『平家物語』扇の的02(古典ノベライズ前編)
先週分 ↓ からの続き
https://note.com/namikitakaaki/n/n01dbc1fdb3eb
https://note.com/namikitakaaki/n/nc3009db5fa9c
丸刈りの宗隆は右手に拳銃を握ったまま、そっと目を閉じ、栃木訛(なまり)で小さく祈る。
「我が故郷の弓の達人・那須与一様。外国の伝説のウィリアム・テル。新潟の女武将、板額(はんがく)御前。ヨーロッパのほうの、最強の軍人・シモ・ヘイヘ。あとはアメリカの小説家の……バロウズっつったか? ああ、いかんいかん」
北風吹きすさぶ中、小柄な宗隆は切れ長の目を大きく開き、かぶりを振る。
「バロウズってのは射撃に失敗して、頭を撃ち抜いて嫁を殺してんべ」
宗隆がいま名前を挙げた面々は、自分を拾ってくれた東京の伯父貴に教えてもらった、弓や銃の名手たちだった。
在京の伯父貴は、きわめて博学だった。
宗隆は勉強こそ嫌いだったが、自分の拳銃の腕前を伯父貴が歴史上の人物で褒めてくれるのが嬉しくて、そのたび実の父親に褒められているかのような気分になったものだ。
「栃木の出なんだろ? お前は、拳銃で那須与一になれ」
「バロウズって小説家がいてな、こいつは麻薬に拳銃と、なかなかおもしろい奴でな……」
一般的な形ではないかもしれない。
しかし宗隆青年は、伯父貴からの違うことなき愛情を一身に受けていると実感していた。
「やっぱり伯父貴のために働いて、また伯父貴に褒めてほしいんだよな」
拳銃を握る手に力が入った。
(明日へ続く)
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