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【INUI教授プロジェクト】⑧     第二章 Assemble『文秋』


【文秋2】

ー 冬音が。。。僕に。。。

魔法の薬が何なのか。。。そんなことは文秋にとってどうでも良い事だった。夏樹の話からすると、その矛先は梅子。でも…
文秋は蹴散らされた土山にも目もくれず、咄嗟に野原を駆けだしていった。
広大な敷地内を止まることなく進み、文秋は外壁がそびえ立つ端に辿り着いた。

息は上がり、額からはぽたぽたと汗が流れ出る。北側の外壁に沿ってゆっくりと歩く。
1,2、3…を数えながら。。。
24本目の柱でふと足を止めたと思いきや、文秋は柱の足元にある草を狂う様に毟り始めた。
ー 利用される…利用される。。。

§


それは、冬音が加わってから数か月経ったある日の事だった。
文秋はいつもの様に食材を探しに出掛けていた。木の実に茸…薬草に食用花…鳥の巣にある卵に野イチゴ。。。次々にかごの中へと入れて行く。
楽しかった。人の手が加わることのない土地に自然はこうして豊かさを必然としてもたらしている。植物の命の強さは計り知れないと身にしみて感じる。

種さえあれば…何だって。。。

ふと、文秋の足が外壁の方へと向かう。
1,2,3。。。とある柱で足を止め、ゆっくりと雑草をかき分ける。

ー 育ってる。。。
柱から顔を出していたのは、まるで手のひらの様な形をした葉っぱ達。。。3枚、5枚、7枚。。。どれも奇数の小葉がついている。。。

「あっ、小人発見!」
文秋が後ろを振り返ると、そこには冬音が立っていた。
「なっ!!何やってんだよこんなところで!!」
「小人探しです。文秋さんは何してるんですか?」
ゆっくりと草をかき分けて文秋の方に近寄ってくる。
「ぼっ、僕は、食材を探しに…」
冬音の口角がうんと上がる。
「って、ここに何かいいものでもあるんですか?必ず月一でここにきてますけど。。。」
文秋の顔に怒りと動揺が浮かぶ。

「あれぇ、小人の手形かしら?」
文秋が慌てて柱の前に立って葉を隠す。

「それとも…あれ?大麻って食べられましたっけ?」

にこやかにそう告げた冬音の言葉に一気に文秋の顔が青ざめた。



あれは外壁の建設作業の時だった。父に認めてもらうために…高額の金を手に入れる手段として、文秋は大麻の種をこの柱に隠していた。
種のある面が敷地内に面するように配慮して。。。
植物学しか脳の無い自分にとって、父親をあっと言わせるだけの金を用意するにはこの手段しか文秋には考えつかなかったのである。一つの問題としてあった栽培場所も、このプロジェクトを知った時に解消され、後は自然が役目を果たしてくれるいとも簡単な計画。
僕は今までじっと親の言いなりになって来た。自分の力で父親に認めてもらうんだと。
それが違法であることも全て承知の上の文秋だったが、彼の父親に対する復讐心にも似た
感情は情熱と呼べるまでに膨れ上がっていたのだろう。
その上このプロジェクト実行中、敷地内で起こることは敷地内で留まる事。。。
今いる場所に法などというこざかしい物がなかったのも、文秋の心に火をつけた要因だった。


「ここ、丁度監視カメラの死角にはいるんですよねぇ。。。私プロジェクトはじまる前に監視カメラ全てチェックさせてもらって知ってるんですよ」
冬音はプロジェクト参加前に内容確認という名目で監視カメラの位置、そして既に参加していた3人の行動を調べ上げたいたのだ。

「敷地内の死角。ふふふ。これ、乾教授が知ったら…」

「たっ、たのむ!!誰にも言わないでくれ!!」

冬音はふふっと笑うと、
「どうしよっかなぁ。。。あっ!小人みーっけ!」
フワリと回転し走り去ってしまった。

ー 僕の計画がバレる…バレる…バレる。。。冬音に弱みを握られた…。



文秋は大麻を毟りながら、冬音に頼まれる事が何であったとしても、いつか責任転嫁をされるとパニック状態になっていた。弱みを握られている上に、梅子の始末に関わらされる。
自らの手を他人の悪事に染めるなんて計画外だ!
僕は父を見返したいだけなのに!!

おぉぉぉぉーーーーー!!!!

文秋の遠吠えにも似た叫びが青空に響き渡っていた。




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第一章はこのマガジンからどうぞ。

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