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『古今著聞集』老僧の水練02(古典ノベライズ前編)

(先週 ↓ から続き)
https://note.com/namikitakaaki/n/n9c1187cb246a
https://note.com/namikitakaaki/n/n38b9e83d6943

 あたしたちシンクロクラブのメンバーも、幼児部の子たちも、もちろん先輩も、ガッカリした気持ちで踵を返して、2、3歩とぼとぼ進んだそのときに。

「YOUたち、待ちな!」

プールサイドには、それはよく通る女性の低音が響き渡ったんでしたよね、先輩?
 振り返ればそこには――さきほどまで白ポロシャツにサングラス姿で、ビーチチェアーに寝転んでいた老監督の姿は、なかったの。
 演技が、始まったから。
 現役張りに鮮やかでツヤのある際立った青のハイレグ水着と、白の水泳帽を身にまとい、スイムクリップを鼻に掛けた、老婆が、たった一人、シンクロ独特の顔つきで、指先を天井へと向けたキレッキレのポージングのまま、水の上をこちらへ歩いて来たんだよ。
 わたしたちはメンバーも幼児部の子たちも足を止めて、もうパニック。

「おかしい! なんでっ? 水の上を……歩いてるよねっ?」
「おばーちゃんは、いつ、おきがえと、おけしょうを、したの?」
「えっ、気になるのソコ?」
「オー、ジーザス!」

 留学生のキャシーなんか聖書の一節でも思い出したのか元から大きな目を益々大きしてから、ふっと突然真顔になるやなにか思い直したようで「……ニンジャ?」と小声でつぶやいた。
 みんなで口をポカンと固まって、息をするのも忘れていた。
 すると……。

(明日に続く)

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