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「変革の時代の組織リテラシー」導入講:なぜ今、プロジェクト・マネジメントが必要か?

みなさまこんにちは、中分毅(ナカワケ・タケシ)と申します。
私は、40年余り、日本国内や中国、ロシア、ベトナム、中東等で、建築プロジェクトや都市開発プロジェクトに携ってきました。そこで、プロジェクト・マネジメントの重要性を実感し、有効性の高い(effective)プロジェクト・マネジメントのあり方を模索してきました。2015年からは、多摩大学大学院経営情報学研究科MBAコースで、プロジェクト・マネジメントの講義を担当する機会を得ました。

このノートは、多摩大学大学院の講義で使用してきた教材を下敷きに、その大幅改定のためのドラフトを、クリエイティブコモンズ[©中分毅 (Licensed under CC BY-NC-ND 4.0)]として公開するものです。
今回はその第一回目、導入講として『なぜ今、プロジェクトマネジメントが必要か?』ということについてお話しします。
この記事の最後に、教材詳細版のPDFダウンロードリンクを載せていますので、ご関心ある方はぜひご活用ください。

はじめに

さて、本日皆さんにお伝えしたいことは「プロジェクト・マネジメントは変革の時代の組織リテラシーとして必要である」ということです。

プロジェクト・マネジメントというと、与えられたプロジェクトを効率的に実行するための、技術的なHow to集であると思っておられる方も多いかもしれません。その様な側面があることは事実ですが、プロジェクト・マネジメントはそれにとどまるものではありません。

導入講では、
・プロジェクト・マネジメントは変革の時代に必要される組織のリテラシーである
・そのためには、正統派のプロジェクト・マネジメントの欠落を補い、発展させていく必要がある
・つまり、プロジェクト・マネジメントは重要だが過渡期にあり、これを変革していくのは実践者の集合知だ

ということを理解いただきたいと思っています。

では早速みてみましょう。

1.組織の活動は戦略策定と実行から構成される

図版改訂06


組織の活動の捉え方は種々ありますが、プロジェクトの観点から見ると、組織の目的を実現するために何をなすべきかを定める戦略策定と、その実行から構成される、と考えるのが一般的です。

プロジェクト・マネジメントでは、実行をプロジェクトとオペレーションに二分して捉えることが基本です。

プロジェクトとオペレーションには、それぞれマネジメントの方法論があり、前者がプロジェクト・マネジメントということになります。

オペレーションズ・マネジメントも重要な領域であることは言うまでもなく、歴史的にはその体系化は、プロジェクト・マネジメントに先行しています。

1.1.プロジェクトとオペレーションはどこが違うのか

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スライドの上段では、戦略策定、プロジェクト、オペレーションの例を示しています。
例えば、製造企業が生産ラインを更新しようと意思決定するのが戦略策定、生産ラインの更新を実行するのがプロジェクト、更新された生産ラインを用いて日々製造を行うのがオペレーションとなります。
組織改革の様なソフトな施策の場合も、組織改革を行うという意思決定、それを受けた組織改革の実行、改革された組織での業務の実行、とい3つのフェーズで捉えることができます。

スライドの下段の表は、プロジェクト・マネジメントとオペレーションズ・マネジメントを比較したものです。英国でプロジェクト・マネジメント系の書籍を多数発行しているGower社のProject Success(2011)から引用し、訳出しました。

プロジェクトは、全く同じ先例がないのが通常で、有効性(Effectiveness)=いかに目的に合致する成果を実現するか、がマネジメントの目標となり、そのための方法論が、プロジェクト・マネジメントです。

オペレーションでは、繰り返し行われる業務を、効率性(Efficiency)=ミスなく、素早く、低原価で実行するか、がマネジメントの目標となります。

従事する人間の役割も、プロジェクトでは、状況に応じて変化し様々な役割を担うことが求められるのに対し(事前不確定的)、オペレーションでは事前に設定可能(事前確定的)という相違があります。

