中村朔

二匹の猫に飼われながらシナリオや怪談を書いてます。noteに不定期で怖い話を掲載中。「…

中村朔

二匹の猫に飼われながらシナリオや怪談を書いてます。noteに不定期で怖い話を掲載中。「怪異蒐集」は実話怪談形式の怪異譚、「眠らない猫と夜の魚」は怪異を蒐集している大学生たちが怪異に巻き込まれる日常(?)譚です。竹書房から共著「呪録 怪の産声」発売中です。

マガジン

  • 眠らない猫と夜の魚

    不登校の小学生、草薙波流は夜の街を歩く。 実際に歩くのではない。眠っている間に波流の意識だけが体を抜けて、夜の街を歩くのだ。それを街で怪談を収集する大学生の黒崎朱音は「夜歩き」と呼び、波流が夜歩きで見たものを調べている。ある日の夜歩きで、波流は誰かが森の中に死体のようなものを埋めるのを目撃する。朱音はその場所を探し始め、その日から朱音の周囲で怪異が起きるようになる。

  • 怪異蒐集

    「眠らない猫と夜の魚」に登場する大学生たちが収集した怪異話。 だいたい2,000字前後。ひまつぶしにどうぞ。

  • 夜話

    みたま市という架空の街で怪異を収集する大学生たちが体験した、恐怖譚・日常譚。10,000〜15,000字程度の中長編が多いので、お時間のある際にどうぞ。 ※「眠らない猫と夜の魚」のマガジンに分割版をUP中で、いずれそちらに統合予定です。

  • お知らせ

    夜話・怪異蒐集とは関係なく、筆者自身のお知らせです。あと選外になった応募作を供養代わりに載せたりします。

記事一覧

固定された記事

【眠らない猫と夜の魚】 第1話

あらすじ不登校の小学生、草薙波流は夜の街を歩く。 実際に歩くわけではない。眠っている間に波流の意識だけが体を抜け出して、夜の街を歩くのだ。それを街で怪談を収集す…

中村朔
1か月前
80

【眠らない猫と夜の魚】 エピローグ

「夜を泳ぐ」 夜明け前。 真夜中と朝のちょうど中間くらい。 空の碧が一番濃くなる時間に、街を歩く。 夜の街を歩くのが好きだ。 目的なんてなくて、 ただ単に、夜を歩く…

中村朔
4日前
22

【眠らない猫と夜の魚】 第22話

「猫と魚」④   夜の三珠神社は怖いくらいに静まり返っていた。その静寂を破って微かに土を掘る音が聞こえてくる。  神社の敷地に隣接して建っている剣道場に近づくと、…

中村朔
5日前
12

【眠らない猫と夜の魚】 第21話

「猫と魚」③  小さな頃から、夜が好きだった。  長い夜の中で、怖い話とかUFOの話とか、夜の中で起きる話を読むのが好きだった。お母さんは仕事で遅いから、夜はたいて…

中村朔
6日前
12

【眠らない猫と夜の魚】 第20話

「猫と魚」② 「またお前か」  赤い目の波流は、興味なさそうに言った。  境内を埋める猫たちとともに、赤い瞳で瞬きもせずに私を見ている。しばらく待ったが、自分から…

中村朔
8日前
14

【眠らない猫と夜の魚】 第19話

「猫と魚」① 「いてっ」  助手席のドアガラスに額をぶつけて目が覚めた。もう三度目だ。ガラスには涙目の私が映っている。その後ろに呆れ顔の亜樹。 「朱音、着いたら起…

中村朔
11日前
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【眠らない猫と夜の魚】 第18話

「神隠し」③  波流が試合をすることについては吾妻さんも難色を示していたが、波流のやる気に押し切られ『吾妻さんが審判をする』という条件で了承した。   音也側は先…

中村朔
2週間前
14

【眠らない猫と夜の魚】 第17話

「神隠し」② 「小夜、ほい」 「ん、ありがと」  水鳥の声に我に返って珈琲のペットボトルを受け取る。表面に浮いた水滴に近づきつつある夏を感じた。 「私も珈琲飲みたい…

中村朔
2週間前
20

【眠らない猫と夜の魚】 第16話

「神隠し」① ■怪異蒐集No. - -(未公開) ■タイトル:神隠し ■話者:Aさん、小学生 ■記述者:黒崎朱音  市内の小学校に通うAさんの話。  みたま市では7月に「み…

