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※これはフィクションです。③

「あ。Mちゃん、5番テーブルお願いねー」

「えー。あのオッサン、セクハラひどいからパスー」

「まぁまぁ、そんなこと言わないで。」
「ご指名なんだから~」

「タイミングみて、すぐ違う客からの指名だって言って、引き離すから…ね!?」

「え~、そんなこと言って、
 すぐまたアイツから指名入ったらどうすんのよー?」

「そりゃー、商売繁盛ww」

「えー!!」

「いいから。いいから。さっ!お客さん待ってるよ」「それじゃ、Mちゃ…おっと、、」

「セナちゃんご指名でーす!」

私は、しぶしぶ出ていくM子を、ニコニコ見送りながら、常連客のリクエストでオーダーされた唐揚げを作りに、カウンターの奥へ引っ込んでいった。

- 半年前 -

前の会社を辞めてから3ヶ月経った頃。

就職浪人とか、就職氷河期って巷で騒がれてた時代、そう簡単に再就職先も見つかるわけもなく、いたずらに貯金残高だけを減らして過ごしていた。

偶然会った元ヤンキーのいとこ、Y兄ちゃんの薦めで
このラウンジで、バイトすることになったのだが、、

後で、聞くと、、

Y兄ちゃんは、この店にツケで通い、支払いが遅れて
ママに頭が上がらない状態だった。

前にいたボーイが辞めてしまい、店が忙しくなってたみたいで
誰かいないかと、頼まれていたみたいだ。

私と偶然会ったのは、偶然ではないようだ。

私は客商売はおろか、こういった夜の店自体に
行ったことすらなく、すべてが新鮮だった。

具体的には、出勤は夕方の5時くらい。
終わるのがだいたい翌朝の3~4時ってぐらいだった。

なので、昼間はハローワークに通い、夜は
お店でボーイ(黒服)をやるってので、私にとっても
都合がよかった。

夕方5時過ぎくらいに店に行き、スーツ(黒服)に着替えてから、
店の掃除、前日のおしぼりの洗濯して、1つ1つをくるくる巻いて、おしぼり冷蔵庫で冷やしていく。

テーブルに1つずつ置いてあるハウスボトルに、格安で買った2リットル入りのウイスキーを足していく。

掃除機を1テーブルごと丹念にかけていくと、たまにソファの隙間から、千円とか、時には一万円札が挟まって出てくる。
どうせ昨夜のことなんて覚えちゃいないだろうから、『チップ』と称して、ありがたくポケットの中へ。

そんなことしてると、女の子達が出勤してくる。

「おはようございまーす。」

この業界では、芸能人みたいに時間帯に関係なく
『おはよう』というのが、通例のようだった。

「おー、ミクちゃん。相変わらず早いねー」
「おはようー」

「えへへ。今日は派遣さん呼んでるの?」

「うん。とりあえず金曜だし、3人くらい呼んだよー」

「そうなんー?」
「あ。あの子も来るの?あの鼻とかにピアスしてた子ー」

「あぁ、あの不思議な子でしょ?」
「とりあえず、あの子は断ったよー。」
「ちょっと話の内容も、穴開ける話ばっかで、気持ち悪いしw」

「良かったー」
「先週一緒のテーブル行ったけど、全然話し合わなくてサー」
「お客さんもひいてたからw」

「だろー。」
「大丈夫。今日は別の子にしてもらったから」

その鼻ピアスの子の代わりとして派遣されてきた女の子が
Mちゃん、源氏名『瀬名(セナ)』だった。

セナは横浜出身で、標準語を使って話す。
必死にコチラに合わそうと、博多弁を使おうとするが
アクセントがおかしくて、違和感があったが
それはそれで客ウケが良かった。

