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ハイエナに会いに行く。~マサイ・マラ#5~

サファリカーに備え付けられた無線から突如、連絡が入った

皆の緊張が高まる瞬間だ

ジェームズはそれに応答し、すぐさま乱暴にハンドルを切った

車体は大きく弧を描き砂埃を立てながら目的地へと向かった

どうやらライオンの目撃情報が入ったらしいのだ

ここにきて初のライオンの目撃情報である

時間を確認すると朝の10時を少し回った頃だった。

やがて車は速度を落とし目撃された場所にたどり着いた

しかしライオンの姿は見当たらない、一足遅かったようだ。

僕たちは周囲を見回し、なんとかライオンがいた形跡を見つけ出そうとするがどこにも見当たらなかった

しばらく徐行しながら前へ進んだ。

少し前から日差しが強くなり、気温が上がってきたのが感じ取れた。

車内からすでにライオンは諦め、他の動物を探そうという空気が立ち込め始めていたころ

サラが小さな声で「ライオン」とつぶやいた

皆が一斉にサラに目を向け「どこだ!」と叫んだ

サラは冷静に、皆の視線を誘導するように右斜め前方を指さした

そこにはメスライオンがのそのそと歩いている

僕たちは初めて見る野生のライオンに言葉が出なかった

ライオンは木陰を見つけ重そうな身体をドンッと音を立てるように落とした

左の顔から腕にかけてうっすらと赤く染まっている

ジェームズは車のエンジンを切った

後を追うように子供たちが母親のもとへやってきて同じ場所に身を沈める

狩りを終え腹を満たしたライオンは気だるそうに僕たちの方に視線を向けると、気にもしていないというようにそっぽを向いてしまった

どこからかキーキーという泣き声が聞こえてきた

その近くではハイエナが大きな塊肉を咥え自分の住処に持ち去ろうとしている

向こうを見るとジャッカルが草の隙間から顔をのぞかせている

空の上では鷲が旋回している

無残にも角とあばらだけが綺麗に残されたバッファローの骸が茂みの脇に転がっていた

まだ乾き切っていない血を見ると先ほどまで体温があったことを感じ取れた

周りを見回しても群れのバッファローは見当たらない

ついさっき殺されたというのに一頭たりとも惜しんで近寄る仲間はいない

もうすでに日常が始まっているというのか。

死んだら骨以外何も残らないのだろうか

ここに生きる動物たちにとって死とはどれほどの重みがあるのだろうか。


つづく














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