言葉のヴェール
小〜中学生のとき、本を読むのが好きだった。今も好きだけれど、読むスピードが今の500倍くらい早くて、読む量もいまの5000倍くらいだったと思う。上海にいるころは家でテレビが観れなかったから、娯楽は紙の上に集中していた。
そのとき、その紙の上には読んでいても分からない漢字や、表現がたくさんあった。同じ表現が出てくるうちに、なんとなく読み方に検討がついてきたり、意味をなんとなく捉えてみたり。けど、それでもその紙の上に散りばめられたすべての文字情報を理解しきっていたわけじゃない。そもそも、自分には分かりえないストーリーがそこにあったわけだし。だから、夢中になっていたわけだし。
今思うと、その分かりきらないことが、とても心地良かったのかもしれない。言葉を読んでるけれど、しっかりとは捉えきれない、けど、なんとなくいいなと思う感覚、登場人物の心の描写。言葉をそのまま理解するのではなくて、言葉の羅列に漂う空気を感じるような体験。
大人になって、曲がりなりにも言葉を扱う仕事をしている。分かりやすく、噛み砕きやすく、読みやすい文章を書くことも大事だ。けれど、そういう言葉の空気のようなものを、わたしは捉えて文字の間に潜ませることはできているんだろうか。けど、それは意味のわからないものを書くということでもない。見えるようで見えない、ヴェール1枚越しで読み進めるようなテキスト。そんなかっこいいことが、本当はできるようになりたい。いつもそこを目指し、そこを探り、迷いながら、言葉探しをしている気がする。
そして、いつまで経ってもそこに辿り着けない気がしてしまう。目の前に広がる自分のテキストを読み返して、途方もないことだとめまいがしてしまう。
本を読んでいたときに感じていた不確かさへの期待が、いま、書き手となって恐怖に変わっているのかもしれない。文章自体ではなくて、その行為自体が、10代のころの体験とリンクし始めている。
好きだったものをただ好きでいることは、とても幸せで簡単だ。けれど、そこから一歩足を踏み入れてしまうと、呪いにかかる。
魔法のように思えた本の上の文字たちは、実は魔法じゃなくて、呪いだったのかもしれない。幸せで残酷で、けど愛おしいと思わずにいられない、一生離れられない呪い。
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