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昇進のためにどのように自分を変えてきたか

先日、一緒に中途入社した同僚に「昇進するたびにどのように自分を変化させてきたかを知りたい」と言われた。6年前に同時に中途入社したときに私は課長で、その後、部長・執行役員と昇進したのだが、その同僚は部長で入社して今も部長を続けている。

彼が言うに、例えば、某取締役は有能な人だが、仕事をしていたら自然に昇進して取締役になったという印象。それにくらべて私は意識的にポジションを取りに行っているように見える、とのこと。近しい同僚として私のことを観察してきたけど、本人がどのように考えているのか知りたい、ということだった。

彼からそのような質問が来るのは驚きだった。なぜなら、入社直後は、話していても「さすが部長は視座が違うな」と思っていたから。彼から学ぶことは多かった。その彼が、時が経ちこのような質問をしてくる、ということは、もしかしたら、この6年間の自分の経験は意外に誰かの役に立つかもしれないと思い、せっかくなので文章にまとめることにした。

まずは、意思表明すること

私は、入社前の面接のときに「執行役員目指しています」とはっきり表明した。そう言い切れる状態まで至るまでには、何年にもわたる深い葛藤があったわけだが、少なくとも6年前、今の会社に入るときには、明確な意思表示ができる状態だった。

今から考えると、当時の執行役員であった上司は、自分の後継者を探していたのだと思う。私が意思表明したら明らかにほっとした表情だったのを覚えている。

執行役員になると実感するのだが、後継者のパイプラインを作ることは重要な業務である。例えば今の私の評価項目にはこのパイプライン構築が入っている。グローバル企業では、内部昇進で執行役員のポジションを埋められる、というのは、株主へのアピールポイントでもあるようだ。(特に、ダイバーシティの観点で、女性・マイノリティが望ましい)その点、特定業務のプロフェッショナルでありながら、英語で発信できるアジア人女性であることが優位に働いていたことは否めない。(もちろん、それだけで昇進できるほど甘くはないのだが)いずれにしても、パイプラインとしての位置づけを上司と共通認識を持つことで、それ相応のチャンスが与えられたのは大きいと思う。

社内での知名度向上を意識する

入社後、課長としての仕事を頑張ったのはもちろんだが、上司が私の名前を社内で売ってくれたことは多大なる影響があった。上司としては、自分の組織作りが順調であることをアピールする意図があったはずだが、昇進のためには引き上げてくれる上司が必要、というのは私も重々承知していたので、その意図にためらわずに乗っかるようにした。上司の意向を踏まえて、組織に新しい風を吹かす仕事を積極的に取り組んだし、社内の有力者の前でプレゼンテーションする機会があれば、変革を起こしている雰囲気を発信し、それと合わせて名前を覚えてもらうことを意識した。こうした上司との協業がうまくいっていた結果、上司が私のことを社内で宣伝してくれて、初めて会う人にも「(●●さんから)優秀な方だという話を聞いてます」という会話から入ることが多くなった。

振り返ると、「名前を売ることをためらわない」「機会があれば前に出る」という姿勢は、昇進のためには欠かせないと痛感する。ポジションが上がるほど、社内の影響力を行使して変化を起こすことが求められるが、イメージづくりと発信力がないと高いポジションで変革を推進するのは難しい。とかく優秀な人ほど「実績を出していれば見てくれる人は見ているし、引き上げてくれる」と思いがちだが、実は、シンボルになる覚悟があるかどうかは上位ポジションになるための最低限の条件なのだ。「見ている人は見ていてくれる」というスタンスはどちらかというとネガティブに働く。なぜなら、部門を代表する立場になると、部門の存在感を示すことを求められるからだ。必要な時には存在感を示す覚悟があるというのはリーダーとして必要なスキルなのだ。

ちなみに、周りから「この人は昇進しそうだ」と思われると、人間の勝ち馬にのる心理を使って業務が進めやすくなる。集団の持つパーセプションに働きかけて人を動かすのは政治力なのだが、こうした影響力もリソースとして意図的に使うくらいのドライさがあるかどうかは、意外と大きいと思う。

コートのラインのギリギリを狙って勝利する

部長になって一番意識したのは「ビジネスは試合である」「(テニスのように)コートのラインのギリギリを狙って勝利する」というマインドである。たまたま、ロイス・P・フランケルの「大人の女はどう働くか?」という本を紹介してもらい、このマインドを学ばなかったら、昇進はおろか、部長としての評価も得られなかったのは間違いない。


