名文抽出 -『ハムレット』(シェイクスピア)-
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ハムレットから愛の言葉を送られたオフィーリアだったが、兄レアーティーズにその恋は成就しないものだと諭される。兄の出国の日、改めてオフィーリアを戒めるレアーティーズに対し、オフィーリアは兄の言葉に従うことを誓う。
この胸に錠を下ろし、鍵はそちらにお預けしましょう。
( 自分の心に、自分で開けられない鍵をかける気分とはどのようなものだろう。その鎖は、きっと体までをも縛り上げてしまう。 )
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兄の去った後、オフィーリアの父までもが、ハムレットの愛を否定する。
情欲の血が燃え立つと、心はむやみに誓いの言葉を並べたてるものだ。そんな炎は、光るほどには熱はない。
( 光るほどには熱はない、張りぼての火炎。現代にこそ盛んなように思う。 )
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デンマーク王の亡霊と会話したハムレットは、悲劇の真実を知る。復讐を誓ったハムレットは、記憶の手帳に思いを書き記す。
人は、 微笑んで、微笑んで、しかも悪党たりうる
( 低劣な悪党は、悪の顔をしてはびこる。優秀な悪党は、善の顔をしてはびこる。内面と外面は隔たっている。 )
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王はハムレットの狂気の原因を突き止めようと、ハムレットとオフィーリアを合わせることを計画する。オフィーリアの待ち構える所へハムレットは歩いていくが、そのことを知らないハムレットは狂気の仮面を脱ぎ捨て、心の内を独白する。
生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。どちらが気高い心にふさわしいのか。非道な運命の矢弾をじっと耐え忍ぶか、それとも怒濤の苦難に斬りかかり、戦って相果てるか。...
こうして、物思う心は、我々をみな臆病にしてしまう。こうして、決意本来の色合いは、青ざめた思考の色に染まり、崇高で偉大な企ても、色褪せて、流れがそれて、行動という名前を失うのだ。
( to be , or not to be : that is the question . 心に渦巻く復讐の炎に身を焦がすのか、悲しみの涙で炎を消してしまうのか。けれどもハムレットは行動を志向している。心が求めていることは、心が知っているのだ。 )
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ハムレットたちの元に旅役者が訪れる。ハムレットは演目を指定し、幾らかの科白を書き足す。劇中の王は、王が死してなお愛すると誓う王妃を見て、言う。
決意は所詮、記憶の僕、産声高けれど、永らう力なし。
( 産むは易し、案ずれば危うし、其の名は決意。 )
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ハムレット暗殺が計画されていた御前試合。ハムレットのために用意されていた毒により王妃は息絶え、剣に塗られた毒によりレアーティーズとハムレットは死に捕えられ、最後の力を振り絞ったハムレットにより王は殺される。
ハムレットの親友ホレイシオは、死の饗宴に訪れたフォーティンブラスに語りかける。
何をお探しです。悲しみか驚きをお探しなら、ここにございます。
( 世にも稀な悲劇の見本市。悲しみと驚きの上等なものが揃っている。けれどもハムレットは行動を起こしたし、レアーティーズとの間には死の間際に友情が芽生えた。死に彩られて、それらの価値もまた、高し。 )
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