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2018年 35冊目『地域金融のあしたの探り方―人口減少下での地方創生と地域金融システムのリ・デザインに向けて』

銀行×地域について知見を深めたかったので、手に取りました。

その観点でいうとかなり良い本でした。

公のデータを使って統計的に地域、銀行の可能性を探っていくというアプローチがかなり好きになりました。

イヤードッグをつけたところをメモしておきます。

・個人預金は、預金全体650兆円のうち420兆円が個人預金残高。
   全体の3分の2を占める。

・年齢を重ねるごとに 1人当りの金融資産は増えていき 、あわせて証券系の資産割合も高まる 。リタイアする6 0代をピークに年金生活に入り、7 0代以降は資産を取り崩しながら生活するから 1人当りの金融資産もしぼんでいく 。

・個人金融資産はどうなるのか?

2014年1643兆円

2020年1621兆円

2025年1613兆円

2030年1600兆円と減少は大きくない。▲1.5兆円強/年

2035年1570兆円

2040年1507兆円と減少スピ ードが徐々に加速する 。▲9兆円超/年

・その減少スピードは都道府県でかなり違う

厳しいのは、岩手、福島、徳島など

増えるのは、東京、神奈川、沖縄

・貸出における将来予想の拠り所

生産年齢人口と国内銀行の貸出残高は相関がある。

R二乗=0.95、つまり生産年齢人口が増えると貸し出しが増える。

・ざっくり、生産年齢人口1人当り、約320万円の貸出残高。

→生産年齢人口×320万円で、地域内の貸出額を予測できる!!

・一方の全国ベースでの国内銀行の貸出はどうなるのか?

2014年437兆円

2025年395兆円

2040年353兆円

・預金と貸し出しが予想できると、その比率、預貸率も分かる。

2014年6 8%

2025年6 0~6 2%

2040年5 5~6 1%

→国内銀行であっても 、信用金庫のようにもはや半分近くは市場で運用する時代が、四半世紀ほどで到来してもおかしくないことを示唆

・生産年齢人口を増やすには、どうすればよいのか?

人口の自然増減vs社会増減

→増加:出生者数104万vs転入者数は国外からの転入も含めて568万人:出生者数の5.5倍

→減少:死亡者数127万vs転出者数557万人。死亡者数の4.4倍

つまり、行政区単位で考えると、転入者をどうやって増やすのか、転出者をどうやって減らすのかが一大イシュー。

・市の経済力に依存する社会移動の力学

→県庁所在地の場合 、1人当りの法人住民税が大きいほど社会増減も大きくなる 。

つまり、市の経済力を敏感にかぎ分け、人は移動している。

(ただし、まずは、近くの大きな県庁所在地、そしてエリア→そして東京)

県庁所在地がすべきは、伸びる企業を増やすこと!!

・市町村の3つの分類

全国1700の市町村は3つに大別できる。

1つ目は、地方ごとに 1つある求心性の高い大都市。

地方のなかで頭抜けた経済力(1人当り法人住民税)を誇り 、人口の流入も県庁所在地の市のなかでもひときわ多い。

現時点においては、年間で1万人から1 0万人単位で転入を受け入れている。

関東甲信越静岡地方なら東京都特別区、関西地方なら大阪市、東海地方なら名古屋市、東北地方なら仙台市、中国地方なら広島市、九州地方なら福岡市が該当。

これから人口自然減が加速し始めるが 、社会増によってだいぶ減速される。

そのため、貸出の需要が急速にしぼんでいくことはないと思われる。

場合によっては、今後10年くらいは、いまと同じくらいの貸出需要があるかもしれない。

2つ目は、その他多くの県庁所在地の市(中継都市)

場合によっては経済力が県庁所在地の市以上の市も、こちらに含まれるかもしれない。

たとえば、群馬県の高崎市、静岡県の浜松市、三重県の四日市市や山口県の下関市

これらの都市は、社会増が、いまのところ数千人から1万人の規模である。

県内のその他の市から人口を吸引するものの、その市から求心都市へ人口を放出。

これらの中継都市は自然減が進んでいくと、社会増の程度が小さいため 、全体での人口減少をくいとめることはできない。

そのため、中継都市の貸出需要も明確な減少傾向をたどるものと予想される。

3つ目は、これ以外の市町村。(周辺市町村)