※補足『3Eとは』
有効性/Effectiveness、効率性/Efficiencyという2Eに訴求性/Expressivenessを加えた3Eという捉え方/Framingは様々な場面で有効です。例えば、オフィス政策の場合、オフィスワーカーの創造性・生産性を高めるのがEffectiveness、スペースやコストの節約を図るのがEfficiency、オフィスを経営者や企業のメッセージを伝える媒体と捉えるのがExpressivenessとなります。

1.2.プロジェクトとオペレーションは混同されやすいが別物である

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「我々は、本来プロジェクトとして扱うべきものを、ともすればオペレーションとして扱ってしまっているのではないだろうか?」

筆者は、2016年から2017年にかけ、癌治療で7回入院しました。退院後、執刀して頂いた先生方にPMのレクチャーをする機会がありました。これは、その際の、主治医の堀江重郎順天堂大学教授の発言ですが、大変印象深かったので紹介しました。

「医療の場合、手術がオペレーションと呼ばれることで紛らわしいのですが、患者が入院してから退院するまでの医療行為は、まさに固有性と有期性を備えたプロジェクトであり、患者は特にそう思う筈です。」
「医療行為において過去の知識体系を効果的に活用することは重要であり、チェックリストが有効なのですが(スライド中の赤い表紙は、「THE CHECKLIST MANIFESTO/チェックリスト宣言」という医療分野で著名な書物)、これは患者の、固有性を無視することではない筈です。」
「ともすれば、ルーチンに流れプロジェクトをオペレーション風に扱ってしまうことで、医療従事者と患者の間に障壁ができることになりかねません。」

そのことに対する自戒の言葉が、その分野の先端を開く第一人者から聞かれたことが大変印象的でした。

皆さんのお仕事でも、本来プロジェクトとして捉えれば発見や創造がある筈の行為を、型にはめて、ルーチンとして処理してしまっていたり、予め落としどころを自分で決めてしまってそこに誘導してしまっていたりすることはないでしょうか。

2.プロジェクト・マネジメントは変革の時代の組織リテラシーである

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変革とは、ある目的を実現するために、一定期間内に状態Aを状態Bに換える活動のことです。
変革は、それ固有の目的と、一定期間内の活動という有期性をもつ、まさにプロジェクトです。
従って、プロジェクト・マネジメントは変革を効果的に行う方法論である、と捉えることが適切です。

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また、状態Bに到達しオペレーションに移行しても、B1→B2→B3という改良があり、これもプロジェクトして捉えることが重要です。
変革と改良は入れ子になっている場合が多いのが実態です。

2.1.組織の変革はプロジェクトを通じてのみ可能である

変革が求められる時代、企業の存続には継続的にプロジェクトを実施していくことが必要で、プロジェクト遂行能力が、企業の変革能力を規定すると言えます。
この考え方を一歩進めると、企業をプロジェクトの集合体と捉える「プロジェクト的企業観」が有力となってきます。
公的組織の場合は、民間企業の様な市場での競争はないにせよ、ますます高度化し多様化する課題に、限られた人材や資金で対応していく上で、変革が求められていることは同じと言えるでしょう。

2.2.プロジェクト的組織観の抬頭

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このスライドは、イスラエルと米国でプロジェクト・マネジメントの実践と研究を行っているAaron J. Shenhar氏の著書からの引用です。企業を存続・発展させるのは継続的なプロジェクトの実施で有り、プロジェクト的企業観(A Project World, Projectization)を持つことが重要です。
組織の活動の中で、オペレーションの比重が低下し、プロジェクトの比重が増大してきています。組織の成功はプロジェクトに依存し、プロジェクトという方法論が現代組織の要となっています。
プロジェクトを適切に企画し、遂行できない組織は、発展は言うに及ばず存続も困難となります。

2.3.競争優位戦略の一環としてのプロジェクト・マネジメント

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グローバルなPSF(Professional Services Firm)であるPWCは、毎年プロジェクト・マネジメントに関するリサーチ結果を公表しています。2012年のレポートでは、次の様に述べています(訳出は中分)。

