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【後編】りんごとのこれから〜新規就農して考えた「青森りんご」のアイデンティティのこと

前編、中編は公開中です。こちらをご覧ください。


では、第3部に移ります。「青森りんご」について考えてみました。
青森のりんごの歴史を考えると、こんな感じかなと思います。本来相入れないはずの「質」と「量」を人の技術や熱い想い、販売戦略など、いろんな手法でカバーし、この2つを支えてきたという感じかなと捉えています。

一方、ごく最近の青森りんごのトレンドは何か。私も先日、車座ミーティングみたいなものに参加したのですが、「りんごと健康」をピックアップしていきたいようです。個人的には、あまり賛成していません。なぜかというと、りんごの機能に着目した瞬間、青森のりんごである必要がなくなってしまう可能性があるのではないかと考えたからです。ただ、これは調べてもわからず、あくまでも私の感想なので、なにか産地による明確な成分などの違いがもしあるのであれば、ぜひ教えていただきたいです。
明確な違いがない前提でお話しすると、もしかしたら、「りんごだったらなんでもいい」「どこ産でもいい」と言われても、「そっかー」となるしかありません。「青森のりんごだからこそ」それがアイデンティティだと思います。少し例を挙げます。

「ボルドーワイン」です。「ボルドーワインが飲みたい」人に対して、「え?アルパカでいいんじゃない?」とは、あまりなりにくいような気がします。ちなみに私はアルパカワインをめちゃくちゃ飲みます。
ボルドーワインでないといけない理由を、ボルドーワインは歴史の中で作ってきたのだと思います。その理由があるからこそ、チリ産でも、ニュージーランド産でも、日本産でもなく、ボルドー産のワインなのであり、それを求め、ボルドーに人が集まったり、ワインを購入したりするのだと思います。

もう少し近い場所のお話しです。地域おこし協力隊の仲間が手がけている岩手県遠野の「ビールの里構想」。「ホップの里」から「ビールの里」へ転換し、まちづくりにつなげていこうとする動きです。「醸造する町」というコピーも素晴らしく、ビールにまつわるいろんな事業が生まれているようです。ご興味がある方は是非調べてみてください。久々の「ホップ収穫祭」を実施するみたいです。
ここで2点ご紹介しましたが、何も6次産業化の話をしている訳ではありません。

私はアイデンティティについてのキーワードのひとつが「文化」であると考えています。ただ、ざっくりしているので、少し分解して考えてみたいと思います。例えば「作り手」から考えるというのもあると思います。

「藩士の林檎」。弘前市の「藩士の珈琲」みたいなものです。歴史から、現在のりんご農家をネオ津軽藩士と捉え、刀を剪定鋏に変え、人ではなく枝を切る存在。そんな武士が作るりんごとなれば、アイデンティティになり得る気もする。でも、色々調べていると、歴史的に見れば北海道余市町の専売特許なのかなぁと思ったりもしました。福島県出身の私にとって、日本で初めてりんごを作ったのが会津藩士らしいので、先輩たちを出し抜くようなことはできないなぁと感じました。

ちょっとスケールを小さくしてもう2つほどお話しします。弘前市ですね。私は「りんごのまち」ではなく、弘前市は「りんご畑のまち」なんだと思うのです。

弘前市にりんごがあることによって、まちのいたるところにいろんな分野の木が育っていったのではないかと思うのです。その中で人や、お金、情報の行き来がなされ、それぞれが徐々に実をつけていきました。それらはおそらく、単体では存在できなかったと思います。他家受粉が必要なりんごと通じるところがあり、その中を行き来する人々はまるでマメコバチのようだなと感じます。そういう話を聞くと、「りんご畑のまち」だからこそ弘前産のりんごを食べてみたいと、考えてくださる方もいるかもしれません。

もう1つ、会社のスケールで考えてみました。会社として、うちの会社は最初にお伝えしたように素晴らしいりんご農家はおりません。でもその中で、何をお客さまにお届けしたいのか、というのはちゃんと考えたい。ということで、ひとつ定義しているのが「消費者へ、体と心の栄養を届ける」のが、私たちが考えるりんご農家である、ということです。

例えばご紹介したこのりんごジュース。私自身にとって、りんごにはたくさんの品種があると知った時のわくわくはかけがえのないものでした。そんな気持ちをお客さまにも味わってほしいということで、自分達のりんごだけでなく、他の生産者からもりんごを仕入れて、たくさんの種類のジュースを作っています。その中から、自分にとってのお気に入りの大切な品種をみなさんには見つけてほしいなと考えています。また、ラベルの参考にしている昭和40年代まで使われていた「刷版」の紹介を、プチ情報としてもお届けできているかなと思います。
あとは、このジュースに関して、ひとつ大事にしていることがあります。それは「マーケットイン」で考えないということです。私自身が感じたわくわくを、同じように感じてくれる人がいるかもしれないという、根拠のない、自信のない仮説のもとで作って販売しています。もっと言うと、「ニーズがあるかどうかはわからないけど、ニーズになるかもしれない。ニーズにしていこう。」そういう気持ちでやっています。

消費者へ、体と心の栄養を届けることができる商品、サービスづくりを目指したい。会社としては、その考え方に賛同してくれるりんご農家を増やしていきたいと考えています。この定義だと、もしかしたら、畑を持たないりんご農家も出てくるかもしれません。今のところは、りんご畑で働いてくれているみなさんについては、それぞれの強みを畑以外の場所でも商品作りやサービス作りで発揮してもらうというスタイルをとっています。もちろんそこにも対価をお支払いしています。コーヒー豆を焙煎してくれる人がいたり、コピーライティング、HP作成、イベントの企画運営、撮影、編集などなど。うちに来てくれる人材は、りんご畑での作業が初めてだという人が9割です。りんご畑に出ることでインプットしてもらったものをそれぞれの得意分野でアウトプットしてもらう。そういう関係性を目指しています。

最後に話を私の「悩み」に戻したいと思います。先ほどお話ししましたが、会社として目指すアウトプットの方向性があります。そのために会社としてのりんご農家像を規定している。そういう順番になっています。
青森として、どんなアイデンティティを持つ「青森りんご」を育てていきたいのか。それに対して、生産者は、自分達がどういう作り手でありたいかを、自分たちで決めればいいのだと思います。ただ、おおもとの「青森りんごとは」という問いに対しては、生産者だけで決められることではないと思います。もちろん、読者のみなさんにも、大きく関係のあることなのではないかと思います。

最後の最後にひどい終わり方をしようと思います。うちの会社として考える「青森りんご」は何か。それは、「It’s not apple」です。りんごをアップルと呼ばせないという弘大が出している本がありますよね。まさにあういうことです。ただ、自分の中でもまだまだ食べるりんごに関しての話でしかなく、なかなか煮詰めることができていません。悩みが悩みのまま、と言う感じです。
ということで、青森りんごの探求はまだまだ続く、という漫画の連載だったら絶対にやってはいけない終わり方で終了したいと思います。
どうも、ありがとうございました。


これは、2022年6月24日(金)に依頼を受けた、一般社団法人青森県農業経営研究協会、第42回通常総会『記念講演会』の講演内容をリライトして掲載したものです。

前編、中編はこちら。


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