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年下のあの子

C先輩と別れた後、私は高校2年生になった。そして、C先輩は卒業していった。最後まで言葉を交わすことはなく。風の噂で、D子先輩との浮気はデマだって聞いた。意味のないプライドで凝り固まった私は、その噂は聞こえないフリをしていた。


高校2年生は、女友達とひたすら遊んでいた。夜遊びも、都会のクラブに場所を移した。煙草の味も知った。甘いカクテルを経験した。初めてのコンパにも参加してみた。大学生や社会人の男性と出会うことも増えた。学校に行くのは、友達に会うためになり、わかりやすく成績は落ちた。両親の叱責も上手に交わすようになった。


そんな中、E太と出会った。高校3年生にあがった春だった。


E太は、他校に通う高校1年生。2つ年下だった。くるくると表情を変える、ワンコ系男子だったと思う。出会いは、最寄り駅の駐輪場。一緒に帰っていた友達のF美に、E太がナンパしたのだ。F美の顔がどんぴしゃ好みだったE太は、ナンパ第一声が「付き合ってください!」だった。


F美は全く興味を示さなかったが、それから何回もE太はアプローチをしていた。学校の門で待ち伏せ、最寄り駅で待ち伏せ、ほぼほぼストーキング(笑)そんなE太を「可愛いなぁ」と微笑ましく見ていた。F美も興味はないみたいだったけど、可愛がっていた感じもしていたし。


そんなある日、F美は休みだったため、ひとりの帰り道。何も知らないE太がいつも通り駅で待ち伏せしていた。F美の不在を知り、しょんぼりした顔がとても可愛くて、なんだか初めての感覚に陥った。え?私が?E太に?ドキドキ?そんな戸惑いを覚えてる。


その日を境に、私はE太の相談相手として連絡を取り合うようになった。彼にとっては、好きな人の友だち。わかりやすく媚びてくることが、私はなんだか嬉しかった。時々胸が締め付けるような気持ちになることは、気付かないフリをして。


F美は、年上の大学生に片思いをするようになり、E太が疎ましく感じるようになった。わかりやすく落ち込むメールが増え、私は複雑な気持ちになった。可哀想なような、嬉しいような。

連絡を取り合ううちに、会って話を聞くことも増えた。それは決まって最寄りの無人駅にあるベンチだった。そこまで自転車で15分ほどかかるけれど、私はいつのまにかE太に会えるのが嬉しくなっていた。学校帰りにはもちろんのこと、休日もバイトに行く前や後に時間を作るようになった。あんなに夜遊びに明けくれていたのに、気付いたら優先順位を変えていたのだ。


そして、ついにF美に彼氏ができた。大学生の想い人が、恋人に昇格したのだ。それを知ったE太から、夜遅く呼び出したを受けた。私は幼なじみのところに行くと、親に嘘をついて家を飛び出した。少し汗ばむ初夏の夜の匂いを今も思い出せる。


駅で会ったE太は、何故か笑顔だった。今夜食べた夕飯の話とかたわいもない会話をしていたと思う。カラ元気というのだろうか。私からもF美の話題は切り出せなかった。見慣れた彼の横顔が、なんだかいつもより何倍も男らしく見えて胸が高鳴ったの。


自分の焦燥感を覚えてる。何故そんな気持ちになったのかわからない。F美という、ふたりを繋ぎ止める鍵をこの夜で失う恐怖だったのだろうか。


私は、E太の手を握った。彼は驚いて私を見た。何か言おうとした口を、阻止するように唇で塞いだ。一瞬だったと思う。ぎごちないフレンチ・キス。何かを見ないフリをするように、固く目を閉じて唇を重ねたのだ。


唇を離し、目を開けた時に飛び込んできたのは戸惑った様子のE太だった。一瞬で察したの。「あぁしまった・・・」いきなり後悔の嵐。顔が熱くなっていくのがわかった。


「寂しそうな顔してるし」


なんて気取ったこと言って、誤魔化した。E太は、何も答えずキスで返してきた。熱く深い勢いのあるキス。その頃の私は、それが嬉しかった。何かが叶ったように感じたのだ。


今の私にはわかる。あのキスは、悲しみや怒りに任せたものだったと。決して私には愛情を注いでいないものだと。


その夜、私の想いはE太に通じたのだと喜び、幸せに包まれて眠った。帰り際、バツの悪そうなE太の顔に気付かずに。


それから何度か連絡を取ったけれど、会うことは無かった。最寄りの駅に姿を見ることも無かった。「会いたい」その一言さえ言えずに。


そのうち、気付いた。私の恋は報われなかったのだと。E太に伝わっていたかさえ、わからない。誤解を生んでいたのかもしれない。


この時の彼の気持ちを知るのは、3年後再会したときだった。それはまた次の話。



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