・今日の困難な経済環境の下で、企業は、猛烈な競争や規制の変更や組織のリストラクチャリングによってもたらされる変化といった挑戦に直面しています。
(In today’s difficult economic times, organisations are constantly faced with the challenges of fiercely competitive and changing environments driven by regulatory modification and organisational restructuring.)
・今日の企業は、競争力を維持するために、通常のオペレーションやビジネスからプロジェクト・マネジメントへ重心を移す必要があります。
(In order to stay competitive, today’s organisations have been moving from operations and business as usual, to project management as part of their competitive advantage strategy.)
・プロジェクトを成功裏に遂行する能力が、企業が事業目標として意図する便益や成果を実現する上での原動力です。
(The ability to successfully execute projects is what drives the realisation of intended benefits and the achievement of business objectives.)
・プロジェクトを成功裏に遂行する組織は、効果的なプロジェクト・マネジメントの実践手法を、変革を実現するツールとして活用しています。
(Organisations that execute projects successfully employ effective Project Management practices as a tool to drive change.)

3. プロジェクト・マネジメントの逆説:高まる期待と結果への失望

プロジェクト・マネジメントへの期待が高まり、その手法を導入する企業が増加する一方で、プロジェクトの失敗率は依然と高止まりと結果への失望も高まる、という逆説的な事態が起きています。

3.1.高まる期待の一例

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上のスライドは、英国国立プロジェクト・マネジメント・センターのホーム・ページの1画面です。FORTUNEを参照し、21世紀初頭の最も有望な職業はプロジェクト・マネジメントだ、とアピールしています。
同様な主張は、著名なビジネス・コンサルタントやコンサルティング・ファーム、SAPの様なIT企業によっても表明されています。

プロジェクト・マネジメントへの期待を端的に表す概念として、プロジェクト化する/Projectization、プロジェクト化された組織Projectized Organization、が提唱されました。

3.2.結果への失望の一例:ITプロジェクトの不成功率

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上のグラフは、最初に発表された1994年にはIT業界に衝撃を与えたとされるStandish Groupの調査結果をグラフにしたものです。成功の捉え方が一面的だとの批判も寄せられていますが、長期の傾向を見ることができ、現在もプロジェクトの成功・不成功をテーマとする論考で数多く引用されています。
この調査では、プロジェクトの成功・不成功を3区分で評価しています。

・成功/Project Successful:スケジュール通り、予算通りに完了し、当初に設定した要件を満たす場合
・失敗/Failed:何らかの理由により開発途中で中止された場合
・困難に直面/Challenged:終了したが、スケジュール、予算、要件の何れかを充足しなかった場合

プロジェクトの失敗率はここ十年横這いで、改善の兆しが見られません。他の調査でも、失敗傾向に改善が見られないとの指摘がなされています。
なお、プロジェクトの成功やプロジェクトの成功要因/失敗要因については、第2講で詳しく検討したいと思います。

3.3.2006年以降プロジェクト・マネジメントの再考をテーマとする論考が急増

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欧米では、多数のプロジェクト・マネジメント研究者が活動しており、論文発表も活発です。上図に引用した論文では、多数の論文をレビューした結果、「2006年以降、プロジェクト・マネジメントを再考する必要がある、と主張する論文が急増している」と結論づけています。


加えて、Rethinking Project Management 2006, Reinventing Project Management 2007, Breaking the Code of Project Management 2009, Second Order Project Management 2012, Reconstructing Project Management 2013, Project Management A Value Creation Approach 2021等々、同趣旨の成書も発行されています。

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残念ながら、日本ではこの様な動きは殆ど紹介されていませんが、本講義では、私や私の仕事仲間の経験とこれらの論文や著作の提案を織り上げた知見を提供していきたいと思います。

4. 逆説を生む要因と本講義の展望(PM3.0)