周辺市町村の社会増減は、多くの場合マイナスであり、人口が流出していく。

自然減が進行、加速されていくと、人口減少が急速に進む。

貸出需要も、いま以上に衰えていくと予想される

・あしたの地域金融機関のつくり方

貸出と預金の資金利鞘(P r i c e)は預貸ギャップという資金の需給関係によって決まってしまう。

言い換えると、預貸ビジネスがコモディティビジネスであることを示唆しています。

また 、個々の地域金融機関の営業経費(C o s t)は貸出残高(V o l u m e)によって決まります。

事業規模が小さいままではコスト削減に限界があることを示唆しています。

同時に、規模を拡大する合従連衡であっても、持株会社方式ではコスト削減メリットを享受できず、合併してはじめて規模の経済が生まれることも示唆しています。

資金利鞘は預貸ギャップに影響されます。

・このまま自然体で推移して、2~2.5年後にストックベ ースの資金利鞘が0.7%になるとしたら、多くの地域銀行が赤字転落することになる。

つまり、預貸ビジネスがコモディティビジネスになるということ。

つまり、価格以外では差別化がむずかしいビジネスであると割り切らなければいけない。

実際、市場金利が上がっても、利鞘が大きく変化しないのは、最近の傾向。

→市場金利が上がれば救われるというのは、安易な期待に過ぎない。

・統計処理すると貸出残高が営業経費を決める。

・全国平均だと、地方銀行の固定費は16.9億円

これをモデル銀行だとして、貸出残高別の直接経費率は1兆円:1.44%、5兆円:1.21%、10兆円:0.92%

→当然ですが、貸出規模が増加すると、直接経費率が下がる。

これに信用コスト0.2%を加えたものが、実際の直接経費率。

しかし、2015年の新規約定ベースの資金利ザヤは0.8%前後!!

つまり、これだと絶対に儲かっていない。

・統計処理すると、1億円貸出残高が増えると135万円営業経費が増える。

・この135万円は、かなり低い。

・その他役務手数料を得るには、1億円で5700万円営業経費がかかる。

・すべての商品を加えての固定費は22.2億円(貸出だけだと16.9億円)

貸出残高別の直接経費率は1兆円:1.29%、5兆円:1.04%、10兆円:0.73%

→地方銀行の大半は、5兆円の貸出しがないので、1.04+0.2%の利ザヤが必要。

→預貸ビジネスであれば、経営統合しないとまずい

しかし、実際は、持株会社形式ではまったく経費は下がっていない。

経営統合だけが直接経費を下げる方法。

・経営統合し、加えて、次の一手を打つべき

→専門性の強化(個人ではなく、チームで対応できるようにできる)

→仕組みが必要な分野の強化(マーケティングや標準化)

※無担保ローンは2000年から12年に3分の2に縮小したが、縮小し過ぎ(成長余力がある)

・地域銀行合併で求められる地理的な広がり

→県を越えた経営資源のシフトを起こすべき

・預貸率50%割れの経営モデル

1.預金の一部を投信や保険などの金融商品に代替:アセットマネジメント商品販売

→証券、保険子会社の設立

→販売員の人材育成

2.もしくは余資運用で運用利回りを上げる:自らアセットマネジャーとして高度化

・究極の経営統合──和歌山県の場合

貸出残高96年3.2兆円→現在2.3兆円

この間に、1銀行(紀陽銀行)、2信用金庫、1信用組合に合併

→紀陽銀行は県外展開積極的

拠点:和歌山67、大阪37、他3

貸出:半分大阪、和歌山4割

・今後、自治体の地方版総合戦略を策定する時に地銀の支援が求められる

その際の、キーワード

・域内の付加価値額の増大を、地方創世の目標にすべき

付加価値=就業者数×1人あたりの付加価値 の合計

売上=顧客数×顧客あたり消費額

・ILOによる就業者分布

顧客をI:インバンド、L:ローカル、O:アウトバンドに整理すると良い

このI,L,O×1~3次産業で産業分類を行うと良い

その前提で7つの戦略

・基本軸1──アウトバウンド型・インバウンド型への傾注

・基本軸2──アウトバウンド型産業の垂直統合をねらえ

・基本軸3──アウトバウンド型産業の広域展開

・基本軸4──インバウンド型産業は事業のあり方の見直しが前提

・基本軸5──ローカル型産業を5倍の法則で救え

・基本軸6──ローカル型産業のアウトバウンド化、インバウンド化

・基本軸7──企業誘致は頼りになる地元企業がないときの最終手段

最後は

・地元依存度からみた戦略──地元企業育成か域外からの誘致か

かなり勉強になりました。

▼前回のブックレビューです。


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