中村朔
3週間前
16

【眠らない猫と夜の魚】 第15話

「地蔵殺し」④ 「……どーすんの、これ」  というわけで私の家に、願いが叶う石(×100)はやって来た。工事現場の噂や小学生の話、そしてさっきの実体験から考えて、怪…

中村朔
3週間前
25

【眠らない猫と夜の魚】 第14話

「地蔵殺し」③ 「は? 猫地蔵を砕いた石?」  小夜がソファの背もたれに張り付いて足元のエコバッグから距離をおいた。  時刻は20時。私たちは未だ地縛霊のようにファ…

中村朔
3週間前
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怪異蒐集 『𡚴(やまめ)』

■話者:Tさん、組合員、30代 ■記述者:八坂亜樹  森林組合に所属するTさんは、日常的に山に入って現状調査や測量を行っている。山ではビニールテープやペンキで木…

中村朔
1か月前
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【眠らない猫と夜の魚】 第13話

「地蔵殺し」②  アボカドのクローズ作業を手伝ってから、小夜は宣言通りに帰っていった。  小夜は心霊スポット巡りの類は絶対にやらない。前に心霊スポットであることを…

中村朔
1か月前
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【眠らない猫と夜の魚】 第12話

「地蔵殺し」① 「……どーすんの、これ」  私と朱音の間に置かれたサラダ皿の中に、小指の爪ぐらいのサイズの小石が入っている。その数、およそ百個。  こんなに集まる…

中村朔
1か月前
29

【眠らない猫と夜の魚】第11話

「落下と移動」③  翌日、亜樹といっしょに、投身自殺があったと思われる三島ビルにやってきた。  現地には3階建ての長細い雑居ビルが2つ並んでいて、三島ビルはそのひ…

中村朔
1か月前
17

【眠らない猫と夜の魚】第10話

「落下と移動」②  爺ちゃんはウキウキしながら釣り竿を磨いていた。 「釣りに行くの? また亜樹と?」 「ああ」 「亜樹は私の彼氏なんだけど」 「心配するな、夕まずめ…

中村朔
1か月前
12
固定された記事

【眠らない猫と夜の魚】 第1話

あらすじ不登校の小学生、草薙波流は夜の街を歩く。 実際に歩くわけではない。眠っている間に波流の意識だけが体を抜け出して、夜の街を歩くのだ。それを街で怪談を収集する大学生の黒崎朱音は「夜歩き」と呼び、波流が夜歩きで見たものを調べている。 夜歩きを始まったのは、去年の夏祭りの日に波流が「神隠し」にあってからで、朱音は神隠しと夜歩きの間に関係があると考えているからだ。 ある日の夜歩きで、波流は誰かが森の中に死体のようなものを埋めるのを目撃する。朱音はいつものようにその場所を探し始

【眠らない猫と夜の魚】 エピローグ

「夜を泳ぐ」 夜明け前。 真夜中と朝のちょうど中間くらい。 空の碧が一番濃くなる時間に、街を歩く。 夜の街を歩くのが好きだ。 目的なんてなくて、 ただ単に、夜を歩くことが好きなだけ。 寝静まった商店街を通り抜けて、 コンビニのガラスに並ぶ雑誌を横目に見て、 河川敷に座って震える大気に耳を澄ませて。 そんな風に人気のない街を歩き回りながら、 夜の断片を拾い集める。 歩く人はほとんどいない。 すれ違うのは猫ばかり。 影絵のような建物のシルエット。 誰もいない交差点で点滅

【眠らない猫と夜の魚】 第22話

「猫と魚」④   夜の三珠神社は怖いくらいに静まり返っていた。その静寂を破って微かに土を掘る音が聞こえてくる。  神社の敷地に隣接して建っている剣道場に近づくと、床下に入る格子が外されているのが見えた。音はそこから聞こえてくるようだ。近づくとぴたりと音が止んで、床下に入る口から波流がぬっと顔を出した。 「……なんだ、まだ用があるのか」  サダコみたいに這い出て来ながら、波流の姿をした猫が泥だらけの体をパタパタと叩く。敵意らしいものは感じなかったけど、強いて言えば、ものすごく嫌

