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連載小説「オボステルラ」 【第二章】43話「仲間達に」(3)


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第二章の登場人物



 ふと目を開けると、銀に近い金髪の下で輝く琥珀色の瞳が、リカルドの顔を覗き込んでいた。

「……あれ、ゴナン?」

「リカルド、おはよう」

 リカルドははっと体を起こす。場所はラウンジのソファ。もう、外は明るい。結局、昨晩は酒が進み話が盛り上がって、酔っ払ってそのまま寝てしまったのだ。対面では同じようにナイフもソファで寝ている。エレーネは部屋に戻っているようだ。寝間着姿のゴナンが、心配げに二人の様子を見ていた。

「おはよう…。飲み過ぎちゃったな。ゴナン、起きて大丈夫?」
「うん…、まだ熱はあるけど、だいぶ、元気」

リカルドはゴナンの額に手を当てる。確かにまだ熱があるようだが、顔色も大分よくなってきている。

「そっか、よかった…。ちゃんと治ってきてるね」
「そりゃ、いつかは治るよ」

ゴナンは少し不思議そうな顔で答えた。そうだね、とリカルドはゴナンの頭を撫でて、立ち上がる。

「お腹空いたな。何か食べられそう? カーユがいい?」
「ううん、普通のご飯がいい…」
「…そう? そっか、よし、僕がすぐ買ってくるよ! ちょっと体を拭いて着替えてくるから」

ゴナンの食欲が復活したことを喜び、リカルドはいそいそと2階の部屋へと向かった。黒い服から黒い服に着替えるだけなのに、と思いながら、ゴナンはソファで皆が飲んだ後の片付けを始める。

ガチャガチャ、と食器を片付ける音に気付いたのか、ナイフも目を覚ました。

「あら…寝てしまっていたわね…。おはよう、ゴナン。体調は大丈夫なの?」
「おはよう、ナイフちゃん。うん、熱もだいぶ下がってきたから」
「無理しないでね、片付けありがとう。任せちゃってよいかしら」

ゴナンは無言で頷く。ナイフはニッコリ笑って、「ちょっと家で着替えてから、すぐ戻ってくるわね」と店の裏口の方へと消えていった。

(すごくたくさん、空き瓶がある…)

あの大人達は、いったいどれだけのお酒を飲んだのだろう?と少し呆れながら、片付けに勤しむゴナン。酒瓶の片付けに、少し時間がかかった。


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「おはよう、ちょっとお邪魔するよ」

と、入口から声がした。続いて、3人組の男性が中に入ってくる。昨日の帝国男かと警戒したが、揃いの制服を着て、品の良さそうな雰囲気の男性達だ。それでも少しだけ警戒を保ったまま、挨拶する。

「おはようございます。あの、うちは夜からの店なんですが…。それに今日は…」

「ああ、知っているよ。今日はちょっと尋ねたいことがあって来たんだけど…。店主はいるかな?」

「もうすぐ、家から来ると思います」

ゴナンはそう答えて、奥のソファ席へと案内しようとした。だが男性達は、「いや、ここで待ちますよ」と入口近くに立ったままだ。

「ええと、君は、デイジーちゃん?」
「あ、はい。そうです」
「えらいねえ、朝から働いて」

男の中でもっとも年長に見える、メガネをかけた一人が、かがんでゴナンに目線を合わせ、ニッコリと話しかけてくる。

「…いえ…。仕事なので……」
「へえ、そうか……」

と、そのとき、店の裏から着替えを済ませたナイフがやってくる。男はその姿を確認しつつも、ゴナンに話しかけ続けた。

「デイジーちゃん、今何歳?」
「……15歳です……」
「そうかあ、いや、えらいねえ」

そう微笑んで、男はナイフの方に目線を向けた。

「やあ、ナイフちゃん、朝から来ちゃってすまないね」
「あら、警察さんじゃない、どうしたの? もしかして昨日の騒ぎのことを聞かれたのかしら? それだったら、たいしたことないから大丈夫よ。いつものことよ」

ナイフが警察、と口にした。彼らの制服はこの街の警察のものだったのだが、ゴナンはまだ知らなかった。ちょうど、別の黒い服に着替えたリカルドも2階から降りてきた。「どうしたの?」とゴナンに尋ねるが、ゴナンは首を傾げる。

「ああ、昨日の件も耳には入っているけど。大変だったね。でも、今日は別件でね」

男はニッコリ笑って、懐から一枚の書面をナイフに提示した。

「ナイフちゃん、残念だけど、お店、2ヵ月間営業停止。よろしく」

「……は? ちょっと、どういうこと!?」

ナイフがメガネの警察の首元を掴んで詰め寄る。他の二人の男がナイフを引き剥がし、押さえた。




「いや、実は昨日ね、帝国から来た旅行客からの情報提供があってね。この店で未成年を働かせている可能性があるって。今、この子に確認したら、情報提供にあったデイジーという名前で、15歳だというし、今まさに仕事をしているのも確認したから。夜も接客してたんでしょ? 上の貸部屋に連れ込まれていたなんて情報もあったけど」

「あ……」

ゴナンが気まずそうな顔でナイフを見る。タイミング悪く、ゴナンが一人の時に警察が来てしまっていたのだ。

「……その帝国男って、4人か、10人連れの、いかつい男達のこと?」

「ああ、そうだよ、4人だけだったが。いやあ、他国人なのに、良心的な方々だったよ」

「はあ、良心的? この店をこんな惨状にしたのは、あいつらなのよ!」

ナイフがさらに詰め寄ろうとするが、警察二人がなんとか押さえる。

「私にペナルティが来るのなら、奴らもしょっ引きなさいよ!」

「でもナイフちゃん、さっき、たいしたことないから大丈夫って言ってたじゃないか。それに、このお店ではこんなこと、よくあるだろう? いつもは警察なんて頼らないくせに…」

警察の男が飄々とした感じでナイフをなだめる。どうやら旧知の仲ではあるらしい。

「……2ヵ月って、ちょっと長すぎやしない?」
「長すぎるからこそ、ペナルティになるんじゃないか。まあ、残念だけど、情報提供があったからには私達も動かないといけないんだ。ご愁傷様ってことで」

そう言って、書類をナイフに押しつけるように渡し、「じゃ、詳しい手続きは後で。今日中に一度、出頭してね。今日も営業しちゃダメだよ」と手を振って去って行った。

「はあ…。踏んだり蹴ったりだわ…」

ナイフはがっくりソファに座る。ゴナンはおずおずと謝りに行った。

「ごめん、ナイフちゃん…。俺、警察とか、知らなくて…」

「……ああ、いいのよ。未成年をこっそり働かせているお店なんて、ざらにあるのよ。バレてないだけで」

ナイフはそう慰める。リカルドが苦笑いして続けた。

「これは、あの男達の嫌がらせだね…。最後のすかしっ屁というか。どうしても何かで一矢報いたくて仕方なかったんだろうね。一人、ゴナンに執着している男もいたしなあ……。ふふっ」

「笑い事じゃないわよ! 奴等、昨日はあんなに詰めが甘かったくせに、嫌なところで頭を働かせやがって…。次会ったら覚えてろよ…」

後半、凄みのある声になったナイフの豹変に、ゴナンがビクッ、と震えた。

「……ナイフちゃん、ゴナンが怖がってるよ」
「……あら、失礼。もう、ほんと、今日は何もかもどうでも良くなったわ。家で水でも浴びてくるわ。お店で自由に過ごしてていいわよ」

そう言って、ため息をつきながらナイフはまた、自宅へと引き上げて行った……。


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