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本屋で知らないおじいさんに話しかけられた話


見知らぬおじいさんが本を読みながらこちらに向かってよたよたと歩いてきているのは、わたしの目の端に写っていたので知っていた。


わたしは今、本屋の旅行コーナーの棚にいる。


おじいさんが私の横で止まり、本から視線を移したのがわかった。

「わし、このあいだここに旅行に行ってきてな。」


私の肩くらいしかない、小麦色のおじいさんが突然話しかけてきた。なんとなく話しかけられるんだろうなと思っていたので驚きはしなかった。

示しているのはエジプト辺りだった。

「はぁ、中東ですか。」


「ここはええど〜。仕事で行ったんやけどな。」


「そうですか、中東ということはアラビア語ですか。」


「そうそう、よう知っとるのぉ。あんたも好きなんか?」


「いえ、そういうわけではありませんが、アラビア語に興味があります。」


「ほう、そうかー、わしアラビア語も喋れるんじゃ。」とアラビア語でなにか話し始めた。


「はははー、すごいですね、でも全然わかりません、『ありがとう』ってアラビア語でなんて言うんですか?」


「シュクラン」
「シュクラン......?」
「そう、シュクラン」
「シュクラン」
「そうそう」


周りの人は心配そうにわたしを見ている。
が、助けようとはしない。


「(シュクランかぁ......今度使ってみよう)」
おじいさんはまだ何か話している。
長くなりそうだったので適当に話を切り上げて、私はその場から移動した。
シュクランという単語を忘れないように何度も頭の中で反芻した。



後日、長谷川先生に「シュクラン」と言ってみた。先生は少し驚いて、すぐに「アフアン」と返してきた。きっと「どういたしまして」と言ったのだろう。


今まで全然知らなかったけれど、アラビア語はとてもおしゃれな言語だ。
例えば、さようならは「マアッサラーム」と言うらしく、安全や無事を祈る意味が込められているらしい。そのほかにも、神になにかを誓ったり、捧げたりする意味が含まれている場合もあるらしい。

また機会があれば教えてもらおう。


変なおじいさんに出会ってよかった。ちょっと怖かったけど。


ではみなさん、マアッサラーム。


まい

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