カッパ伝説
主人の誕生日に、家族で食事に出かけた。
少しお洒落な和食店だ。
私たち三人はテーブル席に案内され、主人と四歳の娘はゆったりした奥のソファへ。私はテーブルを挟んだ向かいに腰かけた。
壁側に座っている娘からは、店内全体が見渡せる。
少し照明を落とした店内は、4人がけテーブル席が3つ、カウンター席が6つほどのこじんまりとした空間だ。しかしゆとりを持って配置されているので居心地が良く、リラックスできる。いつも行くような、ガチャガチャとしたファミレスとは全く違う雰囲気に、娘も嬉しそうだった。
私たちは、刺身の盛り合わせや燻製、白子などのおつまみをオーダーし、美味しい日本酒とともに味わった。娘は、握りたてのホカホカおにぎりに味噌汁、旨味たっぷりの西京焼きを美味しそうに頬張った。
早々にご飯を食べ終わった娘は、ふとカウンターを指差してこう言った。
「あの人、カッパ?」
振り返ると、カウンターには頭頂部だけがツルツルになっている男性が座っていた。いわゆる沙悟浄タイプだ。
「シッッッ!」
私は、思わず口に手を当て、
「せりちゃん。そんなこと言っちゃダメだよ。」
小さな声でたしなめた。
「どうしてダメなの?」
え?
どうしてって?
そうか。そりゃそうだ。
娘からすれば、
「カッパじゃないとは思うけど、でも、もしかしたら本当にカッパかもしれない」
と思ったから聞いただけである。
娘はカッパが大好きだった。
毎日のようにカッパの絵本を読み、カッパの歌を歌っていた。
いやいや、しかしそういう問題ではない。
いくら子供とはいえ、言って良いことと悪いことはあるのだ。
主人が、小さな声で答えた。
「お父さんも、カッパだと思うよ。でもね、思ったとしても、そういうことは大きな声で言っちゃいけないんだよ。」
娘は、自分がマズイことを言ったかもしれないと、照れ臭そうに笑って頷いた。
いやぁ娘よ!
やめてくれー!
不意打ちでそんなことを言われたら、
『聞こえてないかな』って焦るし、
『カッパに見えたんだ』って笑ってまうし、
めちゃくちゃ困るやないかーい!
子供とは、本当に予測不可能なことをする。
カッパ伝説が生まれた、主人40回目の誕生日の出来事であった。
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