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君の重さを空の青さに覚える話。本当にその場の思いつき1場面物語


「それなら、私が囮になるよ」

全員が疲れきっていた。
状況は悪くなる一方で、どうしようもなかった。
崩れかけたコンクリートブロックの壁にもたれてマナカはそう言ってきた。

「いや、それは…」
「全員で抜け出そうよ」
「そ、そうよ。そんな一人見捨てるみたいな…」

昨日までは、こんなサバイバルを体験するとは思っていなかった。
誰も、覚悟なんて出来ないし、今あることも信じたくなかったんだと思う。

私も。

「なんとか…ならないかなぁ。ねぇ、マナカ…」

私も、友達を犠牲に生き延びるなんて、考えられなかった。
マナカは、全員が意見を言い終わるのを待ってくれた。
それから短く溜息をついて

「あのねぇ…甘いんだよ。現実を見ろ。ここで全員死にたいのか?」

と言った。
イライラとしたマナカの声に、皆少し縮こまる。

「いい?よく聞きなさい。私はこのメンバーの中で最も肉体が劣っている。今は眼鏡もあるし、まだ道だってあるけれど、この先は解らない。私は眼鏡が壊れたらほぼ、目が見えない。そんなのは絶対に足手まといになる日が来る。救助が来るとか、国が再建するとか、そんな悠長に構えていられる時じゃないのは、もう半日でわかったよね?」

レンズ越しに見える強い瞳に、誰も何も言えない。
遠くで爆発音と、何かの唸り声が聞こえる。

空は抜けるような青空で、何時もの日常なら『お散歩日よりですね』なんてニュースのお姉さんが言っていそうな天気だ。

「人間は、弱い個体も群れに入れて生きてきた。それは、人間の優しさだし、文化だし、営みがそういうものなんだって思うよ。私も…。けれど、今はそうじゃない!私達が、他の犠牲で成り立ってた世界が崩れた!私達も他の犠牲・・・・と同じ立ち位置に放り出された!」

だから、綺麗事は言っていられないとマナカは言った。

「生き延びた先に、未来がある。でも、その未来はすべての命に平等なんかじゃない。だからこそ、生きるのも死ぬのも苦しいし、楽しい。私はなるべく多くの人が生き延びる事に賭けたい。それは可能性の枝をなるべく多くのこすってことだから……」

死んでも繋げたいものがあるから、今ここのメンツにはそれが可能かもしれないから、私が囮になるよ。
マナカはそう言った。
私達はみんな口を噤んだ。
こんな状況では誰だって、選べない。選びたくない。
私達の為に死んでくださいなんて、そんな、恐ろしい事を……。
でも、わかっている。ここにいて、マナカの言葉を聞いた人達はわかっている。
そういう、残酷な事を私達は無意識にして来たんだ。
人間には押し付けられないことを、たくさんのモノに押し付けてきた。
その報いが今、この状況なのだ。


「そ……それなら、俺が囮でもいいじゃん!」

「肉体的に貴方のほうがこの先便利だから、駄目」

遠くで悲鳴が聞こえる。
聞いたことのない足音や、嗅いだことのない臭いがする。
砂埃の中で、誰も彼も薄汚れている。
シャワー浴びたい…。
非常時なのにそんな事を考えてしまう。
きっと、私達は決断しないとならない。
それで背負わないとならない。
そうしなければ、みんなで死ぬしかない。

「マナカは……何が…どんな景色がみたいの?」

真っ直ぐ目があって、胸がおかしいほど鳴る。
トキメキじゃなくて、重さを背負うんだって、本能が危険だから辞めなさいって、訴えている。
それでも、私は聞きたかった。
聞いてどうなるわけでもないけれど、聞きたかった。

「青い空と、白い雲。やわらかな草の生える丘から青い海がみたいかな」

その後の笑顔は、きっと何より美しくて、私はそれを胸の一番奥にしまいこんだ。

土埃と、怒号と、何かの唸り声と、爆発音。
そして、空は抜けるような青空。
瓦礫と化した町中を私達は駆け抜ける。
何処に、日常とか平和があるかわからない世界で、それでも生きようと、重さを背負い、走り出した。




すっごい思いつきで書いた割に、文字数が多くなりました。
老いも若きも、どんな人も、助けられたらいいとは思うのですが
自然界ではソレはままならないものですね。
私は人間は凄くヘンテコというか、特殊な生き物だと思っているので、もし、他の生き物達と同じような状況になったらどうするのかしら?と考えたりします。
私も、なんとかして生き延びる状況になったら足手まといになるでしょう。
コンタクトや眼鏡がなければ、夜は間違いなく動けない。
肉体もタフなだけで頑丈ではない。
その時に、一時的に集まった群れを生かそうと思ったら私は群れを離れるか、群れのために盾になるか。
弱い個体を護りながらの移動は群れ全体を危機に晒します。
子供なら成長して立派に繋げていけるかもしれないが、大人は老いる一方です。
私みたいなのは特に。
蟻の世界のように、一番危険な仕事は大人の捨て身になれる個体がするのがいいだろうと私は思うことがあります。

「なぜ私なんかが生き延びたのか」
というのに悩まされる人もいると思いますが、いいのです。生き延びたのだから。だからこそ、繋げていくしかない。それが生きる重みなのです。命を懸けて燃やし尽くす事も重みで、それはどちらも比べようのないことなのだから、繋げていくのです。

私の考え方は非情でしょうか。
そう思う人がいる事を私は知っています。
大切な人だから、弱い強いじゃなく護りたい、たとえどんな犠牲を払っても。
そう思う人もいるでしょう。
人間が感情の生き物であるから、そういう事が絆にも障害にもなることは、今この時だってわかっているでしょう。

様々な方向から、様々な心を感じ取ります。
私も一色ではないので、今回のような話の心情以外に、なんの利益もなくても、たとえそれが理論的でなくても、ソレを選ぶような心も持ちます。

他の生き物達の生き方や、人間のヘンテコさ、様々なことをぐるぐると巡らせています。

1場面物語は脳内にやってきた、たった1場面です。
今回のお話だって、マナカ達はどこから来たのかとか、なんでそんなことになったかとかは、私にもわからない。
ただ、彼女達の決断の一幕を、私の脳内が創り上げたのでした。

これを書き留めることに意味はあるのか?
誰かの心を傷つけないか?
私は一体何を想い考えたのか?

?はつきません。

正しい答えなどありません。


これはただの1場面物語なのだから。



あなたが選ぶ事がどんな結果を招こうと
それでもあなたは其処にいる。
その存在をどうか大切に。


願わくば、たまに悲しくとも、笑っている日もある。そんな日々の積み重ねの中の命でありますように。

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