『古今著聞集』老僧の水練01(古典ノベライズ前編)
ねぇ、先輩。
いつのことでしたっけ?
ああ、そうそう。
あたしが17歳で、先輩が18歳のときでした。
あたしたちが通っていたシンクロナイズドスイミング・クラブの先生のコネで、メンバー全員と、クラブの幼児部に通う子供たちも一緒に、あの名門『竹生(ちくぶ)シンクロ塾』に見学に行くチャンスがありましたよね。
あ、いまは「アーティスティックスイミング」って、呼ぶんですけど。
『竹生シンクロ塾』といえば、オリンピック選手をじゃんじゃん輩出している日本一のシンクロの聖地ですもん。あたし、前夜は興奮してぜんぜん眠れなかったんです。
ところがです。
覚えてます?
施設内を巡って、練習法なんかをコーチ陣が教室で教えてくださり、管理栄養士さんの疲労回復特別レシピもいただいて、さあいよいよオリンピック候補生の演技を生で見学できるんだって広報の方に先導されて、シンクロ用のプールに行ったんでしたよね。
幼児部の子たちもニコニコしてましたっけ。
「ここのね、おねーさんたちはね、泳ぐのがね、すごいんでしょ? はやく見たいね」
そしたら、いなくて。
見学できるはずのオリンピック候補生が、プールに、ひとりも。
(明日に続く)
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