人だと悪い事ばかりを考えてしまいそうだから」
がっくりと肩を落としながらも、そうナイフに要望するリカルド。ナイフはもう、何度目か分からないため息。
「そう。じゃあ、お邪魔するわね。でも、あなたは少し眠った方がいいわよ、一晩中、例の発作で苦しんでいたんでしょ?」
「大丈夫だよ、僕は多少無理したって…」
「リカルド」
いつもの文句を口にしようとしたリカルドを制するナイフ。腕組みでジロリと睨まれ、リカルドはふう、と苦笑いする。
「…ナイフちゃんに締め落とされたらたまらないから、素直に寝るよ」
「そうしなさい。発作は治まっているのに、顔色が悪すぎるのよ。私は掃除でもしているわね。この家、ほこりっぽいから。構わない?」
「うん、ありがとう。部屋は好きに触ってもらっていいから…」
リカルドが布団の中に入ったのを確認して、ナイフはリビングの方へと移動した。リカルドは目を閉じる。確かに、とても眠い。少し眠って頭をスッキリさせたら、ゴナンのことをまた考えよう。いや、きっと流石に、それまでには帰って来るだろう……。
と、扉の向こうからナイフの独り言が聞こえる。
「……あら、何?この部屋。ガラクタをため込んでるじゃない。これ、粗大ゴミ? 捨ててしまっていいのかしら」
「……! ナイフちゃん! だ、ダメ!」
リカルドははっと覚醒し、慌ててナイフを止めるべく飛び起きた。
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結局、その日ゴナンは帰ってこなかった。
夕方、目を覚ましてその事実を知ったリカルドは、さらに落ち込んだ。
「やっぱり、僕に嫌気がさして出ていったのかな……」
「リカルド…。だから、考えすぎだってば。思春期の15歳の男の子がちょっと羽目外して1日帰って来ないなんて、まあ、あることよ」
「…普通の子はそうでも、あのゴナンだよ…。まだ街の暮らしにも完全に慣れているわけじゃないのに…。やっぱり、僕に愛想が尽きたんだよ」
ナイフの慰めにも、さらに悪い方向へと思考を向ける。そういえば…、とナイフ。
「……あの寝袋を見た後で、あなたがタイキさんと話しているときにゴナンが言ってたのよ。夜の店で働こうか、それか狩りに出て獲物を獲って売ろうかって」
「えっ?」
「もちろん、リカルドがあなたの面倒見るからそんな必要はないって止めたけど。納得いってない様子ではあったわね」
「……」
「あの寝袋を自分で買おうとしているのかしら? でもそれにしたって、荷物を全部置いて夜中に出ていく意味が分からないわよねえ…」
はあ…、と頭を抱えるリカルド。
「…僕は、ゴナンに良い道具を使って欲しかっただけなのに…。僕はゴナンをとても大切に思っていて、その彼にできる限り良い物を贈ってあげたいって思うのは、変なことかな?」
「リカルド…」
「……こういうとき、家族ってどうしているんだろう? どういう風に接すれば、『普通に』ゴナンと仲良く過ごせるのかな…」
「……」
「僕は分からないんだよ。だって、知らないから」
普段のリカルドなら、こんな些細なことに打ちひしがれることなど到底ないが、前日に故郷の人間と会って心が乱れていたところに、発作も起きて、追い打ちのようにゴナンの不在…。ここまで情緒不安定なリカルドは初めて見る。ナイフはポンポン、とうなだれるリカルドの頭を撫でた。
「……ゴナンがどういう理由で出て行ったかはともかく、戻ってこないっていうのは心配だから、明日朝まで帰って来なかったら皆で手分けしてゴナンを探しましょう。鳥や卵なんかよりも、まずあの子の命の方が大事でしょ」
「命……」
ナイフのその言葉に、リカルドはさらに表情を暗くする。あっ、とナイフは口を押さえた。
「…だから、心配しすぎよ。大丈夫よ」
「……」
「私は一旦、宿に戻るわね。ミリアとエレーネにも状況を説明しておくから。明日朝、みんなでこっちに来るからね。もし、それまでにゴナンが戻ってきたら、知らせに来て」
「うん……」
うなだれたまま、頷くリカルド。ナイフは努めて明るく「じゃあね」と拠点を後にした。
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