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アイ

高校生の時に、初めてLGBTの当事者と出会った。隣のクラスだったアイコ(仮名)

名前をアイコと呼ばれるのを嫌い、みんな「アイ」と呼んでいた。あまり深く意味を考えていなかった私は、みんなに習い「アイ」と呼んでいた。


いつも制服の下に、ジャージを履いてた。流行っていたのもあって、別に珍しいことじゃなかった。冬は割と多くの女子高生が履いてた。夏になったら、それはハーフパンツに変わり、アイのスカート姿は見たことないかもしれない。


髪の毛はベリーショートと短く、少しふんわり茶毛だった。アーチ眉が流行っていた中、真っすぐ短い眉をしていた。ソフトボール部に所属し、3年にはキャプテンになっていた。かっこいい女の子。アイはそんな感じだった。


アイは、いつもユウカ(仮名)と一緒にいた。暗黙の了解で、アイの彼女だった。登下校も一緒で、休み時間もずっと一緒にいた。アイと話す時は、いつも隣にユウカがいた。ユウカは、コテなのかパーマなのか毛先がくるくるしていて、アニメ声の可愛い女の子だった。嫉妬深く、アイが別の女の子としゃべっていると、すぐアイの隣に来て腕を絡めていた。


アイは人気者だった。後輩にもアイのファンがいたくらい。アイを悪く言う人は、私が知る限りひとりもいない。一方、ユウカはわがままで一歩間違えれば嫌われていたかもしれないけれど、アイの人気に中和され、誰もが認めるカップルだった。


あまりにも自然で、アイの存在に違和感を感じることはなかった。すごく明るくて、優しくて、面白くて、私も大好きだった。


高校3年生にあがった頃、私がE太に出会った頃だった。私が中学からの同級生で同じ高校に通うサキ(仮名)は、アイと同じソフトボール部だった。サキもアイのことが大好きで、3人で遊んだこともあった。サキの恋愛相談や、私のE太話をアイはいつも聞いてくれていた。けれど、アイがユウカの話をすることはあまりなかった。今思うと、そのころからユウカとうまくいってなかったのだ。


私がE太に時間を割くようになった頃、アイとサキはもっと仲良くなっていた。サキの家にアイが泊まることも度々あった。その夜に、私が遊びに行くこともあって、3人で夜な夜な語り合ったこともあった。


ある朝、珍しく一限目から登校しようと最寄りの駅で電車を待っていると、アイとサキが並んで駅に入ってきた。「おはよう」と声をかけると、ふたりが手を繋いでいるのに気付いた。女子同士で手を繋ぐことも多々あったし、あれ?って思ったけれど、あまり気に留めなかった。「アイ、またサキのとこ泊まったのー?」なんて会話しながら、電車に乗り込んだ。


アイとサキは並んで座り、その向かい側に座った私。サキの顔を見て、すぐわかった。ふたりに何かあったことを。


アイはいつも通りに見えたけれど、サキの頬はほんのり紅潮していた。瞳はとろんと微睡んでいた。恋をしている顔だ。その時はなんだか突っ込むことができず、ふたりを見ているとなんだか照れて直視できなかったの。


その後、サキとふたりになった日に何があったのか聞いた。最初は「何もないよー」とごまかしていたけれど、「好きなの?」と声をかけたら、小さく頷いた。伏目がちな横顔がすごく可愛かった。


ふたりはキスをして、体を重ねたことを知った。


サキは、わかりやすくアイにハマっていた。アイとユウカはうまくいってないけれど、ユウカが別れてくれなくてアイは可哀想だと言った。


私は、ふたりの関係に衝撃を受けていて、あまり話が入ってこなかった。女性同士で?どうやって?そんな邪推さえした。けれど、あまりにもサキが嬉しそうで、幸せそうで、そんな形があってもいっか。と思ったよりすんなり受け入れている自分もいた。


その後、アイとユウカが別れた。と風の噂で聞いた。


けれど、サキの心変わりも早かった。気付いたら、新しい彼氏ができていた。アイは?と聞いたら、気の迷いだった、と。


それから、アイは少し元気がなくなったように見えた。いつも隣にいたユウカはいなくなり、部活も引退を迎えた。サキとアイが疎遠になってから、私もアイと関わることは減り、何度か廊下で会話した程度だった。


卒業式を目前にしたある日。卒業式の練習で体育館に集まった。いつものようにアイは制服の下にジャージを履いていた。先生に、当日はジャージを脱ぐように言われ、嫌だと反抗しているのが聞こえた。ただの会話は言い合いになり、アイは体育館から飛び出した。あぁやっぱり嫌なのかー。アイは男の子なのかな。同性愛じゃなくて、異性愛としてユウカやサキを好きだったのか。なんて思いながら、私は練習を過ごした。


結局、卒業式にアイは出席しなかった。


思春期に初めて出会ったLGBT当事者が、アイだった。アイに出会っていたから、今まで関わってきたLGBT当事者への許容範囲が広がっていたのかもしれない。事情はどうであれ、私はアイが大好きだった。それは今も変わらない。


実は、高校を卒業してから6年後の24歳の頃に、アイに再会した。私は社会人になっていて、仕事帰りに偶然再会した。「なっこ!」と呼ばれて振り向いたら、そこにはアイがいた。


高校生の頃よりも、更にメンズ感が増していた。華奢で可愛い男の子。くらいにパス度が上がっていた。「え。かっこいい」と、正直思ったくらい。笑


「どうしてんの?」みたいなたわいもない立ち話をしている中で、「彼女は?」と自然に聞いている自分がいた。アイはニコっと笑って、「長く付き合っている彼女がいて、今度養子縁組をするんだ」と言った。


なんだか嬉しかった。アイの人生が輝いていることが。


ジャージの有無で取り乱していたアイの後ろ姿を思い出した。色んなことがある人生だけれど、何事も結果オーライだよね。今も元気してるかな。幸せに過ごしているのかな。



アイの人生に幸あれ。

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