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『古今著聞集』老僧の水練02(古典ノベライズ後編)

(昨日 ↓ から続き)
https://note.com/namikitakaaki/n/na4cb20e6c5e5

 老監督はプールの水の上を小走りで蛇行しながら、同時にキビキビとしたシンクロの身振り手振りで近づいてきた。
 プールサイドにいるあたしたちに近づくと、水の上で直立したまま、背筋を伸ばして一礼した。
 いつの間にやら真っ青マブタにばっちりメイクの顔をバッと上げ、よく通る声でこう言った。

「前もって連絡をreceiveしていたのに、入れ違いでYOUたちを帰すことを、MEはリアルガチで恥じ入っております。So sorry!」

 言い置き、終演後のシンクロ選手さながら晴れやかな笑顔と、思い切り手を振った弾む行進で、プールの水の上を向こう岸まで戻っていく。
 何事もなかったかのように、先のビーチチェアーに寝転んだ。
 こんなオドロキの水泳の達人を見ることなんて、もう一生あるわけない!
                *
 ……はずだったのに。
 まさか後に自分たちが竹生監督直伝『水上歩行』で、オリンピック日本人『男女デュエット』初の金メダルを取るとは思ってもみませんでしたよね、先輩?
 苦楽を共にしてきた先輩と表彰台の一番高いところにいられることが、いまのあたしには嬉しくて仕方がなかったんだ。

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