4.1.逆説を生む要因は大きく言って2つあると考えます

正統派プロジェクト・マネジメントが前提としているプロジェクト像が、現実と不適合を起こしています。
<正統派PMが前提としているプロジェクト像>
・要素は多数で新規性も高いが、目標は明確で具体的なプロジェクト
・例えば、潜水艦から弾道ミサイルを打ち上げるシステムを開発するプロジェクト
<今求められるPMが前提とすべきプロジェクト像>
・プロジェクトの出発点において目的は抽象的・曖昧性を孕み、認識の枠組みや価値観を異にする関係者が多いプロジェクト
・例えば、組織改革プロジェクトや地域活性化プロジェクト

正統派プロジェクト・マネジメントには、技術主義が色濃く、人間的な側面を等閑視しています。正統派プロジェクト・マネジメントには、第1講で紹介する方法論を適切に活用すればプロジェクトは成功する、との技術主義が色濃く、プロジェクトを担うのが人間である点が、軽視されています

4.2.『PM3.0』

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そこで、本講義では、正統派PM(PM2.0)の欠落を補い、PM3.0を展望します。
・歴史上の大規模プロジェクトでも、何らかのマネジメントは行われていた筈で、これをPM1.0とします。
・現代の正統派PMの源流は、冷戦時代の軍拡競争や、経済対策として実施された大規模な公共投資の際の、プロジェクトの科学的な管理に求めることができます。これをPM2.0と呼ぶことにします。

出発点での目的は抽象的で曖昧さを孕み、価値観を異にする関係者が多いプロジェクトに対応し、プロジェクトを担うのが人間であることを重視したプロジェクト・マネジメントが、この講義で追求するプロジェクト・マネジメントであり、これをPM3.0 呼ぶことにします。

2021年に発行されたPMBOK第7版は、PM3.0への展開を志向した改訂であると解釈することができるでしょう。しかし、本テキストの立場からは、依然として大きな問題を孕んでいる言わざるを得ません。この点に関心のある方は、是非下記を参照して下さい。
注6. https://note.com/nakawaketakeshi/n/nca88e79be338

4.3.マネジメントの変革が必要なプロジェクト・タイプ

マネジメントの変革が必要なのはどの様な特徴を持つプロジェクトなのか、具体例と合わせて下の表に示しました。元来、プロジェクトは下記の様な要素を多かれ少なかれ有している訳ですが、VUCAな時代と言われる現在、より顕著になってきた特徴であるといえます。

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5. PM3.0に向けた着眼点

着眼点は次の2つです。

着眼点1:組織活動は上から下への一方通行ではない。それぞれの役割の浸透が大事である。
着眼点2:プロジェクトは人間によって担われる。人間的側面を重視する必要がある。

5.1 組織活動は上から下への一方通行ではない(着眼点1)

①プロジェクトの目的は所与ではない

組織の戦略が、その実行を担う人たちに恐るべき程に理解されていないことが明らかにされ、如何に実行につなぐかが重要な問題と認識されるようになりました。戦略を実現するのがプロジェクトですから、この点はプロジェクト・マネジメントにおいても重要な問題です。

抽象的で曖昧性を孕むプロジェクトの目的が、戦略策定側とプロジェクト遂行側の協働作業によって、具体化、豊富化し、プロジェクトへの要求事項に落とし込まれる、という相互浸透が重要となります。

プロジェクトマネジメントの従来の流れ:組織戦略を実現するためにプロジェクトの目的が設定され、プロジェクト・マネージャーはそれをプロジェクトのゴールや要求事項に展開・具体化し、その実現を図る。

抽象的で曖昧性を孕む目的が出発点となる場合、目的を所与として、実行側がそれを実行可能な様に解釈して実行に移すという流れでは、目的設定側と実行側の課題認識が相当程度共通でない限り、目的に適った成果が得られることは期待薄であると言えます。
しかし、抽象的で曖昧性を孕む目的の場合、その解釈は立場、領域、個人の問題意識によって異なる、と考えるべきです。

②プロジェクトの始まりはファジーであることを重視した初動期マネジメントが重要

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プロジェクトは、確定したゴールを実現するために計画された業務を実行する整然とした活動、という枠に収まるものではありません。確定したゴールであっても、それが達成された状態の具体的イメージや、何を重要視るのかといった優先順位も様々です。ましてや、目的が抽象的で曖昧性を孕む場合には、ファジーさに拍車がかかる訳で、目的を明晰なものとし共有すること自体が、一つのプロジェクトであるとも言えます。

