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【INUI教授プロジェクト】⑤      第二章 Assemble『小春』


集合

【小春2】


「冬音…梅子ちゃんの後ろに悪い小人さんが見える…

夏樹の後ろで小さく肩を震わせながらそう言った冬音を、私と梅子は鋭い目つきで睨んでいた。

冬音が来てから数か月たったある日。この日の冬音の発言が所々でほつれてきていた4人の糸をプツリと切ることになる。。。

「ちょっと…小春さん!なんで梅子、冬音だけをそんなに威嚇するんですか?!なんか、狂暴化していませんか梅子?!冬音もこんなに怖がっているんだから、布綱に縛っておいてくださいよ!!」
声を荒げて冬音を庇う夏樹は、冬音に一体何を吹き込まれたの?!

「最近俺にも牙を見せるんですよ!!」

「それは夏樹が冬音といっつも一緒だからじゃない?」

「なっ!なんですかそれ?!小春さんヤキモチっすか?!」

「私が妬いてどうするのよ?!」

「梅子のヤキモチだとしても、こんなんじゃ!!もし冬音が襲われたらどうするんですか!!縛って下さい!!」
文秋は小春のキュッと噛み締められた口元を見ていた。

「じゃあ、あなたが悪い小人掴まえればいいじゃない?
今度は夏樹がギリッと歯を鳴らす。

「冬音!いこう!!小春さんと話していてもらちが明かない!!」
夏樹はくるりと背を向けると、小さな冬音の手を取った。

冬音がドアの方に引っ張られるその時だった。口元に嬉しそうな…それでいて不気味ともいえる程の笑みが浮かんでいた。
文秋が冬音の視線を追うと、そこにはワナワナと小刻みに揺れる小春がいた。

夏樹が冬音の渦に引き込まれている感じは小春も文秋も気づいていた。
小人を盾にして無垢な香りを漂わせてはいたが、小春には…その笑顔のお面の後ろにある冬音の真の姿がはっきりと見えていた。
そして文秋もまた…冬音の笑みの裏側にある得体のしれない黒さに、心の奥を揺さぶられていたのである。


§


コンコン。。。
「冬音…ちょっといいかしら?」
それは冬音がプロジェクトに参加した初夜の事だった。
廊下に設置された監視カメラを避けるように開いた戸をさっとくぐり、小春は音が響かぬようそっと戸を後ろで閉めた。
強張っていた表情は冬音を前にし、雪の様に解けて行く。
「冬音!!!無事だったのね!!!」
小春は笑顔で目の前に立つ冬美を抱きしめ、その腕をきつく冬音の体に絡みついては、時折そっと肩を撫でた。
が、冬音の両腕は背中で組まれたままで小春に回される様子はこれっぽちも見られない。

私を裏切っておいて…よくも無事だったとか言えるわね…」

その言葉に目を見開き、そっとその身を冬美から離すと
そこにはずっと見守り続けたかったはずの笑顔があった。
しかし、この…笑顔…ではない。。。
笑っているが、その裏で轟音が鳴り響いているような威圧感を小春は一気に感じた。

冬音はゆっくりと自らの洋服を上へとまくり上げ脱ぎ去った後、ぱさっと冷たい床の上へと投げ捨てた。

「これで…無事だって。。。そう思いたいだけなんじゃないの?」

滑らかなはずの白い肌には無数の傷跡に痣…

「これは。。ベルト。。。これはバット。これは熱湯かけられた跡で、根性焼きに…あっ、これは骨折させられた時に出来たもんよ。。。それから、、、」
冬美はゆっくりと右手を腹の上に乗せる。

「こんなか…もうぐっちゃぐちゃ。。。」

自分がいなくなった後…魔の矛先は冬音に向けられた。。。冬音の服が胸のあたりまでたくし上げられた時には小春は既に悟ってしまっていた。
冬音以上の苦しみを生まれてからずっと味わってきたはずだった小春だが、それでも、今まで守っていた物が壊された事に心が張り裂けそうになっていた。そこに追い打ちをかけるかのように冬美が笑って立っている。

「小春が…ここに来なければ、私に危害が及ばなかったはずなのに…」

「ねぇ。。。私の自由を返して」
固まった笑顔で…しかし、冬美の瞳に色はない。

それはあまりにも理不尽な要求だった。
自分を犠牲にしてまで守り抜いてきた者から発せられるなど夢にも思わない言葉であるはず。それでもそれは小春の中にあった小さな罪悪感を身体の奥底からゴボッと湧き起こさせた。
青ざめ、愕然としながら床に膝をついた小春を見下げ、ふっと鼻先で笑う。

「私がここに来た本当の理由…教えてあげよっか、お姉ちゃん。。。

この日冬音が3人の前に立った時、それが自分の妹であると小春が気づかないはずはなかった。一年前…地獄に置いてきたはずの妹が目の前に立っている。。。言葉を発することも出来ずに立ち尽くす小春に、まるで初めて会うかのように振舞う冬音。小春はそんな冬音にその場はぎこちなく合わせる事しか出来なかったが、何か理由があるのかもしれないと、そっと冬音の部屋を訪れた。これは、小春が思い描いていた再会とは程遠く…いや、遠いだけだったらまだ良かったのかもしれない。。。

自分を憎み、自らの痛みを突き付けてくる妹がここに来た本当の…理由…?


ゆっくりと小春に寄り添うように腰を下ろし、冬音は小春のおでこに自身のおでこをコツンと合わせる。。。


小春をアイツらの元につれ戻すため…


ふふっ…ふふふ...月明かりが照らす部屋に冬音の笑い声だけが響いていた。



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第一章はこのマガジンからどうぞ。


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