そもそも課長から部長に昇進したからには、裁量と権限をつかって革新を起こすを期待されているのだが、(特に女性は)頼まれる前にすべきことをやっていれば、自分はうまくやってると思いがちだ。先回りして上司の意向をくんで動くのは課長としては評価される振る舞いであるが、部長になると逆にそれが足を引っ張ることになる。

特にこの「先回り能力を遺憾なく発揮して、他人の的の中心に当てに行く」というマインドが強すぎると、会社の過去の決定や歴代の上層部の意向などに引っ張られて、できる範囲を小さくイメージしてしまう。状況は常に変化しているので、制約条件が変わったり解釈を変えることで、過去NGだったことがOKになることは往々にしてある。そのような領域を見つけて、正当な理屈で周りを巻き込み物事を動かしていくと、変革を起こしているように見えやすい。これが「コートのラインのギリギリを狙う」ということだ。他人の意向を先回りしたり、過去の決定事例をくまなく舐めて通りやすい提案をするのに神経を使うのではなく、会社で求められる価値や判断軸の風向きの変化をとらえて、それをテコにしてこれまでNGだったことにも踏み込んでいくと、リスクを取れるリーダーというイメージを作ることができる。

昇進の準備が整っていることをみせる

執行役員に昇進できるかどうか、当時は正直なところ確信はなかったし、比較評価されていたはずだが、それでも昇進できたのは、昇進前から執行役員の視座の発言をしていたのが大きいと思う。執行役員が集まるワークショップに部長も何名か呼ばれるのだが、ディスカッションの際には、良い意味で自分の役割をわきまえず自由に発言するようにした。人によっては「自分がこの会議に召集されているのは専門領域のコメントをするため(逆にそれ以外の意見を言うと空気読めないと評価が下がる)」と思うだろうが、実際はそんなことはない。逆に、突き上げや批判でもなく、参加者のメンツをつぶさない言い方で、議論を深めるコメントができれば、むしろ評価されるのだ
執行役員になると、経営陣の一員として自分の専門領域を超えたテーマの議論や重要な決定に加わる機会が格段に増える。その時に、専門外だからといって議論に加わらないわけにはいかない。集団として質の良い決断ができるように、思考が深まる問いかけを投げかけたり、鋭いコメントをして場に貢献していくことが求められているのだ。さらに、事業戦略やビジョンに沿う形で前向きな話ができればなおよしである。この人を昇進させたら、場に貢献してもらえそうだ、と昇進の決裁権者に期待させることができたのが決め手になったと思う。

これはもしかしたら、私が女性であることとも関係しているかもしれない。ある学者は、「男性はポテンシャルで昇格させられることが多いが、女性は、次のポジションの仕事をできることを証明しないと昇進できない」という無意識のバイアスがあるという。(いわゆる「立場が人をつくる」というのは男性に適用されやすい)私が女性であるがゆえにこのような態度がより強く必要だった可能性はある。また、議論への貢献度が特に重視されるのも、発言の量が評価されがちなヨーロッパ系の企業であることも影響しているかもしれない。置かれている環境はケースバイケースだが、少なくとも自分が有利なのか不利なのかをジャッジすること、有利な機会を確実につかみ、不利な部分をカバーしていくことが重要である。

評価基準が変わることに気づいているか

以上、これまで私が昇進のためにどのように自分の意識や振る舞いを変えてきたかを綴ってきた。もちろん企業や職種により、ポジションに求められる振る舞いは異なるのだが、ポジションが変わるごとに振る舞いを変える必要があるのは間違いない。これを読むと「ここまでして出世したくない」と思う人もいるだろうが。しかし、私自身は「執行役員を目指した本音の理由」でも書いた通り、出世しないことのデメリットが自分にとってあまりに大きいと痛感していたので、強い割り切りの気持ちで取り組んできた。もちろん振る舞いを変えることは簡単ではなかったが、その分、成長できたとも思う。

もしポジションを狙うのであれば、今、評価されているやり方が次のポジションでは評価されない可能性がある、ということを知っておくのは極めて有益である。もし、自分が昇進できない理由が分からない、と悩んでいる方がいれば、参考にしていただけると幸いである。

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2021年6月に、Udemyという動画プラットフォームでキャリア講座を公開しました。「女性管理職からジェンダーレスなマネージャーへ」

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▼昇進前にエグゼクティブコーチをつけることになった話

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