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マラソン世界記録保持者、キプチョゲ:DRI-Fitを着たヨーダ

現マラソン世界記録保持者キプチョゲの発言は一風変わってます。

ランニングやレースそのものより広く話が多く「人間の可能性は無限だ」や「走る世界は健康で平和な喜びの世界だ」など。

NewYork Timesの記事で彼について、日本ではあまり書かれてないことが紹介されてました。その中で彼は[He’s also running’s philosopher-in-chief — a DRI-FIT wearing Yoda(ランニング界の思想家であり、DRI-FITを着たヨーダのようだ)]と描写されています。

Eliud Kipchoge Emerges as the Philosopher-King of Running - The New York Times (nytimes.com)

その人柄や生い立ちを知ることで、発言の背景もより理解できたので引用しつつ紹介したいと思います。

世界一のマラソンランナーがどんな人か。何を考えているのか。

キプチョゲ基本情報

Eliud Kipchoge(エリウド・キプチョゲ)
・ケニア出身の陸上選手、現在37歳
・現マラソン世界記録保持者(2時間01分39秒[2分53秒/km],  2018年)
・人類初のマラソン2時間切り達成(1時間59分40秒[2分50秒/km],2019年:非公式記録)
・マラソン:14戦12勝(優勝)。オリンピック金メダル2回
・2003年から世界の第一線で活躍(2003年世界陸上5000M優勝)

これだけでそのすごさは十分伝わると思いますが、マラソン世界記録時のスピード(ペース)についての私の過去記事書いたのでもしよろしければ。

[見るマラソン]トップランナーのスピードと距離のすごさを、別の形で実感する|小池 中人/Nakato Koike|note

キプチョゲの言葉

彼の有名なコメントを引用します。

“To win is not important. To be successful is not even important. How to plan and prepare is crucial. When you plan very well and prepare very well, then success can come on the way. Then winning can come on your way.”
勝つことは重要ではない。成功することがより大切であり、計画と準備が不可欠だ。それらがうまく事前にできていれば、成功は半分約束されている。そして、結果的に勝てる。

https://medium.com/runners-life/5-quotes-by-eliud-kipchoge-to-inspire-your-running-7073fef47881

これだけ勝って結果を出している人ですが、プロセスをより重視している、というのは意外でした。確かに「マラソンにはまぐれはない」という格言もある通り、レース当日よりも、その前の日まで何をやってきたか、が問われるスポーツのように思います。

そしてキプチョゲは「それはマラソンだけでなくて、他の全てのことがそうなんだよ」ということを言いたいのかと。

“Athletics is not so much about the legs. It’s about the heart and mind.”
陸上競技とは、脚ではなく、気持ちと心なんだ。

https://medium.com/runners-life/5-quotes-by-eliud-kipchoge-to-inspire-your-running-7073fef47881

キプチョゲの言葉には、肉体的なものよりも、精神的なものについて語ることが多く、彼いかに精神力が大切だと思っていることがわかります。

“Only the disciplined ones in life are free. If you are undisciplined, you are a slave to your moods and your passions.”
規律を持つものだけが自由になれる。規律がなければ、あなた自身の気分と情熱の奴隷に成り下がってしまう。

https://medium.com/runners-life/5-quotes-by-eliud-kipchoge-to-inspire-your-running-7073fef47881

耳の痛い話です。私も自分の気分の奴隷になり下がることがあるので気をつけます。

■思想家

Kipchoge though is not only the fastest, most consistent marathoner in history. He’s also running’s philosopher-in-chief — a DRI-FIT wearing Yoda who has redefined human limits and thinks hard about the meaning of his quest.
ただ速く強いだけでなく「ランニング思想家」でもある。ドライフィットを来たヨーダだ。人間の限界を再定義し、自身の探求の旅を続けている。(訳注:Dri-Fit=Nikeのアパレル製品名。キプチョゲはNikeと契約している)

