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きさらぎ駅編~再発進ーサイハッシンー~

きさらぎ駅から無事生還した僕は念のため検査入院することになってしまった。あとになって聞いたがその夜、サタンたちが集まってつみねこ契約者たち全員と話し合いをしたらしい。


彼らの話し合いから邪神の目的は完全に【遊戯】であることだったことを聞かされる。邪神は人間を生かそうが殺そうがどうでもよく、たまたま僕を狙っただけだったらしい。

弟への罪悪感を心に闇として持っていた僕の精神破壊をする・命を奪う・生還させるのどれかをさせるのが目的である、と。


一度駅のホームへ突き落したのは邪神の箱庭に閉じ込めるために僕自身に【死んだ】と錯覚させ僕の魂をあの電車内に閉じ込めた。


肉体の方は現世と邪神の箱庭の空間の狭間に閉じ込められていたらしく箱庭の空間に囚われた魂がある特定条件で死ねば元の体へと魂が戻り、現世の駅の線路脇へと戻れたようだった。線路脇に戻っていたのは邪神の望んでいた生還ルートを通過することが出来たためそれ以上現世で殺す意思はなかったと聞かされた。でも心の闇を持っていればまたつけ入られてしまう。奴のつけ入る隙を与えてはならないとサタンに告げられる。


……もう大丈夫、サタン。


翌日、無事退院をした僕はとある場所へと足を向かわせた。


「……陽助。なかなか返しに来れなくてごめん。」


不知火家の墓。僕の家族が眠る場所だ。そう言いながら自分のカバンの中から陽助のお気に入りだった飛行機のおもちゃを取り出し、お墓の経机に供え両手を合わせる。


サマーキャンプへ向かうあの日、弟が僕のリュックサックの中に紛れ込ませてきたお気に入りのおもちゃ。家族を失ったあの日から悲しくてどうしたらいいかわからず、僕が持ったままだった。


でも……きさらぎ駅でサタンの炎に焼かれ、元の姿に戻った弟は言ってくれた。


僕に生きて、幸せになって、と。


「陽助……父さん、母さん……」



そうぽつりと呟き、空を見上げれば広がる青空に飛行機雲が一筋形を作り上げては消えてゆく。絶対に忘れない。でも……陽助たちに幸せでいてほしいっていうのは僕も同じだよ。だからもうあんな悲しい姿にはさせないから。


「ありがとう。」


「陽太ー。」


僕を呼ぶ声が聞こえ、振り返れば少し離れた場所で友達が手を振ってくれている。


「早く来いよ!今日は祭りだぞ!」

「……うん!」


僕が友達の方へと向かおうとするその時、強い風が吹いた。そして……


“ありがとう、にいちゃん”


空耳かもしれない。でも確かに僕の耳にはそう聞こえた。口元を緩め、僕は振り返らず前へと進んだ。






































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