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夕陽と父

昔、父がガンで余命宣告をされた時期に聞いてみたことがある。

「パパ。死んだらどこいくの?天国いくの?」

「死んだらどこもいかへん。無になるだけや」

それから炬燵で『ご臨終ごっこ』にもつれこむという、なんとも浪速の親子らしいやりとりだった。

冬は陽が傾いてから沈むまであっという間。

父もそんな感じだった。自らが『無』になると信じていたなら、どれほど怖かったことだろう。

夕陽は沈む間際、燃えるように赤くなり輪郭がくっきりする。

息を引き取る瞬間、もう話すこともできず痩せてしまった父の目から涙が溢れ頬を伝っていた。「悲しかったのかな。なんか遠くを見ていたような気がする。。」心優しい人が「きっと天使を見たんだよ。お父さんは。」と言ってくれた。

陽がすっかり水平線に沈むと、空は夕焼けで美しい茜色になる。

葬儀に駆けつけてくれた人達が、私が生まれる前の話、仕事場での責任感の強さ、「ありがとう」と棺に向かい泣きじゃくる人もいたりして『私の知らなかった父』について沢山教えてくれた。

夕陽を見ているとそんなことが頭をよぎり、『自らの儚さ』をも重ねてしまう。

美しい夕陽は大好きだけど、毎日見るのは辛いな。

やっぱり『昇る月が見える家』に住みたい。







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