派遣ホステスっという形ではあったが、毎回レギュラーのように
ウチに来てもらうように依頼をするようになった。

次第にウチの店でのお客さんもつくようになっていった。

セナがうちにくるようになって1ヶ月くらいたった頃だったと思う。仕事終わりに、いつものように私が他の派遣の子達と一緒にウチまでの送迎をしようとしてた時だった。

店は当時、現在のように営業時間に制限はなく、自由に営業時間を延長できていたので、終電もとっくに終わってるこんな時間からは、私が車で送っていくのが通例だった。

今日来てた派遣の子は、セナの他は、今日がはじめての子で、短大生の友達二人組だった。

週末だったってこともあり、そのまま一人の子のウチに泊まって
翌日遊びたいっていうので、その子のうちまで送って行くことになったのだが、、

「わかったー。んじゃ、そっちの子の家まで送るよ。」
「家どこら辺?」

「ちょっと遠いんだけど、西区の○○のとこー」

「え?ここからだと片道一時間くらいかかるじゃん?」
「うーん。どうしよっかなー。」

すると、セナが若い子らに気を使ったのか

「私が最後でいいから、この子ら先に送ってってあげてよ」

「え?いいの?」
「セナちゃんちからも離れてるから、帰るの朝方になっちゃうよ?」

「いいよ。」
「そっち側ってあんまり行ったことないから、ドライブがてらいってみたいし。海とかキレイなんでしょ?」

「まぁ、キレイっちゃ、キレイやけど」
「夜だと、何も見えんよ?w」

「いいから、いいから。笑」
「さっ、早く車出してよ!」

「そう?じゃあ、西区から行くねー。」

短大生二人は後ろの座席に乗り込みキャッキャッと
元気にまだはしゃいでいた。

元気やなーと、バックミラー越しに時々会話に参加してみたりしていたが、しばらくすると静かに寝息が聞こえてきた。

ふと助手席を見ると、セナもウトウトしかけていた。

「セナちゃんも寝てていいよ?」
「まだ、しばらくかかるし…」

「ううん。Tくんだって眠たいでしょ?」
「私が、Tくんが寝ないように話し相手になってあげるー」

「え。そう?」
「じゃあ、今夜は寝かさないよー。笑」

「笑。それ意味違うくない?」

「合ってる合ってる。笑」

「あ、じゃあさ、セナはどうして博多に来たの?」
「横浜出身なんでしょ?」
「こっちから、関東に出ていく子は多いけど、
 逆って珍しいよね?」

「えっ…………。」

「あ。聞いちゃマズい話だった?」
「なら、別にいいけど、、」

「………。」

少し、間が空いたあと、セナは話し始めた。

「………私ね。………実は博多には逃げてきたの。。」

「え?」

「逃げてきたって、誰から?警察??」

「違うよー。勝手に犯罪者にしないで。笑」

「あ。でも、似たようなものなのかも。。」

「ここに来る前、わたしは東京にいたの。」
「東京の新宿のお店で働いてて…」
「そこで、一人の男(ひと)と知り合いになったの。」

「その人は、東京にでてきたばかりで、
 山口県の出身だって言ってた。」

「建築関係の仕事をしてるって言ってたけど、、」
「そこの社長みたいな人と一緒に来てて、、」

「その社長がうちのお得意さんだったの。」

「へー。新宿の店にしょっちゅう行けるなんて、
 すごい金持ちそうだねー。」

「うん。凄い羽振り良かった。」

「その山口の人も、採用決まってから、準備金とか行って、前払いで100万円くらいもらって東京に引っ越してきたって言ってたから」

「へー。こんな時代にそんな待遇する会社なんてあるんや?」
「僕も紹介して貰いたいなー。」

「笑。でも、仕事はしんどかったみたいよ?」

「あぁ、まあ、そうだろうねー。」
「でも先にお金貰ってるなら、続けなきゃしょうがないよね。」

「うん。でも、、」

「その山口の人逃げちゃったの。」
「100万円もらったまま返さないで…」

「えー。やばくない?それ。」

「そうなの。実はわたし、その時その人と付き合ってて…」

「わたしも社長に顔バレしてるから、自分が逃げたら
 わたしのとこに取り立てに来ちゃうからかもって…」

「だから、一緒に逃げてくれないかって、、」

私は、なんかヤバい話になってきたな…と。
少し不安になってきた。
でも、セナは話を続けた。

「その社長、どうもソノ道の人達ともつながりがあったみたいで、見つかったら何されるかわからないって。。」

「だから、地元に戻っても、すぐに見つかるからって、
 山口県を通りすぎて博多に来たの。」

「博多の街なら、地方の出身者多いから、
 紛れられるだろうって…」

「んで、今は、その人は博多の夜の街で、住み込みとして黒服をやってるの。」

「わたしもその人と結婚してるって嘘ついて、今も一緒にその寮に住んでるの。」

「わたしはすぐに働けるお店見つからなかったから、派遣に登録して、それで、この店に派遣されるようになったの。」

「それが、だいたい3ヶ月前くらいの話。」

私は驚きと恐怖心でハンドルを持つ手に力が入った。

「なんか、凄いな。別世界の話みたいだ。。」

「笑。」
「ごめんね。変な話しちゃって、、Tくん話しやすいから…」

「う…うん。でも大丈夫なの?」
「社長に見つからないかな?」

「わからない…。ほんとは毎日不安なの。」

「それで、最近はその人とも揉めること増えて来ちゃってて…」

「なんで、わたしがって…」
「その人と知り合わなきゃ、こんなにビクビクしながら
 生きていかなくても良かったのにって…」

「そりゃあ……」

『ピーン!』
『目的地周辺に到着しました。』
『案内を終了します。』

カーナビが、目的地到着を告げた。

「○○ちゃん、○○ちゃん、起きてー」
「着いたよー。」

私は、路肩に車を停め、後部座席の二人を起こした。

「起きて起きてー。」

まだ眠そうな二人を、無理やり起こして車から降ろして
「おつかれさまーっ」と声をかけた。

二人は「おつかれさまでしたー」っと、また元気に
キャッキャッと談笑しながら、アパートへと入って行った。

「じゃ、次はセナちゃんちだね。」
「住所、どれだっけ?」

私はナビの履歴を見せて、セナに聞いた。

「……ねぇ。」

「え?」

「ホントにドライブしない?」
「今日はまだ帰りたくない。。」

突然のセナの提案に少し、戸惑った。

「え?」
「うーん。そだね。せっかくここまで来たし、
 ホントに海とか行っちゃう?笑」

「行こう行こうー!笑」

セナは嬉しそうに言った。

私は、近くのビーチにカーナビを設定しなおすと、
車を再び走らせ始めた。。

まだ夜明けまでには、少し時間がある。。




※これはフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。









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