プロジェクト初動期はファジーな状態にある場合が多く、ファジーさを前提とした初動期のマネジメントが重要です。

③オペレーションやユーザーの視点を取り込む

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プロジェクトを失敗に導く重要な要因の一つとして、ユーザーの意向が反映されていない、が挙げられています(プロジェクトの失敗要因については第2講で詳述します)。オペレーションやユーザーを重視しその知識を取り込むとは言っても、供給側のものの見方を前提とした推測や調査、試作段階での意見徴収や丁寧な取り扱い説明の作成などにとどまっている場合が、まだまだ多いのが実情です。

形式的なニーズ把握を超えた、オペレーションやユーザーの関与(Engagement)や共創(Co-creation)を目指す姿勢が重要です。

また、プロジェクトは戦略から天下り的に実行側に降りてくるようにも思える記述をしてきましたが、プロジェクトの発意はそれにとどまるものでないのは当然です。プロジェクトから戦略への回路が重要である(5.1)のと同様に、オペレーションからプロジェクトや戦略へと提案がなされる回路も重要です。

④プロジェクト・デザインというアプローチ

以上①~③で述べた提案は「プロジェクト・デザイン」というアプローチで統合することが有望だと考えています。これを下図に示しますが、プロジェクト・マネジメントの対象領域を前方に拡張し、プロジェクト・デザインと融合させていくことが重要だと考えています。

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プロジェクト・デザインについては、番外編「プロジェクト・デザインでプロジェクトの発意・形成と実行をつなぐ」を是非参照して下さい。
注1. https://note.com/nakawaketakeshi/n/nd10456ad9d24


5.2.プロジェクトの人間的側面を重視する(着眼点2)

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正統派プロジェクト・マネジメントには、プロジェクトの目標を明確に定義し、それを業務に適切に分割して進行を管理すればプロジェクトは成功する、という技術主義的色彩が濃厚です。このことは、従来、プロジェクト・マネージャーのリーダーシップやコンピテンシー、プロジェクト・ティーム・メンバーのモティベーションが、大きなテーマとされてこなかったことに、如実に表れています。

しかし、最近、人間的側面が重要だとの流れが、段々勢いを増している様に思われます。

では、人間的側面としては何に注目すればよいのでしょうか?
プロジェクトのオーナーなどのステークホルダー、プロジェクト・マネージャー、そしてプロジェクト・ティームの3つの範疇に注目することが適切だと考えます。

プロジェクトの人間的側面として、3つの範疇に着目することが重要です。
・異なったフレームを有しているステイクホルダー間の相互理解を促進し、コンフリクトの解決をはかるための方略とは何か?
・ステイクホルダーからの信頼を生み、プロジェクトを効果的に進めていくプロジェクト・マネージャーのリーダーシップやコンピテンシーは何か?
・プロジェクト・ティームやティーム・メンバーの動機付けを保持し、成長につなげるマネジメントとして何が必要か?

上図に示すように、プロジェクト・マネージャーは、プロジェクト・オーナー、プロジェクト遂行組織、外部のステイクホルダーという、プロジェクトに対して異なった関心事や影響力を有するステイクホルダーの間の相互理解を促進し、コンフリクトを解決していくという要の役割を持っています。
この役割は、境界連結者(Boundary Spanners)の役割に他なりませんが、ここにプロジェクト・マネジメントの人間的側面が集約できると考えます。

6. 正統派の知識体系を尊重しつつ、その重要な欠落を補い発展させる

PMは、決められたプロジェクトを実行する技術論で、MBAにはもはや不要、と思われがちです。
しかし、PM3.0は、変革の時代の組織リテラシーとなりうるものです。
これからの講義では、PM2.0をどうアップデートしていくか、実践者の皆さんと考えていきたいと思います。

