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『古今著聞集』老僧の水練01(古典ノベライズ後編)

(昨日 ↓ から続き)
https://note.com/namikitakaaki/n/n9c1187cb246a


「いないじゃん」
 先輩は本当に意外そうな声で、あたしを振り返りましたっけ。
 そうなんです。きょうはここ名門『竹生(ちくぶ)シンクロ塾』で、オリンピック候補生たちのシンクロ演技を、見学できるはずだったのに。
 プールサイドに唯一いたのは、サングラスに白いポロシャツで、ビーチチェアーに寝転んでいたのは、かの生きる伝説・竹生さゆり監督。
 御年、当時で75歳。
 さすがにお休みになられている監督に、おいそれと声はかけられない。
事情を聞くよう先輩に命じられ、広報の方に確認したのが、あたしでした。

「あたしたちも、幼児部の子たちも、オリンピック候補生の演技を見たくて来たのですが……どうでしょうか?」

 広報の返事は、

「ああ、すっかり忘れておりました。すみません。残念ですが、みんな取材で、入れ違いに出て行っているのでした。いまここには一人も残っていないんです。普段だったら、見学のご希望には簡単に応えることができたのですが……」

 広報さんが、うっかりしていたらしい。
 いないんなら、どうしようもない。
 涙目の幼児部の子たちと一緒になって、メンバー全員それぞれがガッカリしながら、やむなく帰ることに決めたのでした。
 ところが……。

(来週に続く)

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