【眠らない猫と夜の魚】 第21話

「猫と魚」③  小さな頃から、夜が好きだった。  長い夜の中で、怖い話とかUFOの話とか、夜の中で起きる話を読むのが好きだった。お母さんは仕事で遅いから、夜はたいていひとりで過ごした。だから夜は、誰の干渉も受けない、誰の邪魔も入らない私だけの時間だった。灯りを落とした夜の部屋で布団に潜ると、屋根裏部屋に張ったテントの中にいるみたいに安心することができた。  昼の世界は苦手だった。  人の多さと音の多さは、夜に慣れた私を落ち着かなくさせた。私は昔から表立って意見を言うのが苦

【眠らない猫と夜の魚】 第20話

「猫と魚」② 「またお前か」  赤い目の波流は、興味なさそうに言った。  境内を埋める猫たちとともに、赤い瞳で瞬きもせずに私を見ている。しばらく待ったが、自分から話すつもりはなさそうだった。 「……波流」  試しに声をかけたけど、無反応。 「……じゃないんだよな?」  そう付け加えると始めて、フンと短く鼻を鳴らした。暗くてわからないけど笑ったようだった。 「……波流じゃないなら誰だ」 「猫だよ」 「猫?」 「そう、猫。夜の中でしか生きられない、弱い生き物だ」  反応を楽しん

【眠らない猫と夜の魚】 第19話

「猫と魚」① 「いてっ」  助手席のドアガラスに額をぶつけて目が覚めた。もう三度目だ。ガラスには涙目の私が映っている。その後ろに呆れ顔の亜樹。 「朱音、着いたら起こすから寝てていいよ」 「……いい。帰って波流の隣で寝る」 「じゃあまっすぐ帰るよ」 「あ、コンビニだけ寄りたい。波流にアイス買ってく」  そう返してから窓の外に目を向ける。窓の外に広がる市街地は、すっかり夜の薄闇の中に包みこまれていた。  オカンタイプの看護師長は余計な詮索をせず、「任しときな」と分厚い胸を叩いて

【眠らない猫と夜の魚】 第18話

「神隠し」③  波流が試合をすることについては吾妻さんも難色を示していたが、波流のやる気に押し切られ『吾妻さんが審判をする』という条件で了承した。   音也側は先鋒から副将までが音也の教え子である小学生4人。  大将は音也だった。 「え。なんで出るの? 小学生5人でいいでしょ」 「大将=自分って考えしかないんだよ。お山の大将だから」  朱音が興味なさそうに言う。 「でも5人て。こっち2人じゃん」 「3人貸してやるって言われたけど断った。変なの入ると波流が動揺するし。あとこっち

【眠らない猫と夜の魚】 第17話

「神隠し」② 「小夜、ほい」 「ん、ありがと」  水鳥の声に我に返って珈琲のペットボトルを受け取る。表面に浮いた水滴に近づきつつある夏を感じた。 「私も珈琲飲みたいなー。けどまだ飲んじゃだめなんだって」  ベッドに上体を起こした素子さんが唇を尖らせる。 「退院したらアボカド来てよ。店長から送られてきた秘蔵のブラック・アイボリー淹れたげるから」  水鳥が素子さんに向けて親指を立てた。 「えっ、それ美味しいやつ?」 「前に飲ませてもらったけど、独特の甘みがあってスペシャルな味がし

【眠らない猫と夜の魚】 第16話

「神隠し」① ■怪異蒐集No. - -(未公開) ■タイトル:神隠し ■話者:Aさん、小学生 ■記述者:黒崎朱音  市内の小学校に通うAさんの話。  みたま市では7月に「みたま送り」という夏祭りが行われる。  祭りでは三珠神社の舞殿を使って奉納演劇が行われ、その演者は毎年地元の小学生から選ばれている。その年は、Aさんも巫女の役で選ばれていた。演劇の筋書きは昔から変わっておらず、苦しみを切り離す術を持った巫女が人々から苦しみを切り離し、箱に詰めて鎮めるというものだった。 (

