連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】3話「価値」(6)
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3話 価値(6)
拠点に戻ってゴナンをベッドに寝かせ、バンダナを外し、ベストを脱がせて布団を掛けると、そのままゴナンは目を覚ますことなく寝付いてしまった。
(それにしても、毎日こんなに疲れ果ててしまうのは、確かに、あまり良くないなあ…)
ナイフにも言われたが、鍛錬を頑張りすぎているのも、少し気をつけて見ないといけないかもしれない。
もともと北の村で、乾いて飢えた厳しい環境の中、自分をすり減らしながら日々を生きていたゴナン。今、すぐに命の危機に瀕するような厳しい状況はないはずだが、それでも知らずに自分を追い込んでしまう傾向があるようだ。一生懸命になれるのはいいことだと、つい見守ってしまったが、一生懸命にも限度がある。
(人に甘えるのが苦手なだけでなく、自分にも甘えられないんだな…)
スヤスヤとベッドで熟睡するゴナンの顔を見ながら、北の村で出会ったときの彼の姿をボンヤリと思い出していた。
(ともかく、もう今日はゴナンと話はできなさそうだな)
残念でもあるが、少しホッとした心持ちにもなるリカルド。
リビングへ移動し、また研究のレポートを進めるべくデスクにつく。しかし、相変わらず全く筆が進まない。正面にある窓、カーテンの隙間から覗く、真っ赤な彼方星をじっと見つめた。今日も変わらず、強烈な赤い光を放つ星。いつもは旅の指針のように見つめていたが、今日は妙に仰々しく毒々しい色に感じられた。ユー村のこと、ポールのこと、そして今日のゴナンの変化…、いろんな考えが頭を巡る。
酒を飲もうかと思うも、今日もキィ酒を買い忘れている。まだ夜も早い時間、近くの店に買いに行こうかとも思ったが、やめた。いろいろとイヤな考え事が湧いてくるのを厭って、早めに寝ることにしたのだ。
自分の寝支度を調えて寝室に向かうと、ベッドの中央に寝かせていたはずのゴナンが、いつのまにか、また端っこに小さくなっている。リカルドはふふっ、と笑って、ゴナンを中央の方に寄せて、頭を撫でて、自身もベッドに潜った。
明日、どうやって話を切り出そうか。そんなことを考えつつ…。
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そして数時間後。
ふと、目を覚ましたリカルド。横を見るとゴナンの姿がない。
(あれ、もう鍛錬かな?)
そう思って目で探すと、ベッドサイドでゴソゴソと身支度をしているゴナンの姿が目に留まった。
暗くてよく分からないが、バンダナを巻き、ベストを着ているようだ。
いつも鍛錬の時は汗をかくから、バンダナはつけないし上半身には何も着ないのに、と不思議に思いつつ、またウトウトと眠りに入ろうとする…。
が…。
(いや、待て! まだ、深夜だぞ?)
はっと目を開けたリカルド。体を起こすと、もう寝室にはゴナンの姿がない。
「ゴナン…?」
リカルドはそう小さく呼んだが、返事はない。体を起こし、リビングの方へと足を運ぶと、ちょうどゴナンが玄関から外に出て行くところだった。パタン、とドアが閉まる。
「ゴナン? こんな時間にどこに…?」
ゴナンを追いかけようと踏み出した瞬間だった。内臓に猛烈な痛みが走り、がくり、とその場に膝をつくリカルド。
「……う……」
(くそ、こんな時に……)
ユーの民に定められた約4年後の寿命に辻褄を合わせるかのように、痛みが体の中を蹂躙し蝕む発作。これが今、起こってしまった。この発作が始まると、リカルドは全く動けなくなる。
それでもリビングの床を這って、少しでも玄関の方へと進もうとした、が…。
「……う、ぅ……っ!」
内臓の痛みに身もだえする。全く動けない。結局、じっと床に伏したまま、この激痛の時間が過ぎ去っていくのを待つしかないのだ。
(ゴナン。どこに行ったんだ? 朝までには帰って来る? 早く、帰っておいでよ…。話したいことが、あるんだ…)
-----しかし、この夜から、ゴナンは姿を消した。
↓次の話↓
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