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さようなら、たくさん夏をくれた君


夏は恋の季節だ。

そして同時に、失恋の季節でもある。


好きだった人の、知りたくない部分を知ってしまった。

本当は、ずっと前から知っていて、ただ知らないふり
をしていただけだったのだけど。

それでも信じていたし、信じていたいと思っていた。

見えている部分だけを真実として、その人のすべて
だと思って、受け入れようと思ってきた。

相手が誰だって、その人のすべてを知ることなんて

できない。だったら、今目の前で相手から出てきた
言葉、目に見える行動だけを、事実として理解しよう
と思っていた。

だけどもう、それもできなくなってしまった。


「ずっと言わないでおこうと思ってたんだけど、あの人
は、本当にやめた方がいいよ。あなたの人生を、
かき乱す価値のない人だよ。」

今までずっと応援してくれていた友達からはじめて
真剣な顔でそう言われて、はじめてわたしが、自分
ひとりでこの恋と戦ってきたのではないことを知った。

どんなに同情されても、やめときなよと怒られても、
わたしは傷ついてなんかいないし、幸せなんだから
ほっといてよ、と思っていた。

だけど、今までわたしの心に擦りもしなかった偽善や
正義感からくるいくつもの言葉と違って、彼女の言葉
は、ずしりと胸に重く響いた。

ずっとそばで支えてきてくれたからこそ、そう簡単に
言えることじゃないし、それなりに覚悟や労力が必要
な言葉だっただろうな、と思ったら、胸が痛んだ。

そうか、わたしは価値のない人に、かき乱されていた のか。

そう思ったらなんだか、自分に腹が立ったし虚しく
なった。


失恋を本当に乗り越えたと言えるのは、好きだった
ことも忘れて日常を幸せに生きられるようになった
ときだ、と誰かが言っていた。

わたしもかき乱されていたことなんて忘れて、日々を
幸せに生きるようになる日が、くるのだろうか。

幸せには、なりたい。

だけど、あんなに全身全霊、無我夢中で追いかけて
きた恋を、その時間や記憶を、すべて何事もなかった かのように生きている自分が果たして幸せと言えるの
か、と聞かれると、少し答えに詰まる。

どんなに極悪人でも、道徳的に間違った人でも、
愛する価値のない人だったとしても、わたしが彼を
好きだった気持ちは、残念ながら、真実なのだ。

確かにそこに存在していた、事実なのだ。

時間も気持ちも労力も、かけた分返ってくるどころか
むしろ損しているくらいだけど、結果がすべてじゃない。

最後に何かが残ることだけが意味のある行為ではない。

少なくともわたしは、そう思う。


彼を想っていた時間は、きっと無駄じゃなかった。

いつも電車でただ通り過ぎるだけだった駅が、2年間
で思い出の詰まった街になった。

興味のなかったドラマや映画を観るようになって、
彼以上にハマってしまって趣味が増えた。

そして何より、彼に出会って恋をしたことで、なかなか
手が出せなかったnoteを始めることができた。


彼はどこかでこの文章を読んで、嘲笑っているかも
しれない。

素直に信じて疑わず、都合のよかったわたしのことを、
ちょうどいい相手だったなと記憶のゴミ箱に放り投げて
いるのかもしれない。

だとしたらものすごく悔しいけれど、それでもやっぱり
彼を好きだった、いや今も好きな気持ちに変わりはない
から、好きにさせてくれてありがとう、と言いたい。

こんなにたくさんの好きをくれてありがとう、と。


これから先、もうこんなに好きな人に出会えるか
わからないし、また同じようなことを繰り返して
しまうこともあるかもしれない。

だけどわたしは彼のおかげで、文章にして昇華させる、
という手段を手に入れた。

だから何かあったらその度に、作品にして昇華して
しまえばいい、と思っている。

どんな相手だって、受けて立つ。

わたしはもう、きっと大丈夫だから。


さようなら、夏にはじまって夏に終わった恋。

さようなら、彼のことが大好きだったわたし。

大丈夫。きっともうすぐ、秋がくる。

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