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恐怖小説 美熟女 中編

 次の日、集団登校に少し遅れたマスタカは学校まで走り続けた。一足先に校舎の入口でレイオとカッパがマスタカを待ち受けていた。マスタカが姿を見せた時、二人は指を差して、「バカ野郎!!昨日はよくもやってくれたな!!」と怒鳴った。マスタカは二人を無視して横をすり抜けて教室に向かった。
 教室では児童たちが上山田を待ちわびていた。上山田はクラスの担任で絶対的権力の持ち主である。マスタカは素早く自分の席につき、寝たフリをして上山田が現れるのを待った。レイオやカッパに話しかけられたくなかった。遅れて二人がマスタカを問いつめて謝罪させるために近づいたが、ちょうど上山田が来たので諦めて自分たちの席についた。
 上山田は不機嫌そうな顔で教壇につき、児童たちを前に咳払いをひとつ、そのあとで出席を取り始めた。
 カッパの番で、「ハイ」と返事をするはずが、「フェイ」と裏声で答えてしまい、クラス全員の失笑を買ってしまった。上山田も失笑して、「カッパ、お前、ハラが減ってるのか」と言い、さらに教室内が笑いに包まれた。カッパ自身も頭をかいて笑ったが、マスタカがプリントを丸めてカッパの頭をひっぱたいた。マスタカはカッパの後ろに座っていて、カッパを常に観察しているのだ。
 上山田は機嫌の良い日と悪い日の差が激しい。悪い日は、カッパを徹底してイジリ倒す。算数の授業で、いちいちバカのカッパに答えを言わせたがる。カッパは、かけ算九九すら覚えようとせず、ふざけるので、格好のターゲットと上山田は見ていた。カッパは珍回答をくり返し、頭をかき続ける。
 上山田が「カッパ……てめえも真面目に答えろよ」と笑いながら怒ると、
「いや〜情けない」
 とカッパは恐縮しつつ、笑った。
 マスタカとレイオは、カッパが調子に乗っていると感じた。上山田が黒板に字を書いているところを見計らって、レイオは席を離れて二つ前のカッパに近づき、後頭部に蹴りを入れた。驚いたカッパは前のめりに倒れかけたが、身を起こすと、振り返りレイオを睨みつけた。レイオがカッパとの間に座っているマスタカに指を差し、「こいつがやった」とでも言いたげなジェスチャーを見せた。カッパはまたしてもマスタカにやられたのかとマスタカを見たが、マスタカはすました顔をしている。
 授業中であり、私語厳禁だ。カッパは怒りをこらえて言葉を発することもなく、握りこぶしを震わせて再び前を向いた。
 授業が終わるまでには、レイオはカッパの後頭部に五発消しゴムの切れ端を命中させた。休み時間になり、「おい!!レイオ何するんだ。痛いだろ!」と大声でカッパが怒鳴ると、
「俺はやってない」
 平然と言ってのけるので、拍子抜けして押し黙るカッパに、レイオは怒鳴り返した。
「マスタカだよ、あれをやったのは。俺を疑うなよ!カッパこの野郎」 
 カッパは「分かったよ」と答えて、次の授業が別棟の教室で行われるので早く行こうと思った。行く途中に水飲み場があって、そこでカッパは水を大量に飲んだ。そのおかげで腹を壊し、授業中にクソをもらしそうになったが、何とかこらえた。
 その後、昼休みに校庭で鬼ごっこの最中、鬼のカッパを残して全員が学校近くの川沿いに集まり、
「カッパは放っておこう。あいつはバカだから」
 と誰かが言って、十人ほどの同級生は川に石を投げたり、ボロボロの吊り橋を渡って騒いだ。
 カッパは人がいなくなったのを不審に思い、あちこち探したが、見つからなかった。結局カッパは、授業に遅れてしまって、上山田に怒られた。


            〈 後編に続く 〉 
 

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