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【INUI教授プロジェクト】②      第一章Introduction『夏樹』


●被験者『夏樹』の概要●


【夏樹】~ Introduction


何となく面白そーだなぁって思って申し込んだ。
俺の理由は本当にそんなもんだった。
こんなプロジェクトがあるらしいと聞いていた物の、ふ~んと軽く頷く程度。たまたま小遣い稼ぎにってうけた仕事がINUIプロジェクト敷地を囲む外壁の補強作業手伝いで、そこで初めてプロジェクトの内容を知ったくらいだ。話を聞くと、何にもない状態でスタートするテレビ番組みたいな企画で、しかも監視されてる設定。テレビ番組感半端ない…おもしれー(笑)。とはいっても、俺の生活はそのまんまで充実してたし、別に見ている側でもい一かなーっと思っていた。
実のところ俺を説得してきたのは、いつもは横でそんなに意見を発しない文秋だった。まぁ、アイツも一緒ならいっかと入ってみると俺が想像していた面白さはそこにあって、新しい時間の過ごし方も日々何かを作り上げる楽しさもある。先に入っていた小春さんも気さくでいい人だし。男女の隔たりなく過ごせる関係みたいな。
ただやっぱり女性だから力仕事は俺がやるべきだよなーって。
気になった事があるとしたら、俺が小春さんの前に立つと何か一歩下がられるような…一瞬ガツンと顔がきつくなる時があって、あれ…俺何かしたかなー?って。文秋は、多分俺のずうたいがデカいからじゃん?って笑ってたけど…俺…臭うのかなぁ~ってちょっとへこんだりも実はしてた。(笑)
あんときは花を脇に擦りこんだり…あれ、監視カメラにも映ってたのかな…あははは。
三人で過ごす時間は楽しかった。俺は料理も出来ねーし、出来る事と言えば体力使った仕事だけだったけれど、何もない状況下では俺の存在は役に立っていたと思う。

俺はそれなりにこなせるけど、特に秀でたものの無い人間だと思っている。
中学高校とずっと野球一筋だった。将来はぜってー野球選手だと夢見てやまなかった俺に両親は哀し気に眉をひそめながら笑っていた。
「プロ選手になれるのはほんの一握りの人間よ」18になっても、まるで5歳児みたいに目を輝かせながら「プロ選手」の夢を語る俺に、野球のオファーは来なかった。そこそこの大学に行って、そこそこの企業に務めて、んで、結婚して子供産んで…なんだ結局俺も大したことなさそだなって苦笑いするしかなかった。
野球に夢中になって駆け抜けてきた学生時代…最後大学では思い切り楽しもぉーって思ってはいたけれど、なんかこう俺の中でぽっかり抜けている部分が周りの人間にはちゃんとあって、その、何ていうか…差を見せつけられるような気持ちになることが多かった。結局辿り着くのは、「俺ってただの野球馬鹿じゃん」って事だけで、野球以外の人生経験が語れない。
それでもなんか諦められなくって、野球がまだ心にあるから笑って居られるような気もしていた。
野球を熱く語った合コン…可愛いなって思ってた子に言われたんだ。「野球の話ばっかしてると女子は引くよ」って。そしたらそこに居た女子全員がクスクス笑い出して…ちがうなぁーって。
腹立たしいとか、悔しいとか…そんなんじゃなくて、俺の在り方が自分では好きだと言い切れるのに、世の中では通用しねーのかなって。。。握りしめたボールを投げる事も潰すことも出来ない宙ぶらりんの自分がいるみたいで、なんかやるせないっていうか。



俺は柔らかい木の枝を見つけて、それを組み合わせて編み込んだ手作りボールを作った。
思い切り投げて思い切り走る…気持ちいい。高く高くボールを投げて、キャッチ。
そんな俺の野球相棒は梅子だ。何個もボールをダメにされたけど、作る時間はたっぷりあるし…とにかくボールを一緒に追いかけられる者がいてくれることが本当に嬉しかった。
梅子は、このプロジェクトがはじまった時に教授から小春さんに授けられた柴犬。だから、俺たち男子よりも勿論小春さんに懐いていた。
プロジェクト参加初日…梅子がクンクンとしながらグルグルした次の瞬間に知った事…梅子なのに雄
片足を上げながらしょんべんしてて…(笑)これには、ちょっときつそうかもと踏んでいた小春さんのユーモアに笑った。


四人目の参加者はちっこくてふんわりした感じの冬音。なんだろう。。。こうにっこり笑うと周りから小さな花がぽんわり出てくるような天然。どっか抜けてて、でも憎めない。そんな女の子。
小人を見つけるために参加したって聞いた時に、俺はすげーなーって素直に思った。野球っていう人が誰でも認めるものでさえも、そこを目指している事で隅に追いやられるっていうのに、小人を求めてここに立っていると凛として言えるなんて、この人は自分の中に揺るがない何かを持ってんだなぁーって。
だから、文秋が「ちょっと変わってるね」と冬音の事を言った時にはカチンときて…。
いや、アイツの反応は多分普通の反応だって今なら思えるんだけど、あの時はその「普通」から引き離された環境だったこともあって、「文秋も結局は他の奴らと同じなんだよなー」って。そこから冬音と過ごす時間が多くなっていった。今まで呆れ顔で聞いていた人たちとは違って、俺の話をじーっと笑って聞いてくれて、だから俺も彼女の小人の話に耳を傾けて。全く違う話なのに、こう話している次元が一緒っていうか…。
俺はすごく嬉しかったし、充実しているって心からそう思えていたのに、小春さんと文秋は、なんか怪訝そうに俺を見ては大丈夫か?と言ってくる。
なんかそれが腹立たしくなって。冬音を見つめる二人の視線も曇っている事に、まるで自分がそんな目で見られている様で嫌気がしてた。




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。。。勝手にプロジェクトロゴを作ってしまった。。。(笑)

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