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連載小説「オボステルラ」 【第二章】38話「鳥か、卵か」(4)


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第二章の登場人物



 宿場街から食堂街を抜けて、東へと走って行くリカルドとナイフ、その後ろからゴナンも駆けてくる。

 殴られた傷を負った中年の男性がボロボロに破れたドレスを身に纏い、大きな袋を抱えて逃げるように走る姿は街でも目立ったらしく、ナイフが尋ねると通りの人々がどっちに逃げていったかを口々に教えてくれた。ヒマワリもしっかりと後を追っているようだ。

「ロベリアちゃん、卵を持って逃げて、これからどうするつもりなのかしら…」

走りながら、ナイフが心配そうに呟く。

「うーん……。卵が、彼の心の柱、というか依存先になってしまっているように感じたよ。先のことは考えていないんじゃないかな」

「そうね…。あまり追い詰めたくは、ないわね…」

はあ、とため息をつくナイフ。

「というか、一体何なのよ、巨大鳥の卵って…。人死にもいとわないほどに手に入れたがるなんて、ちょっと異常よ。あなた、こんなヤバいもの追ってるの? 今までこんなことあった?」

「いや、そもそも、鳥にしろ卵にしろ、おとぎ話扱いだったんだよ。こんなに具体的に姿が見えることなんてなかったから……」

 リカルドはナイフと会話しながらも、考えていた。そこまでして皆が手に入れようとしているということは、やはり伝承は本当なのではないかと。あの男達も「悲願を叶えるため」と口にしていた。急に、こんなに近くに来た、卵…。

(巨大鳥が不幸を呼び寄せるなんてとんでもない。僕にとっては幸運の使者じゃないか…)

「リカルド、顔が怖い…」

と、いつの間にか追いついてきていたゴナンが、脇からリカルドに声をかけた。リカルドはすぐに、いつもの微笑みを戻す。

「ああ、ゴナン…。顔色が悪いよ、無理しないで。首の傷は大丈夫?」
「大丈夫…。卵、せっかく、見つかったから……」

そう言いながらも、かなり息を切らして辛そうだ。が、前方を見て声を挙げた。

「あ!あそこ! ヒマワリ! 角を曲がった!」
「え? どこ?」

 ゴナンは視力がいい。お店のある通りをすぎ、ちょうど登り坂にさしかかっていたのだが、はるか前方で一瞬見覚えのある人影が見えた。

「あの、石垣……、はたくさんあるか…。下の雑草の所に紫色の花が咲いている石垣!」

「……!」

 そんなところまで見えるのか、と感心しつつ近づくと、確かに1箇所だけ紫色の花が咲いている。その石垣の角を曲がると、さらに小高い丘へと道は上っていた。街の随分外れまで来ており、人気ひとけはない。

「あそこにいるわ!」

 ナイフが指さした先には、小さな丘のてっぺんで行き止まり、ロベリアが道を失い立ち止まっていた。ヒマワリがそこに追いついて、ロベリアに飛びついている。2人のところにリカルド達も到着する。

「ロベリアちゃん!ヒマワリちゃん!危ないわよ!」

 丘の向こうは崖になっていた。その間際で取っ組み合いになる2人。と、おもむろにヒマワリが、自身の服の中、胸をがっと掴んだ。

「……!」

 ギョッと一同が固まった瞬間、片胸から何かの液体が詰まったパックを一つ取り出した。それをロベリアに投げつける。袋が弾け煙が湧き上がる。

「ゴナン、離れて……!」

 リカルドはゴナンを抱えて後ろに飛び退いた。煙は催涙剤のようなものらしい。ナイフも即座に煙から離れたが、直撃を食らったロベリアは激しく咳き込み、目を開けられなくなってうずくまる。その隙にヒマワリは卵の袋を奪い、煙から離れた。

「…つねに稼動できるようメンテナンスって、こういうこと…」

 今朝の会話を思い出すリカルド。

「そ。いざという時に役に立たないのでは、意味ないからね。ずれて落ちちゃっても大変になるし。メンテナンスは、大事だよね」

 ヒマワリはいつの間にか、ゴーグルを付けていた。ロベリアから奪った、どっしりとした卵の袋を抱えている。リカルドは、ゴナンを近くの岩の上に座らせて、ヒマワリに尋ねる。


「ヒマワリちゃん…。なんで、そんなにその卵が大事なの? わざわざ慣れない女装バーに何ヵ月も潜伏するほど? 人の命を奪うのもいとわないほど?」

「それをあなたに説明する義理はないんだけど、リカルドさん」

リカルドの問いを、にべもなく突き放す。

「僕はずっと巨大鳥と卵の伝承を追っているけど、結局、何一つ確かなことは分かってないんだよ。いろいろ、知りたいんだ」

「そのようだね。鳥と卵の学者って言うから、何かためになる情報持ってないかなと期待したけど、何にもなくてガッカリだったよ」

そう冷たく言い放つヒマワリに、リカルドは情けなさそうに笑う。

「それにリカルドさん。結局あなたの本当の本音も、知りたい、じゃなくて、卵が欲しい、でしょ」

と、ヒマワリは遠くに視線を移し、軽くため息をついた。

「…ほら、くだらないことを話してるから、ゲストが増えたじゃん」

リカルドが振り返ると、帝国の男達が押し寄せてきていた。


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