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働くきみを、好きになれたら。


「一緒に仕事してみて、この人好きだなあって思える人って、大体相性がいいと思うんだよね。」


これは、わたしの友人がよく口にする言葉だ。

仕事をしているときに表れる性格や価値観、行動の数々は、普段の生活で表れるそれよりも、その人の本質や根本的な人柄をより強く表している気がする、と、彼女は言う。

普段はノリが良くて気さくで周りから人が集まってくるのに、仕事で部下が困っていても、手を差し伸べようとしない上司。

おしゃれでこだわりが強く、プライベートでは主張が強いのに、職場では物事を決めるのも人に意見するのも躊躇する先輩。

「いい人だと思ってたのになあ」

「プライベートでは、いい先輩なんだけどね」

そう呟いては、悲しそうに笑う顔がやけに印象に残っていた。


「だから、仕事をしている姿をみて、もしくは一緒にして、この人のこと好きだなあと思えたら、その想いは本物に近いというか、かなり自信を持っていいと思うんだ。」

彼女の力のこもった言葉を聞いて、たしかにそうかもしれないなと思う。

彼女のこの言葉には、説得力がある。実際わたしにも、思い当たることがあったから。

わたしがまだ学生だった頃、人生ではじめて「この人に出会えてよかった」と心が強く震え、はじめて目標にしたのは、職場で出会った人だった。

彼の性格、価値観、考え方、人当たり、仕事上でのコミュニケーション全てがわたしの心を鷲掴みにして、わたしもこんな人になりたい、そしてできれば、この人と一緒に働いてみたい、と思った。

そんなこと、後にも先にもないと断言できるくらい(少なくとも今はまだ、2人目には出会っていない)、心から尊敬して、この人についていきたいと思った人だった。


実際にその人と仕事をする機会に恵まれてからは、日々尊敬に基づく「好き」という気持ちが積もっていって、やがてそれは疑いようもない、揺るぎない真実になった。

仕事への向き合い方、業界やサービスに対する理想と信念、そして何より彼の貫き通す生き方、そこから生まれる発言や行動すべてが、何よりも信頼できて、ビジネスなんて知らなかったわたしの心に、何度も火を灯した。

「仕事って、楽しいものなんだ」と思えたし、自分自身ももっと成長して、いつか彼の描く世界と、わたしの描く世界が重なる日がきて、また一緒に働けたら、これ以上幸せなことはないだろうなあと思った。

彼を好きだと思う気持ちはきっとこの先何があっても消えることはないし、この先もずっと、彼はわたしの人生の目標であり続けるだろう。

それはたぶん、その好意が一過性のものではなくて、尊敬に基づいた半永久的な、持続する感情だからだと思っている。


今までは、「恋愛と仕事は完全に分けたい」と思って生きてきた。

だけどこの話について考えてみてから、誰かを好きになる前に、一度仕事をしている姿をみる、もしくは一緒に仕事をしてみるのもありかもしれないな、と思うようになった。

好きになる前に、は少し無理があるかもしれないけど、好きになった人やこれから人生を共にする人とは、もう少し仕事の話をしてみようかなと思う。

そうしたら、今より深くその人のことを理解して、
今よりもっと、愛せるのかもしれない。



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