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思いがけないこと、貧乏ウエディング

今日は朝起きたとき曇り空だった。天気予報では雪となっていたが、あまり期待していなかった。仕事をはじめようとしたとき、ふと障子を開けると外が真っ白だった。

私は雪の日が好きだった。小さな頃から、大人になっても、それは変わらない。真っ白に塗りつぶされた町は、非現実的で美しい。それは、私が住む地域のせいかもしれない。ここは雪国ではない。関東平野の終わりの山間の田舎町。冬になると、ときおり雪の日があるくらい。だから、雪が好きなのだろう。雪国だったら、毎日の雪かきや雪下ろしで、嫌いになっていたかもしれない。私の町は雪化粧という程度で済んでいる。

とおせんぼ

私の町。
私が生まれた町。
私が育った町。
育てられた町。
慣れ親しんだ古い粗末な家の並ぶ小道。
小さな川。
古い梅の木。
いっとき、嫌いになって離れ、
もう二度と帰らないと思った町。
何もかも失って、戻ってきた町。
相変わらず、この町はこの町だった。
私を病ませた町。
私を癒やした町。
あの人に出会った町。

春になって、少し経ったら、
私はこの町を離れる。
もうあの川沿いのコスモスを見ることはない。

結婚するとは思わなかった。結婚式なんて、物語の中のもの、誰か他の人のものだと思っていた。私に訪れるものだとは、思ってなかった。

ウエディングドレスのかわりに白いワンピース。レースのケープでそれっぽく。ラインストーンの手袋も買った。中国製。追加のコルセットとチュールのベールみたいなつけスカートも合わせて、五千円くらい。でも式はたぶん初夏。

何やってんだろ

何やってんだろ。
嬉しいのかな、私は。
はしゃいでるのかな。
たぶんきっとそう。

でもあの子の涙で、やっぱり何か、私は酷いことをしてしまったように思う。これは、祝福されることなのかな、と自信を失くす。誰かの幸せを喜べるのは、偽善者か薬物でハイになってる人か、何もかもどうでもいいとやけっぱちになってる人か、稀有な本当の善人だけだ。

悲しいよね。
一緒に寂しさについて語ったものね。
ありえない怖いものについて、共感したもんね。

でも私はいなくなる。
そしてあの子はまたひとつ、人を大切に思いすぎないことを学んでしまう。実感してしまう。感情を制御する術を、あの子は持てないから。

雪の降る町。
今日だけは、醜いものをすべて覆い隠してください。

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