NewYorkTimes

普段から色々と深く考えている人のようです。その思考の端々が言葉となって現れて出てきているのかと。

人類初のマラソン2時間切りを達成した時の言葉も印象的でした

“The reason for running 1:59 is not the performance,” Kipchoge said. “The reason to run 1:59 is to tell that farmer that he is not limited; that teacher that she can produce good results in school; that engineer… that he can go to another project.”
マラソン2時間切りは自分の能力を追求するためにやったわけではない。農家でも教師でもエンジニアでも、、どんな人の能力にも限界は無い、ということを伝えたかった。

NewYorkTimes

■タライ族出身、生い立ち

そんなキプチョゲの生い立ちについて。

His background as a Talai: a small clan of the Nandi tribe known for their wisdom, their important role in Kenyan history, and — according to some — their supernatural abilities.“The Talai were the clan that produced our leaders,”
(キプチョゲは)ケニアの歴史においてその重要な役割、と超自然的な力でで知られている、タライ族という小さな部族の出身。”タライ族はリーダーを生み出す部族”

NewYorkTimes

ケニアには多くの部族が存在しますが、その中でも歴史的に著名な人物を生み出してきたタライ族の出身とのこと。その部族の出身者は何か特別なものを持っている、といわれているそうです。キプチョゲ自身も幼少期からそのように言われ育ち、走ることに才能を見出していったのかも知れません。

By 2002, Sang had transitioned to coaching; Kipchoge, who was scraping out a living delivering milk on the back of a bicycle, decided to seek him out for running advice.
Sangは2002年に(陸上選手から)コーチへ転向した。当時ミルクの配達で生計を立てていたキプチョゲは、Sangにランニングのアドバイスを求めるようになった。

NewYorkTimes

2002年より現在までキプチョゲは、同じくタライ族出身のSangコーチに師事しています。同郷のコーチと20年近く連れ添って、世界一のマラソンランナーになりました。

サング自身も陸上選手として実績があり、今はコーチとして有名になっています(1992年にオリンピックの3000M障害で銀メダル)

https://www.sweatelite.co/eliud-kipchoges-coach-patrick-sang-wisdom/


■強さの源

優勝、金メダル、世界記録。実績が多くを語りますが、そこに見えてこない彼の強さはなんなのでしょうか。サングコーチは語ります。

Sang and several teammates said in interviews, involve his unmatched combination of discipline, self-belief, and psychological mettle. Sang spoke of Kipchoge’s ability to “focus a notch higher” — during training, at key moments in races, and in avoiding the distractions brought by fame and wealth.
(コーチがチームメイトがキプチョゲの強さとして挙げるもの)規律・自己信頼・精神的の強靭さ。トレーニング中・レースでの重要な局面においての極度の集中力。  そして、名声や富がもたらす誘惑から一線を引くこと。

NewYorkTimes


Many of Kenya’s stars have veered off track
because of alcohol or bad investments. Kipchoge shuns nightlife for the quiet of the camp, where he pitches in with daily chores and spends his free time reading books.
多くのケニアのスター選手はアルコールや筋の悪い投資話に乗り、道を外れてしまった。キプチョゲは、毎日の夜の時間を、静かに読書をして過ごしている。

NewYorkTimes

メンタル面での強さと生活の規律の厳しさ、が際立っているようです。

マラソンは気持ちで走る、と言われますが、このクラスのランナーとなるとものすごいメンタルを持っているのでしょう。

また成功したランナーにつきまとう金・名声・誘惑、ともキプチョゲは距離を置いているようです。仲間とトレーニングを淡々とこなしている姿がよくみられます。

世界一のマラソンランナーは、倹約を重んじる思想家でもありました。確かに見た目も仙人やお坊さんのような落ち着きがある顔をされています。

引用:朝日新聞デジタル

気持ちの強さ、規律、視点の高さ、など人としても見習うべきところが多い人物と感じました。彼からすると、マラソンという競技自体も、自分自身の可能性を探求するための一つの表現に過ぎないのかもしれません。

そんな彼が、3月6日(日曜)に東京マラソンを走ります。
多くのTVカメラがキプチョゲを追うでしょう。「キプチョゲは今何を考えているのか?」を想像しながらTV観戦するのも楽しいかも知れません。

そして東京マラソンでキプチョゲと走れるみなさん、良い走りを。

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