見出し画像

この人のそばでおばあちゃんになる日を迎えたい

歳をとるごとに、誕生日というものの特別感が薄れていくのを実感している。
今日もそうだ。
0時をすぎても勉強に夢中になっていて、気づいたらメイクも落とさず寝落ち。
アラームに起こされてスマホの画面に映る日付を見て、ようやく「あ、誕生日だった」と思い出したくらいだ。

学校に通っているわけでも、会社に出勤して仕事をしているわけでもないから、誰かに会うような機会もない。
朝起きて眠りにつくそのときまで、未知なる言語を操る幼き息子とずっと一緒の毎日。
自分の誕生日だってわかってないのに、お母さんのなんてなおさら、なんのことやらだよね。
(そうだ、1月のきみの初めての誕生日は何をしてあげようか)

貯金もそれなりにあるから、ほしいものだって自分で買える。
31回目もなれば、平日と変わらない、ただの1日。
ただ、31年前にこの世に生を受けたってだけ。

だいたいそんなもんじゃないかと思っていた。


「今日誕生日だよね」

起き抜けでまだまだ眠たそうな目をしながら、あなたが言った。

「おめでとうございます」

あなたと迎える誕生日はこれで10回目。
この10年間、欠かさずあなたから贈られる祝福の声に、心を熱くする私がいる。

もう三十路過ぎた、おばさんに片足突っ込んだ女だ。
そんな私に、またひとつ歳をとった私に、「おめでとう」って言ってくれるの?

「明日行きたいとことか、やりたいこと考えておいてください」

あなたと過ごしてきた誕生日は、どれも笑顔でほっぺが痛くなるほどで、くすぐったくて、とろけそうなほど幸せ。
今年も、来年も、きっとこれからもずっとそうだよね。

「じゃあ、高級ホテルでディナー!」

私の冗談に顔をしかめるあなた。
苦虫をつぶしたような顔をしてるのに、目尻が垂れてるのは楽しい証拠。
こんなしょうもなく、生産性のない、そしてあたたかなやりとり、いつぶりかな。

「ありがとう、だいすき!」

意を決して、後ろからあなたに抱きついてみた。
時間がなかったからか、照れたからか、はたまたうざったかったのか、はいはいと軽くあしらって玄関のドアから出て行ったあなた。
マフラー巻くとなんだか若く見えてかっこいい、気がする。

息子はまだ夢の中だったから、エレベーターのドアが閉まるまでお見送り。
久々に、二人だけの贅沢な時間。
見えるか見えないかのタイミングで投げキッスなんてしてしまったりして。
31歳ってこんなんでいいのかな。笑


この人のそばでおばあちゃんになる日を迎えたい。
こんな気持ちに気づけたことだけで、今年の誕生日はもう、お腹いっぱいです。

この記事が参加している募集

#今こんな気分

75,466件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?