勝手に1日1推し 146日目 「あの本は読まれているか」
「あの本は読まれているか」ラーラ・プレスコット 小説
すごく面白かったです!
小説「ドクトル・ジバコ」を巡る冷戦下における東西の攻防、女性たちの戦いが見事に描かれていました!
50年代の東(ソ連)・西(アメリカ)の物語が交互に展開する構成で進みます。両国の世相がリアルで、各国それぞれの事情に戦慄です!!
ソ連側の言論統制や当局の取り締まりの強引さ、秘密警察の理不尽なやり口、矯正収容所の様子は生々しく恐怖しかありませんでした。アメリカ側の男性優位な社会構造には苛立ちを感じました。才気溢れる女性たちのくすぶりが痛々しかったです。
東西のコレって本当に同時代なの?っていうその辺の対比も非常に上手で、ぐいぐい引き込まれます。
とは言え、両国ともに共通しているのは、他意のある男たちがめちゃくちゃ腹立つってことと、他意はなくても、当たり前のように特権を享受している男たちにしらけちゃうってことです。結局、割を食うのが女性だっていうのが悲しすぎるよなあ。半世紀以上がたった現在もさほど変わっていないってところに当事者的共感と共に、先人たちの我慢と努力と挑戦の数々に感無量です。
冷戦を制すべく、西(アメリカ)側は武力より思想で攻めようとするんですよね。十月革命批判の異端とされた小説「ドクトル・ジバコ」を武器に、ソ連の世論に訴えかけようとするんです。「ドクトル・ジバコ」の出版とソ連国内へ普及すべく、秘密裡に進めるのがCIAで、訓練を受けた女性が隠密として暗躍する訳です。
ロシア移民のイリーナという女性がタイピストとして雇われるのですが、素質を買われ、内密にスパイとして育てられます。その訓練の様子はとても興味深く、実際に彼女が行うスパイ活動はスリリングで目が離せません。イリーナの指導役のサリーという洗練された女性諜報員がまたとても魅力的で、男たちと同等に渡り歩く勇ましさがかっこいいんです。そんな彼女とイリーナの関係性も注目です!!
「ドクトル・ジバコ」の出版、配布に至るまでの流れは、これでもかという程慎重、且つ、巧妙で、圧倒的!はらはらドキドキしっぱなしでした。
一方、東(ソ連)側も国内の内情を知られる訳にはいかないので、国外に「ドクトル・ジバコ」が出ることがないように、様々な手段を使って必至に妨害しようとするんです。有名な詩人であり著者であるボリスとその愛人オリガを何とかして思いとどまらせようとします。オリガは2人の子供、母親がいる身でありながら、矯正収容所にまで入れられてしまうんです。前述の通り、彼女への取り調べから収容所までの移動、そして収容所での生活の描写は、臨場感溢れ、圧巻です!それから、西側の2人同様、東側のボリスとオリガの関係性にも注目です。
関係性1つとっても、一般的でないのが本作の面白い所と言うか今っぽい所だと思います。
リアルな世界では、直面する問題や超えられない壁が1つだけってことはないですよね。本作の物語上もリアルに等しく、同時多発的に複合的に絡み合った様々な事象が多様な視点で描かれているところが本当に今っぽくて好きだなあって思いました。
そもそも、本作は、歴史小説であり、政治小説であり、スパイ小説であり、恋愛小説でもあるっていう完全フリーなノージャンル。流れるような運びで、そのどれもがおざなりになることなくちゃんと成立しているので、感動しました!1度で4度美味しいってやつです、ハイ。
実は本作、史実に基ずいて書かれたフィクションなんですって。お恥ずかしながら、全く知りませんでした!ボリス・パステルナークによる「ドクトル・ジバコ」は実在し、実際に物語と同じような過程を経て出版され、ノーベル賞を受賞していただなんて!!びっくり!
しかも映画化までされていた!!
党本部や秘密警察に脅され、苦しめられ、数々の試練を乗り越え、世に出た小説「ドクトル・ジバコ」、マジか。
「ドクトル・ジバコ」作戦と銘打たれたCIAのスパイ活動についても、実在したミッションだったなんて、マジか。しかもその詳細が開示されたのは、なんと!2014年だというんだから驚き!つい最近じゃあありませんか?!それまで機密扱いだったなんて、どれだけ重要で大変な任務だったことでしょう・・・。
作者のラーラ・プレスコットさんは、その機密文書の空白を埋める形で本作を描かれたんですって。黒塗り尽くしの公文書を、見事、物語として生まれ変わらせたんですね。しかも”ラーラ”は「ドクトル・ジバコ」から名付けられたって言うんだから、運命!
時代に翻弄された女性たちの輝かしい戦いの雄姿と内に秘めたる切なる思いが完璧な形で終結しておりました!!
プロローグの「タイピストたち」に始まりエピローグの「タイピストたち」に終わる・・・名もな私たちが抱える秘密・・・良き!素晴らしき哉、タイトル回収。「The Secrets We Kept」(原題)。美しい!
巻末の、謝辞・訳者あとがき・解説を絶対読んだ方がいいです!!理解が深まります。
しっかし、事実は小説より奇なり、それ以上だよ!!
関係ないけど、やっぱりどうしても言いたい。未だに情報統制して、嘘っぱちのプロパガンダを振りかざしているのって恐ロシア過ぎない?
こりゃ、絶対映像化しそう。てか、するのか?!見たい!
ということで、推します。
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