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アゼルバイジャン生活記6🇦🇿

「everything is well」

翌朝気持ちよく目覚めた私は早速準備に取り掛かった。
昨日私は心の中でジョージア行きの切符を手にしたのだ。これを使って乗り込むのだ。私はワクワクしていた。朝食を自分で作り、心も体も準備万端。

 私は出発時刻の約30分前に宿を出発した。気持ちのいい風と、日差しが私の気持ちを勝手に盛り上げてくれる。バス停に着き、バスを確認すると間違いなく停車している。私はルンルンで乗り込む。出発まで10分と言ったところだろうか。車内にはチラホラ乗客がいる。ここでももちろん外国人は私だけだった。

 出発の5分前になって私の脳裏に誰かが問い掛けた気がした。嫌な予感がした。私は赤ん坊を抱くように抱えていた大きなバックの中身を確認した。何かがない気がする。時刻を見ると4分前。深呼吸をし、もう1度中身を確認する。

「あっ!」思わず声が出ていた。

 私はジーンズを忘れてしまっていた。どうしようか迷ったが、私はどこかで買えばいいと思い、バックの封を閉じた。時刻は3分前になっていた。運転手が運転席に乗り込んできた。やっと出発だ。そう考えていたが、運転手がお金を数えているのを見ている瞬間にドキッとした。
 なぜなら私のジーンズにはリスクヘッジのために仕込んだUSドルを多めに仕込んでいたのだ。顔から血の気が引いていくのがわかる。やばい。純粋にそう思った。どうしようか。今ならまだ戻ることができる。しかし、これを逃したら、今日の最終便には間に合わない。悩んだ。その時間は現実世界で動いている時間の何倍も遅く感じた。私の脳が急速に回転した瞬間だった。時計をみると、1分前になっている。どうするか。戻ったところで確実にある保証もなかった。

 エンジンが掛かった。その音が早く決断しろと私に言っている気がした。私はバタバタとそのバスから飛び降りた。振り向くとバスのドアは閉まっていた。
 来た道をまた戻る。あんなに気持ちのよかった風が、日差しが私をばかにしているかのようにピタッと止み、日差しも雲の中に隠れてしまった。私はゆっくりと宿に戻る。誰かが慰めてくれるわけでもない。自分の気持ちを高めるのも、癒すのも、慰めるのも自分なのだ。
「時間はある」「急ぐ必要はどこにもない」そんな簡単なことを小さく口ずさみながら私は宿に戻った。
 扉をあけて一目散に部屋に戻る。私が寝ていたベッドは綺麗に整っていた。しまった。そう思った。しかし、カーテンの脇からチラッと見える光が私を正常に戻した。そこには忘れていたジーンズがあった。幸いにも隠れていたようで大事な資金も無事であった。何かの物音に気がついたのか、スタッフが慌てて部屋に入って来た。
「どうしたの????」
「これを忘れてしまって...」

 私が今日の最終便には間に合わない趣旨を伝えようとする前に、
「everything is well」その言葉に私は救われた。
「もう一泊していきな」私は素直にその言葉に甘えた。

 そうなのだ。私は何も急ぐ必要がないのだ。何であんなに焦っていたのか私にも理由はわからなかった。一本のタバコに火をつけバスを降りるまでの5分間を振り返った。私はこの失敗もきっと何か形を変えて戻ってくると思った。もはや失敗などではないと思った。そして私はゆっくりと腰を下ろしたのであった。
 

「everything is well」私は心の中でもう1度そう唱えた。

今日の目的を達成できなかった私は何をしようか考えた。

出た答えは「ゆっくりしよう」これだけであった。自分の中で問題を解決できた瞬間でもあった。何も急ぐ必要はない。今日行こうが、明日行こうが、大した問題ではないのだ。私は自ら望んでそういう人生を選んだのだから。妙に気分が良くなった。同時に肩の重さが解消された気もした。

いつの間にか風はまた吹き出し、日差しも私に注いでいた。翌日全く同じ行程で問題なくジョージアに行けたのは言うまでもない。