【眠らない猫と夜の魚】 第15話

「地蔵殺し」④ 「……どーすんの、これ」  というわけで私の家に、願いが叶う石(×100)はやって来た。工事現場の噂や小学生の話、そしてさっきの実体験から考えて、怪奇現象の原因がこの石である可能性は高い。捨てようかと思ったけど、お地蔵様の欠片をその辺にポイするわけにはいかず、半分ヤケで持ち帰ってきた。  石をサラダ皿に移して何か変化がないか調べたりしてみたけど、目に見える変化はなかった。今はエコバッグに戻して、リビングの隅に置いてある。さっきからナノとクリオがかわりばんこ

【眠らない猫と夜の魚】 第14話

「地蔵殺し」③ 「は? 猫地蔵を砕いた石?」  小夜がソファの背もたれに張り付いて足元のエコバッグから距離をおいた。  時刻は20時。私たちは未だ地縛霊のようにファミレスに居座っている。小学生の相手を始めたのが12時だったから、もう8時間だ。窓から見える海岸はすっかり闇に沈み、車のライトを受けた白波がたまに浮かんでは、海の存在を思い出させる。  小学生の相手でパワーを使い果たした私たちは、各々カロリーを補給中。たいしてカロリーを使わなかったはずの小夜の前にはどでかいパフェ

怪異蒐集 『𡚴(やまめ)』

■話者:Tさん、組合員、30代 ■記述者:八坂亜樹  森林組合に所属するTさんは、日常的に山に入って現状調査や測量を行っている。山ではビニールテープやペンキで木に印がつけられていることがある。多くは林業関係者のものだが、登山者や狩猟関係者のもの、中には一般人がつけた山菜等の目印もある。だが稀に、どれとも判別できないものもあるそうだ。  組合で働き始めて間もないころ、Tさんは測量のために同僚と山に入った。しかし作業を始めてすぐ測量機器が故障してしまい、代替器を取りに事務所に

【眠らない猫と夜の魚】 第13話

「地蔵殺し」②  アボカドのクローズ作業を手伝ってから、小夜は宣言通りに帰っていった。  小夜は心霊スポット巡りの類は絶対にやらない。前に心霊スポットであることを伏せて連れて行ったら、半日くらい口を利いてくれなかった。半日というところに小夜の優しさがある。  というわけで、朱音をGSF1200のタンデムシートに乗せて、二人で目的の工事現場へ。朱音のリクエストで海岸通りを流したりしたから、工事現場に到着したのは22時を過ぎた頃だった。怪異の出待ちをするにはまずまずの時間だ。

【眠らない猫と夜の魚】 第12話

「地蔵殺し」① 「……どーすんの、これ」  私と朱音の間に置かれたサラダ皿の中に、小指の爪ぐらいのサイズの小石が入っている。その数、およそ百個。  こんなに集まるなんて予想外だった。さすがの紅音も困り顔だ。予想外なことはそれに加えてもうひとつ。  石をひとつ摘んで手のひらで転がしながら、朱音が訊く。 「水鳥はさっきのアレ、これのせいだと思う?」 「どう考えてもこれのせいでしょ……」  タイミング的にもそうとしか思えない。  これは『願いが叶う石』だ。だからこれだけたくさん集ま

【眠らない猫と夜の魚】第11話

「落下と移動」③  翌日、亜樹といっしょに、投身自殺があったと思われる三島ビルにやってきた。  現地には3階建ての長細い雑居ビルが2つ並んでいて、三島ビルはそのひとつだった。どちらも薄汚れた外壁にひびが馴染んだ、年季を感じさせる佇まいだ。 「飛び降りがあったとして、どこに落ちたんだろ」 「ビルとビルの隙間かな」  隣のビルとの隙間に、1メートルくらいの狭い空間がある。隙間を覗くと、隙間に面したビルの壁は、明かり取りの小さな窓しかなかった。 「目撃譚が音だけなのは、見つ

【眠らない猫と夜の魚】第10話

「落下と移動」②  爺ちゃんはウキウキしながら釣り竿を磨いていた。 「釣りに行くの? また亜樹と?」 「ああ」 「亜樹は私の彼氏なんだけど」 「心配するな、夕まずめ狙いだから夜には帰す」 「別にいいけど……で、今日は何やればいい?」 「先月分の帳簿の入力を頼む」  目が弱くなってきた爺ちゃんは、データの入力を孫娘の私に頼む。それで空いた時間は、たいてい釣りに出かける。相方はもっぱら亜樹だ。亜樹、最近は私とデートするより爺ちゃんと釣りに出かけることのほうが多いんじゃないだろ