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八潮七瀬
2018年6月26日 18:56
月に二度ほどふらっと恋人のもとに訪う私を、彼はどのように感じているのでしょうか。知り合ってから干支は一周しました。付き合ってからワールドカップは2回開催されました。けれど、私達は一向に一緒に暮らそうとしませんし、結婚するという話題も全く会話に登らないのです。深夜にテレビを点けて寝そべりながらサッカー観戦をする恋人に「ボールを足で蹴るなんてお行儀が悪い」と言ったら、彼は「ヒールの高い靴を
2018年6月19日 08:20
私は父親の愛し方を知らない。その事実は日常の背後に薄い靄を被せるように存在していて、それに気がつく度に心に陰りが生まれる。幼い私の誕生日に、彼は手作りのクマのぬいぐるみを作ってくれた。リバティ模様のそのクマを私はたいそう可愛がっていた。やがて訪れた思春期の真夜中、父と母が口論をしているのを壁越しに感じた時、跳ね上がりそうになる心臓の上にそのクマを載せて眠りに落ちた。翌日、母は口論の理由を
2018年6月17日 20:47
これは私の知識がいつもどのように広がっていくのか、その過程を示す指標となる文章です。私は常日頃から進むべき道、選び取る事柄に迷った時、過去の自分を思い浮かべ、少女だった頃の彼女に恥じない生き方を選び取ってきました。それを聞いた人は「自我が強いね」とか「自分が好きなのね」と言います。当然です。私は過去の自分の集積です。彼女たちが積み重ねてきたものの上に私は立っていて、そして未来の私のために私も
2018年6月2日 23:29
かつて日本の伝統的な世界観を「ハレとケ(非日常と日常)」と名付けた学者がおりましたが、音楽家なんてものは常にハレの状態にいるか、もしくはそれに向けて猪突猛進、ケなんて蹴散らかして生きているものですから、ハレの状態で興奮しても、それが制御不能の状態になって外に溢れ出るなんてことはめったにないのです。「こんにちは、君は○○の娘さんかな」そう声をかけてきたのは全く知らない初老の男性でしたが、父の名