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ハリウッドが人情派!?意外なハリウッド人脈術〜辛酸なめ子の「LAエンタメ修行 伝聞録」

パンデミックで各国の映画業界が苦境に立たされています。外出自粛やロックダウンで映画館に行きたくても行けず、興行収入は落ち込んでいます。例えば3月下旬の一週間で、全米全ての映画館の収益は約55万円だったというショッキングな数字を目にしました。でも、エンタメ業界に息づくクリエイティビティが失われたわけではありません。映画を公開してからわりとすぐにネット配信したり、映画スタジオ側もなんとか生き残る術を探っていて、映画界も時代に合せて変化しようとしているようです。これからネット配信作品も増えていくのでしょうか。もちろんスクリーンで見た方が迫力があり情報量が多いので、なんとか収束後、映画とネットが共存できれば良いのですが……。

ハリウッドの映画業界も停滞しているのかと思いきや、この苦境下でも作品を制作している有志が存在します。他でもない、Mutsumiさんと旦那さんのLee監督のチームです。しかもMutsumiさんはリモートで参加したという、今風の働き方で……。日本に数ヶ月滞在していたMutsumiさんがLAに戻る前に話を伺うことができました。

待ち合せ場所にサングラスをかけたスタイルの良い女性が近付いてきて、どこの芸能人かと思ったらMutsumiさんで、
「映画を撮ったんです」
と、さらっとおっしゃいました。えっこの非常事態に? 聞くと、監督はLAで、Mutsumiさんは日本でプロデュースと、ディスタンスを保ってうまい具合に共同作業できたようです。

「この前話したパイロット版です。長編のプレゼンのために短編を作りました。私はもう今回予算だけ用意してあとは全部任せようと思って。今まで監督の要望に応えて、スタッフィングから助監督の仕事まで何でもやってきたんですね。でも甘えるんで。監督が。私も日本にいるしちょうど良いから、そういうやり方を卒業しようと思ったんです」

と、Mutsumiさん。前回、24時間365日働きすぎて体調を崩したという話を聞いていたので、世界中で働き方が変化している今、無理しないのは賢明な選択です。

現場にうずまくハリウッドの人情

「自分から積極的に動かないとハリウッドでは生き残れないし、監督にとっても良い機会ですよね。私は確認とか契約書にサインだけして、あとは基本的にお任せしました。監督と日本人のインターンの女の子2人、あとは全員アメリカ人で、カメラマンや照明さんなどハリウッドで活躍している方たちが集まってくれました。監督はなんと通訳も入れずやり切ったんです。それも30カットあるのに1日で撮り終えたそうです。しかも想定してた予算よりぐっと抑えてがんばってくれました。」
なんと1日で……非常事態の火事場のパワーが出たのでしょうか。

「ラインプロデューサーにも入ってもらいましたが、中身の把握まではできないので、監督がひとりで助監督の仕事も兼任した感じです。法律で1日15時間までしか撮影できないと決まっているのですが、なんと最初の3時間、機材トラブルで何もできないという事態が発生したそうです。それをモチベーションにして逆にやる気が出たみたいです」
また、監督がうまくチームワークをやり遂げたのには、ある理由が考えられるそうです。

「初対面の照明さんとかもすごく優しかったみたいで。トラブルが発生したときも、俺たちがなんとかするから大丈夫だよ!と言ってくれたそうです。照明さんが職人肌のパンクな人たちなのは万国共通のようですね。きっと監督は童顔なんで学生だと思われたんだと思います」

生き馬の目を抜くハリウッドで、なんと童顔が役に立つとは。男社会では童顔が武器になるということを学びました。ちなみに年齢は……31歳だそうです。一度しかお目にかかっていませんがたしかに肌にハリがありました。

「朝7時から撮影し、22時に撤収する予定でした。子役の両親も撮影現場の家にずっといて待機してくれたので、焦って撮影しなくて良くて助かったと言ってました。ハリウッドではタイムスケジュールがはっきりしていて、時間が来たら途中でも終わると聞いていました。本来は21時には撮影を終えなくてはならなかったのですが、まだ1カット残っていました。そして21時になった時スタッフ全員が一回機材をパッと手から離したそうです。それでどうなるのかなと思ったら、次の瞬間、カメラマンが続けるぞという姿勢を見せたら、他のスタッフもまた機材を持って撮影しはじめてくれて。ドラマみたいですよね。ハリウッドでそんなことやってくれるんだって。もっとドライな人たちかと思っていました」

映画のメイキングも映画のようで感動します。一回仕事して仲間感が生まれると話は早いようです。ネットフリックスのドラマ「ハリウッド」でも、とにかく人脈が大切で一度結びつきができると人情の世界のように描かれていました。

「みんな仕事が早いから結局巻きで終わって22時前に撤収できたそうです。監督いわく、みんなあったかい家族みたいで、この一日がすごくキラキラしていて楽しくて充実していたとか。私がいなくてもできると、監督の自信がついたのも最高ですね。私も成長したし彼もすごく成長したと思う」
と、晴れやかな表情で語るMutsumiさん。どこか息子の成長を喜ぶ母のような慈愛が漂います。映画製作の楽しさや快感は一度経験したらやめられなさそうです。永遠に文化祭の準備が続く感じでしょうか……。

「ベテランのラインプロデューサーが、書類に出てくる私の名前をカチンコに入れてくれたり粋な計らいが。もっとドライかと思ったら、ハリウッド、熱いです。あと、お父さん役の人が前日にドタキャンというハプニングがあって、かわりにオーディションに来てくれた別の渋いおじさんに頼んだんですが、彼が実は映画監督もしている人だったんです。編集作業や低予算の相談に乗ってくれたり色んな関係者を紹介してくれて。一回入り込んだらどんどん人を紹介してもらえて、その広がり方がすごいなって。今回は制作費が自腹でしたが、人脈がバーッて広がったという意味でも有効な投資だったと思います。長編を売り込みたいといってくれるプロデューサーとも出会いました。ハリウッドに入り込めた感じがします」

日本在住の庶民からすると敷居が高いセレブの世界のように思えるハリウッド。でも一度中に入ると、熾烈な競争があるいっぽうで、夢を持つ同士の助け合いの精神がうずまいているようです。それは同じくらいのポジションだからで、誰かが一歩リードしようとしたら足を引っ張られるのかもしれませんが……。Mutsumiさんと監督にはこのまま行くところまで行ってのぼりつめてほしいです。それを日本から応援するのが、コロナで半隠居生活中の楽しみです。
 
(写真はMutsumiさんの名前が入ったカチンコ)

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