取り上げるテーマとしては、以下を予定しています。
①PMの源流に遡り、正統派PM/PMBOKを理解する
②プロジェクトの成功/失敗、プロジェクトを成功/失敗に導く要因とは何か、を改めて考える
③プロジェクトの目標や要求事項の設定は極めて重要だが、難しい。では、どうするか
④品質マネジメントで重要なのは、目標設定におけるトレード・オフの解決と実行プロセスでの無用な手戻りをなくすコミュニケーションである
⑤コスト・マネジメントを困難とする要因に、プロジェクト・マネージャーはどの様に立ち向かえばよいのか
⑥プロジェクト・マネージャーに求められるリーダーシップとは何か
⑦コミュニケーション・マネジメントは、情報の収集や周知に留まるものではなく、相互理解を打 ち立てることが重要である
⑧ステイクホルダー間のコンフリクトをどの様に解決するか
⑨メンバーのモティベーション・マネジメントは、マネージャーの規範の一つである
⑩プロジェクト・マネジメントの対象領域を前方に拡張するプロジェクト・デザインを提案する


補足:プロジェクトの定義

ここまで、プロジェクトという鍵となる言葉を無定義で用いてきました。
ここで、一応定義しておきたいと思います。

■PMBOKにおける定義
PMBOK GUIDE 6th Edition, P4. 2017, 訳文は日本語版からの引用

プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務である。
A project is a temporary endeavor undertaken to create a unique product, service, or result.

■本講義での定義
プロジェクトとは、固有の目標を達成して価値を創出するために、定められた期間内に実行される、組織化された一連の行動である。

ポイント
① 固有の目標:プロジェクトは定型的な業務とは違い、それ固有の目標をもっている
② 価値の創出:プロジェクトが生み出すものを価値と捉える視点が重要である
③ 定められた期間:プロジェクトは、開始と終了をもつ有期的な活動である
④ 組織化された一連の行動:プロジェクトを実行するためのプロジェクト・ティームがデザインされた行動を行う

以上です。

講義スライドは10回分を予定しています。
今後1ヶ月に1度ほど更新していければと思いますので、よければお付き合いください。

引用論文や詳細の解説はこちらからご覧ください。
尚、以下の資料もクリエイティブコモンズとして公開します。
©中分毅 (Licensed under CC BY-NC-ND 4.0)

著者:中分 毅 

一般社団法人CAMPs研究会代表
一般社団法人FCAJ理事
(株)日建設計フェロー(イノベーション・デザイン推進担当)
中国華東建築設計研究総院特別招聘研究員
多摩大学大学院客員教授(プロジェクト・マネジメント担当)

■これまで従事した業務
・大都市の工場跡地再開発(兵庫県尼崎市、東京都江東区豊洲、品川区大崎など)
・日本に進出した外資系企業をクライアントとするプロジェクト/コンストラクション・マネジメント
・中国・ロシア・ベトナム・中東地域での都市開発、オフィス構築プロジェクト

■現在のテーマ
① 組織や領域の境界を越えるプロジェクトにおける合意形成プロセスと成功要因の分析
例えば、駅などの都市基盤の更新を伴う都市再開発プロジェクトで、複層の行政、鉄道事業者、開発事業者、地元地権者、学識経験者等が関係する典型的なマルチステイホルダー・プロジェクトといえます。

② イノベーション・センターやイノベーション地区の活動の評価枠組みを用いた事例分析
評価枠組みとしては、FCAJにおける開発に参加したEMIC:Evaluation Model for Innovation Centersを利用しています。

③ 建築主、使用者、設計者、施工者(ゼネコン、サブコン、専門工事)、ビル管理者がOne-teamとして活動できるような建築生産プロセスの探求
欧米ではIPD:Integrated Project Deliveryと呼ばれ、最近注目されるようになってきました。

④ 社会目的を共有する共創:Purposehoodの探究

⑤ プロジェクト・マネジメント教科書の大改訂(多摩大学大学院用)
このnoteはそのために、吉備さんの支援を受けて開設しました。


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